第200話 証拠もないのに疑うのか!?
ヘレンは事件を解決するため、容疑者全員とアマイモン辺境伯家を自分達のいる部屋に呼ぶことにした。
係員に指示を出してから5分もかからず、事件関係者と思しき者が揃った。
(アマイモン辺境伯家の参加者って、聞き覚えのある声だと思ったらミーアだったのか)
ここに来た時点では仮面を着けたままだったが、その見た目からしてアマイモン辺境伯家の参加者がミーアだとライトは見抜いた。
それと同時に、ミーアがピコハマーを欲しがったのはツッコミのためなんじゃなかろうかと思ってしまった。
「なんでウチ以外も呼び出されとるん? ピコハマーはウチが落札したんやけど」
「それについて理由を説明するわ。その前に、貴方達には仮面を取ってほしいの」
ミーアは商品の受け取りに来たはずなのに、関係ない者達がこの場にいるので疑問を口にした。
その疑問を解消する前段階として、ヘレンが仮面を外すように指示を出した。
ただならぬ雰囲気になっていることもあり、その場にいるオークション参加者全員が素直に言うことを聞いた。
「ん? やっぱりライト君やん。それに、会長さんにイルミさんまでおるやん。久し振りやな」
「久し振り、ミーア」
「結界張ってもろうて感謝しとるで。ありがとな」
「どういたしまして」
「でもなんでこの場におるん?」
「元々別の用事でここにいたんだけど、色々あってここに残ってるんだ。叔母様から説明があるはずだよ」
ライトがヘレンの方を向くと、ヘレンはその通りだと頷いてみせた。
「貴方達をここに呼んだ理由なんだけど、ピコハマーを運んでいた係員が襲撃され、それが盗まれたからよ」
「なんやて!?」
ミーアは声に出して驚き、それ以外の容疑者達も声に出しはしないものの驚きを隠せていなかった。
(流石は貴族かその代理だね。動揺から犯人を絞るのは難しそうだ)
ライトはじっくり観察したものの、貴族ともなれば腹の探り合いをしない方が珍しくこのような状況下でボロを出す方が珍しい。
パーシーやヒルダ、ミーアのように顔に出るのは限りなく少数派だ。
それゆえ、ヘレンの言葉から犯人の絞り込みをすることはできなかった。
ミーアは落札したピコハマーが盗まれたことが信じられず、縋るような思いでヘレンに訊ねた。
「なあ、
「残念ながら事実よ。競売後に商品を壇上から移動させるタイミングで係員が襲われたの。係員は強さよりも信用できる者を優先して選んだから、手練れに襲われると勝てない者もいるわ」
「ほんならウチはどないすればええねん? 商品はもろうてないんやから、ウチの手元に来るまで代金は払わへんで?」
「それは勿論よ。というより、ここに大陸北部の貴族を集めた理由がわからない程、貴方達が頭の回らない者だとは思ってないわ。ここに集められた理由、わかってるわよね?」
ヘレンはミーアの言い分に頷いてから、この場で沈黙を守る大陸北部の貴族達に視線を向けた。
「まさか、我々を疑ってるのか!?」
「横暴じゃないか!」
「証拠もないのに疑うのか!?」
(あっ、なんか犯人っぽいこと言ってる人がいる)
とんだ偏見だが、ライトは最後に声を上げた者に犯人フラグが立ったため反応してしまった。
もっとも、ライトだって犯人フラグを立てたからそいつが犯人だなんて暴論は振りかざさない。
この状況でできることを黙々とするだけだ。
ということで、ライトは今<鑑定>で大陸北部のオークション参加者とその使用人をチェックしている。
オークション中に講堂を出入りするとしても、それは貴族あるいはその代理ではなくその使用人だ。
それゆえ、使用人から優先して<鑑定>で不審な点がないか探した。
(ビンゴ)
ライトは4人目で当たりを引いた。
-----------------------------------------
名前:バクラ=ファボラット 種族:人間
年齢:38 性別:男 Lv:40
-----------------------------------------
