第197話 OK。そのセリフは僕の目を見て言ってごらん
浄化石の棺の次に運ばれて来たのは、どこからどう見てもライトが前世で見たことのある物だった。
(なんで刺股があるの?)
どういう訳か壇上に運ばれて来たのは刺股であり、まさかニブルヘイムで見ることになるとは思っていなかったので首を傾げた。
「次の商品は
(ウォールドンって壁ドンのことか。デメリットが精神攻撃とは・・・)
メアの説明を聞き、ライトはウォールドンの名前の由来を察した。
デメリットが人によっては死にたくなるぐらい恥ずかしそうだが、それでも拘束系の
「400万ニブラ!」
「500万ニブラ!」
「600万ニブラ!」
「700万ニブラ!」
「800万ニブラ!」
「900万ニブラ!」
「1,000万ニブラ!」
「1,100万ニブラ!」
「1,200万ニブラ!」
「1,300万ニブラ!」
(ペースが速い。軽く1,000万ニブラを超えちゃったよ)
次々に掲げられる番号札を目の当たりにして、ライトは改めて使い勝手が良い
ウォールドンだが、ヴェータライトやナグルファル等のようにデメリット封じができる
その方法は2つある。
1つ目は根性論であり、恋愛の失敗なんて堪えてみせるという心構えだけで対応する方法だ。
2つ目はリア充爆発しろと思う者もいるだろうが、そもそも恋愛で失敗しないモテまくりの者が使うという方法である。
前者は涙を流すことになるかもしれないが、後者は本当に何も代償を必要としない。
落札した者がどんなリアクションをするかで、その者が前者と後者のどちらで対応するかがわかるはずだが、残念ながら参加者全員が仮面を着けているのでわからない。
「1,800万ニブラ!」
「1,800万ニブラを超える方はいらっしゃいませんか? ・・・いないようですので、17番の方が1,800万ニブラで落札です。おめでとうございます」
1,800万ニブラと落札した時、17番が腕を掲げた姿は覚悟を背負ったようなプレッシャーを放っていた。
(羞恥心に堪える覚悟を決めたんだろうな)
ライトはその姿を見て、後者ではなく前者だと察した。
先程まで競り合いをしていた参加者達も察したのか、17番の覚悟に惜しみない拍手が贈られた。
「若様にあれで拘束してほしかったですね」
「する訳ないでしょ?」
「オラオラした若様に迫られてみたいものです」
「人の話聞けよ変態」
「ありがとうございます」
「はぁ・・・」
罵られて恍惚の笑みを浮かべる
「スタートから6倍なんて流石は
メアが言葉を区切ると、セシリーとネム、ニコが台車に乗せて
その
(サイズは違うけどピコピコハンマーじゃん!)
どこからどう見てもピコピコハンマーな
「こちらはピコハマーと言います。STRの数値が300以上の者にしか扱えず、殴る際にピコンと敵味方問わず脱力させるような音が鳴りますが、殴った相手の動きを1秒間止められます。500万ニブラからスタートです」
「800万ニブラ!」
「1,200万ニブラ!」
「1,600万ニブラ!」
「1,700万ニブラ!」
「1,800万ニブラ!」
「1,900万ニブラ!」
「2,000万ニブラ!」
「2,100万ニブラ!」
「2,200万ニブラ!」
「2,300万ニブラ!」
(もう2,000万超えた!? ピコピコハンマーなのに!?)
前世の感覚が抜けないせいで、ピコハマーが2,000万ニブラ以上の価値になったことがライトにはギャグにしか思えなかった。
しかし、会場内では競り合いがデッドヒートした。
「3,600万ニブラ!」
「3,700万ニブラ!」
「3,800万ニブラ!」
「3,900万ニブラ!」
「4,000万ニブラ!」
「4,000万ニブラを超える方はいらっしゃいませんか? ・・・いないようですので、29番の方が4,000万ニブラで落札です。おめでとうございます」
(信じられるか? ピコピコハンマーが4,000万ニブラなんだぜ?)
