第196話 俺がヘルハイル教皇国教皇ローランド=ドヴァリンである!

 オークション当日、ライト達は教会の地下にある講堂に一番乗りした。


 普段は使われない施設のため、ライト達も講堂に来たのは初めてである。


 講堂には特に位が高い貴族用の2階席が存在しており、ライト達が通されたのはそちらである。


 具体的には公爵家と辺境伯家が利用可能となっている。


 今回のオークションだが、参加する際に仮面舞踏会に着ける仮面が配られている。


 この仮面は認識阻害の魔法道具マジックアイテムということはなく、ただの仮面だ。


 オークションというものは、良くも悪くも参加者の趣味嗜好が明らかになる。


 その際に個人を特定できてしまうと都合が悪いこともあるので、仮面をつけて参加するという訳だ。


 オークションの開始時刻になると、檀上にクローバーの4人が舞台袖から現れた。


 それぞれの手にはしっかりと拡声器マイクが握られている。


「おはようございます! クローバーです!」


「今回のオークションだけど、オークショニアは私達4人が担当するよ!」


「大役を与えられて緊張気味です! 温かい目で進行を見守って下さい!」


「オープニングということで、1曲だけ歌わせてもらえることになってます!」


「「「「聴いて下さい! ”神のみぞ知る”」」」」


 (なるほど。叔母様はしっかりしてるや)


 ライトはクローバーがオークショニアに選ばれたことに感心した。


 貴族かその代理人が集まるこの場は、彼女達の宣伝の場として申し分ない。


 アリトンノブルスの舞台が成功したことで、クローバーの噂はヘルハイル教皇国に広がっているため、その実力を知りたいと思う者は少なくないだろう。


 オープニングならば、1曲ぐらい歌ったってその場を盛り上げるためだという風に思ってもらえるだろうから、不快に思う者はいないはずだ。


 ライトからプロデューサーを引い継いだヘレンならば、クローバーの活躍する機会を増やすためにこれぐらいやるに違いないと思い、ライトはヘレンの手腕に感心したという訳である。


 実際、クローバーが”神のみぞ知る”を歌い終えると、貴族達はスタンディングオベーションをする程クローバーを評価している。


 貴族達が席に着くと、メアが代表して口を開いた。


「盛大な拍手をいただきありがとうございました。これより、オークションを開催いたします。それでは、教皇様よりお話していただきます。教皇様、よろしくお願いします」


 メアがそう言うと、ローランドが檀上に現れた。


 その手にはクローバーと同じく拡声器マイクが握られている。


「俺がヘルハイル教皇国教皇ローランド=ドヴァリンである!」


「教皇様、知ってます」


 (メアさん、心が強くなりましたね)


 周知の事実を拡声器マイクで叫ぶローランドに対し、メアが冷静にツッコみを入れるのを見て、ライトはメアの心が強くなったと感じた。


「すまん。拡声器マイクを使って言ってみたかったんだ。後悔はしてない。それはさておき、今日はありとあらゆる物が出品されてる。目玉商品も用意してるから楽しんでくれ。以上だ」


「教皇様、ありがとうございました。続きまして、本日のオークションの注意事項をセシリーから説明させていただきます。セシリー、お願いします」


「は~い! じゃあ、私からオークション参加にあたって絶対に守ってほしい7つのルールを説明するよ!」


 セシリーは元気良く返事をすると、今回のオークションで守るべきルールについて説明し始めた。


 具体的には以下の通りである。



 ・参加者と出品者の同意のない身元の探り合いの禁止

 ・参加者同士の同意のない金銭の貸し借りは禁止

 ・貴族の位を利用した圧力の禁止

 ・競売中の大声での会話の禁止

 ・場内外を問わず強奪の禁止

 ・参加者は競り落としたい物があれば番号札を掲げて金額を宣言すること

 ・競売は10万ニブラ単位で行うこと




 (妥当なルールだね。これなら位の低い貴族でもオークションに参加できる)