HP:870/920
MP:1,160/1,780
STR:700
VIT:900
DEX:1,440
AGI:1,020
INT:830
LUK:1,730
-----------------------------------------
称号:ベーダー侯爵家執事
二つ名:
職業:
スキル:<
装備:執事服
仕込みナイフ×8
フェイクミサンガ(破損)
備考:負傷(右脚)
-----------------------------------------
本来であれば、フェイクミサンガの効果で<鑑定>を使っても違うステータスが表示されたのだろう。
フェイクミサンガとは、消耗する
使用してから30分だけ自分のステータスを誤魔化すことができ、使用時間の経過かそれ自体が傷つくと千切れる。
そして、フェイクミサンガはステータスを誤魔化せてもフェイクミサンガを装備していることを誤魔化せないので、<偽装>の下位互換どころか欠陥品扱いされる。
バクラの場合、右足首に着けていたフェイクミサンガが千切れているらしく、それを捨てるタイミングがなくて隠し持っていたようだ。
HPとMPが減っており、右脚を負傷していることから、バクラがピコハマーを移動させていた係員を襲った可能性は高いだろう。
そう考えたライトは、ざわつくその場ですぐに行動に移った。
「すみません、念のため拘束します。【
事前に断りを入れると、ライトはバクラの両手両足を光の鎖で拘束した。
「
「ベーダー侯爵、落ち着いて下さい。ちゃんと理由はあります」
バクラの雇い主であるベーダー侯爵が、光の鎖を見るや否やライトに掴みかかりそうな勢いで抗議した。
ライトは理由もなく拘束しないと言い、ヒルダとイルミ、アンジェラがライトを庇うように前に出るとベーダー侯爵は止まった。
元々短気な性格ではあるものの、格上の公爵に掴みかかれば不敬罪に該当する。
それ以前に、ライトを守らんと前に出た3人を相手にすれば、どう足掻いても勝てる自信はないので止まらざるを得なかったというのが正直なところだ。
「ライト君、説明してちょうだい」
「わかりました。バクラさんですが、ステータスをフェイクミサンガで偽装してます。その効力がなくなってたようで、興味深いステータスを確認できましたよ」
「なんですって!?」
「なんだと!?」
ヘレンとベーダー侯爵がライトの告げた事実に驚いた。
「フェイクミサンガなんて、欠陥品もいいところで今は流通してないはずよ?」
「その思い込みを利用したんでしょうね。事実、バクラさんは破損したフェイクミサンガを隠し持ってます。体を調べればわかりますよ」
ライトがそう言った瞬間、アンジェラが素早くバクラをボディーチェックして執事服の内側のポケットから千切れたミサンガを見つけて取り出した。
ついでに、暴れられると面倒なので全ての仕込みナイフもアンジェラが回収した。
それにより、室内がざわついてバクラに疑いの視線が集まった。
「僕は大陸北部に明るい訳ではありません。ですから、皆さんに質問させてもらいますが、
「
「こいつがそうだって言うのか!?」
「おのれよくも姿を現したな!」
「叩き切ってくれるわ!」
ライトの質問により、大陸北部の貴族達の疑いの目が親の仇を見る目へと変わった。
ここまでの反応が起きるとは予想外だったので、ライトはヘレンに説明を目で求めた。
ヘレンもライトがピンと来ていないと理解し、すぐに説明し始めた。
「あのね、
「そうでしたか。では、その
「<
「盗まれた物が痕跡すら見つからないのはそのせいだったのか!」
「妻にプレゼントするはずだった宝石を返せ!」
バクラが<
「落ち着いて下さい。それよりも、これがバクラさん個人の仕業なのか、そうでないのかを明らかにすべきだと思いませんか?」
その瞬間、室内が一瞬にして静かになった。
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