29番の番号札を掲げる者がガッツポーズまでしているのを見て、ライトはどうしてもその嬉しさを理解できなかった。
例え自分には理解できないとしても、スタートから8倍の金額で落札となれば出品者は大満足だと言えよう。
とりあえず、この競売で満足した者がいるならば、それを自分がとやかく言う必要ないだろうとライトは思うことにした。
2回連続で
「お次は<火魔法>の魔導書です。こちら大変貴重な物ですので、スタートは1,000万ニブラからとさせていただきます」
メアがそう言った瞬間、ヒルダがライトの肩を叩いた。
「ライト、あれをお義母様に買ってあげて。魔導書が売りに出されることは滅多にないの。手に入れたらお義母様が喜ぶわ」
「わかった」
ヒルダにアドバイスを受け、ライトは購入する意思を固めた。
「2,000万ニブラ!」
「2,500万ニブラ!」
「3,000万ニブラ!」
「3,500万ニブラ!」
「4,000万ニブラ!」
「4,500万ニブラ!」
(母様へのプレゼントか。本気を出そうかな)
「1億ニブラ!」
「なん・・・だと・・・」
「なんてことだ! 所詮この世は金か!」
「巨象と蟻の戦いじゃないか・・・」
ライトが番号札を掲げて参戦した瞬間、講堂内が諦めの声でざわついた。
2倍以上の価格に跳ね上がって桁が変われば、勝ち目はないと参戦していた者達がそうなってしまうのも当然である。
「1億ニブラを超える方はいらっしゃいませんか? ・・・いないようですので、1番の方が1億ニブラで落札です。おめでとうございます」
(ふぅ。落札できて良かった)
これ以上の値上げがなく落札できたことで、ライトはホッとした表情になった。
それとは対照的に、ヒルダは目を丸くしていた。
「そんなにお金を自由に使えるの?」
「まあね。治療院の稼ぎと賢者シリーズの売上、叔父様達からの依頼での報酬、結界を張った時の報酬があるから大丈夫」
「ライトって改めて思うけどお金持ちだよね」
「領地のお金に手を着けちゃ駄目だから、自分で自由に使えるお金をコツコツ貯めてたんだ」
「私も散財する方じゃないけどライトを見倣わないと・・・」
「ヒルダは大丈夫。それよりもイルミ姉ちゃんの方が、ねぇ?」
ライトはヒルダよりもずっと問題のある姉に話を振った。
「お、お姉ちゃん、貯金得意だよ」
「OK。そのセリフは僕の目を見て言ってごらん」
「オネエチャン、チョキン、トクイ」
「なんで片言なのさ。というか、イルミ姉ちゃんがしょっちゅう豪快に買い食いしてるのは知ってるから」
「うぅ、ライトがお姉ちゃんを虐めるぅ・・・」
「いや、何もしてないから。むしろ、買い食いしてるのはイルミ姉ちゃんだから」
ライトとは違って貯金が苦手なイルミは、ダーインクラブでよく買い食いする姿が目撃されている。
その食べっぷりが見ていて気持ち良いと言うことから、店の人にサービスされることも珍しくない。
教会所属の
アンデッドとは違い、寸止めやリクエストに応じた戦闘にも応じるから、イルミは
その上、イルミは親しみやすい人柄なので、年上の
そんなイルミが貯金していないことは火を見るよりも明らかであり、パーシーもイルミがオークションに参加に同行したいと許可を求めて来た時、何も買えないのではと思った。
だが、イルミだけ居残りさせるのはかわいそうだと許可を出したという背景がある。
(アルバス、マジでイルミ姉ちゃんを娶るなら稼げるようになってね)
ライトはこの場ににいない親友が、将来イルミの心を射止められたとしても食費だけで家計が傾きかねないので心の中でエールを送った。
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