 セシリーの説明を聞き、ライトはオークションのルールがよく考えられていると思った。


 勿論、ヘレンがオークションを開催するにあたって考えたのだろう。


 ルールが多過ぎしてしまうと参加者が覚えきれないが、7つかつそれぞれが常識的な内容であれば覚えられなくもない。


「セシリー、ありがとうございました。それでは早速、1つ目の品から紹介します。ネム、ニコ、お願いします」


「「は~い」」


 メアに頼まれた2人は檀上に銅像を台車に乗せて運んで来た。


「さて、最初の品はこちらです。名高い彫刻家スカルプターチェザーレ=ティーチの作品、”破魔の騎士”の銅像です。100万ニブラから始めます」


「150万ニブラ!」


「200万ニブラ!」


「250万ニブラ!」


「300万ニブラ!」


「310万ニブラ!」


「320万ニブラ!」


「400万ニブラ!」


 400万ニブラを最後に競う者が誰もいなくなった。


「400万ニブラを超える方はいらっしゃいませんか? ・・・いないようですので、13番の方が400万ニブラで落札です。おめでとうございます」


 最初の品は400万ニブラで落札した。


 ヒルダはそれを見てライトに訊ねた。


「ライト、あの銅像ってそんなに価値があるの?」


「人によっては欲しいんじゃない? あの銅像ってアンデッド避けになるって言い伝えがあるし」


「<鑑定>ではどうだったの?」


「勿論そんな効果はないよ。まあ、縁起が良い物だから欲しい人もいるんじゃないかな」


「ふ~ん。私だったら、ライトがいてくれた方がずっと安心できると思うな」


「ありがとう。僕もヒルダがいてくれた方が心強いよ」


 ライトとヒルダの間に甘い空間が展開された。


 ツッコミは不在なので誰も2人を止めることはない。


 その一方、檀上のメアは次の商品が運ばれるのを待ってから口を開いた。


「次の商品に移りましょう。その昔討伐されたネームドアンデッド、ジャックナイフとの戦闘を描写した絵画”ステゴロ最強”です。作者は不明ですが、力強いタッチが勇気を与えてくれる気がします。こちらも100万ニブラからスタートです」


「150万ニブラ!」


「250万ニブラ!」


「300万ニブラ!」


「350万ニブラ!」


「400万ニブラ!」


「450万ニブラ!」


「550万ニブラ!」


「600万ニブラ!」


「650万ニブラ!」


 650万ニブラが宣言されると、今まで続いていた声が止まった。


「650万ニブラを超える方はいらっしゃいませんか?」


 メアが声をかけると、勝負に出るか悩んでいた者が番号札を掲げた。


「660万ニブラ!」


「670万ニブラ!」


「680万ニブラ!」


「690万ニブラ!」


「700万ニブラ!」


「700万ニブラを超える方はいらっしゃいませんか? ・・・いないようですので、7番の方が700万ニブラで落札です。おめでとうございます」


 ”ステゴロ最強”の落札を狙っていたのは7番と19番で、19番は700万ニブラ以上は払えなかったらしく7番が落札した。


「お姉ちゃんもちょっと興味あったかも」


「イルミ姉ちゃんも肉弾戦がメインだもんね」


「うん。あの絵を見ると、無性に戦いたくなるよね」


 (参戦しなくて良かった)


 もしも購入していたら、”ステゴロ最強”を見たイルミから毎日模擬戦を挑まれていたかもしれないと思うと、ライトは心底名乗り出なくて良かったと感じた。


 ライトも男子なので、”ステゴロ最強”に思うところはあったのだ。


 それでも、高い代金を支払ってまで欲しいとは思わなかったから踏み止まれた。


 ライトの職業が闘士ウォーリア等の近接戦闘職ではなく、賢者ワイズマンだったことが幸いしたのだろう。


「次の商品です。瘴気に強いとされる浄化石の棺です。呪武器カースウエポンをしまっておきたいと思う方にオススメですね。200万ニブラからのスタートです」


 (あれってダーインスレイヴが入ってた棺と同じ素材じゃん)


 ライトがその棺に<鑑定>を使うと、今は<道具箱アイテムボックス>の肥やしと化している棺と同じ素材でできていることがわかった。


 <鑑定>を持っている者ならば、その価値を理解しているので番号札が次々に上がっていく。


「350万ニブラ!」


「450万ニブラ!」


「500万ニブラ!」


「550万ニブラ!」


「650万ニブラ!」


「700万ニブラ!」


「800万ニブラ!」


「850万ニブラ!」


「900万ニブラ!」


「900万ニブラを超える方はいらっしゃいませんか? ・・・いないようですので、29番の方が900万ニブラで落札です。おめでとうございます」


(こんなに人気あるんだ。確かに、【浄化クリーン】がなければ使ってたかもな)


 自分が<法術>を使えるおかげで出番がないため、ライトは<道具箱アイテムボックス>の中に900万ニブラが入っていることに申し訳なさすら感じた。


 オークションはまだ3品目が落札したばかりだ。


 まだまだ先は長い。

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