第190話 ライトのことならいくらでも支えてあげるよ
左腕を失ったペイルライダーは、ライトだけではなくイルミにも注意していた。
今まではライトだけ注意すれば問題ないと考えていたが、左腕を砕かれて初めてイルミも自分にとって脅威だと判断したからである。
だが、ちょっと待ってほしい。
ライトとイルミだけに注意していれば勝てると思っているのだったら、それは大きな間違いだと言えよう。
現に、ペイルライダーの背後にはいつの間にかアンジェラが忍び寄っているのだから。
スパパッという切断音がすると、ペイルライダーが纏っていた耐火ローブがはらりと地面に落ちてペイルライダーは丸裸になった。
丸裸と言っても、ただのスケルトンなので羞恥心もクソもないだろう。
しかし、耐火ローブがなくなってしまったことで、<炎上特攻>で自分のダメージを軽減することができなくなったのは見過ごせない。
耐火ローブの仇だとアンジェラを突き殺そうとしたが、後ろを振り返った時には既にアンジェラの姿はなかった。
振り返っても誰もいないとわかった時のペイルライダーは、間抜け以外の何者でもなかった。
「【
ヒルダが放った螺旋する水弾が高速でペイルライダーの後頭部に命中し、ペイルライダーはようやく気付いた。
今まで自分がやっていたのは舐めプであると。
自分が見下ろしている4人は、時間さえかけて良いのならば自分を倒せる可能性を秘めていると。
それに気づけば、ペイルライダーの戦い方は先程までとはガラリと変わった。
ペイルライダーの騎乗する幽体の馬が、その口から火を吹き始めた。
「【
火は光の壁に防がれ、ライト達に届くことはなかった。
ところが、ペイルライダーは馬の吐いた火が防がれるだろうことを理解していた。
(おかしい。防がれるとわかっててなんで攻撃を続ける?)
光の壁に防がれてなお、ペイルライダーは幽体の馬に<
ライトが<
(近づけさせない気か・・・。いや、違う! そういうことだったのか!)
ライトはようやく気がついた。
人間にとって、呼吸は生きていくためにしなければならない動作だ。
その呼吸により、人間は体内に酸素を取り込んでいる。
では、密閉した空間で火を使うことが何をもたらすのか。
答えは簡単だ。
酸素が燃焼されて二酸化炭素が増える。
そのまま続ければ、呼吸を必要としないアンデッドであるペイルライダーは巻き添えを食うことなくライト達を窒息死させることができる。
それに気づけばライトの次の行動は決まっていた。
「【
ドーム内の空気が浄化され、ライト達に酸素が再び供給された。
その瞬間、ペイルライダーは愕然とした。
窒息したくなければ、ライトが【
ペイルライダーが苦戦を強いられているのは、ライトによって光のドームに閉じ込められていることが大きな要因である。
光のドームさえなければ、ペイルライダーは自由にライト達の頭上から攻撃を仕掛けられる。
だから、ライト達を窒息死させられなくとも、光のドームを解除させられればそれで良いと考えていた。
しかし、現実はペイルライダーにとって非常だった。
「残念だったな、ペイルライダー」
ライトがそう言うと、ペイルライダーは激高して<炎上特攻>を発動した。
耐火ローブがないせいで自分もダメージを受けているが、そんなことはどうでも良いからライトを早急に殺さねばならないと覚悟を決めたらしい。
アーマーキラーを前に突き出すと、ペイルライダーはライトに向かって運動エネルギーも加味した急降下突撃を仕掛けた。
「私がいる限り無駄だよ! 【
ライトへの攻撃は、ヒルダが技名を唱えた瞬間に防がれた。
【
生物に対して使えば、まず間違いなく溺死させられる凶悪な技なのだが、呼吸の不要なペイルライダーにとっては溺死させることは期待できない。
アンデッドが溺死なんてするはずがないのだから。
それでも、ペイルライダーの炎は消されてダイブの勢いは殺された。
それだけでライトにとっては十分だった。
「【
水の牢獄に【
アンデッドは瘴気に親和性が高い反面、聖気にとても弱い。
聖水の牢獄に閉じ込められたままでは、ペイルライダーはいずれほとんどの力を失なって簡単にやられてしまうと悟り、強引に上空へと逃げた。
「逃がさない。【【【【【
5つの光の鎖が、ペイルライダーを拘束せんと出現した。
だが、弱体化してもペイルライダーはしぶとく、アーマーキラーを身代わりにしてドームの天井付近まで逃げ延びた。
アーマーキラーが自分の近くに落ちたので、ライトはそれを<
これにより、ペイルライダーは武器を永久に失うことになった。
地面に落ちたままならば、戦闘中に拾える可能性だってあったかもしれない。
ところが、ライトがいるだけでその可能性は0に変わる。
<
ペイルライダーにとってライトという存在は、今までに戦ったどの相手よりも厄介な天敵であることは間違いない。
「おやおや、防具も武器もないなんてチャンスじゃないですか」
いつの間にかアンジェラがペイルライダーの背後に回り、右腕を数回斬りつける。
後ろに振り返った時にはアンジェラがおらず、その隙をヒルダは見逃さない。
「【
ヒルダが光の壁を足場にして上へ跳び、ペイルライダーの乗る幽体の馬に6連続の突きを放った。
聖水に浸かったことで動きが鈍り、グラムによる攻撃で更にAGIの数値が落ちれば、大技だって当たらないはずがない。
「お姉ちゃんのターン! 【
スカイウォーカーの効果により、光の壁を足場にせずにペイルライダーに接近すると、イルミの渾身の一撃が幽体の馬の腹に命中した。
その瞬間、幽体の馬が限界を迎えたらしく、ペイルライダーを置き去りにして光の粒子となって消えた。
それにより、空を移動する手段がなくなってしまい、ペイルライダーは地面へと落下した。
どうやら、<浮遊>のスキルは幽体の馬に帰属していたようだ。
地面に勢いよく墜落したペイルライダーは、武器と防具、馬、左腕を失ったスケルトンサモナーに等しい。
とはいえ、<配下召喚>を使おうとしても、ライトが先程【
こうなってしまえば、ペイルライダーはもはやスケルトンサモナーどころかただのスケルトンである。
落下ダメージがあったものの、無駄にHPが高くて削り切れていない。
光のドームから逃げることができず、幽体の馬という優秀な足もなくなった以上、ペイルライダーに許されたのはライト達によって袋叩きにされることだけだった。
筋肉痛になっていたイルミも、ライトの【
「みんな、これで倒せるよ。【
パァァァッ。
袋叩きにしてからしばらくして、一気にHPを削れるようになるとライトがとどめを刺した。
ペイルライダーは魔石と思念玉をドロップし、光の粒子となって消えた。
《ライトはLv58になりました》
《ライトはLv59になりました》
《ライトはLv60になりました》
ライト達の耳には、それぞれレベルアップやら称号の獲得を告げるヘルの声が届いていた。
そのアナウンスにより、ライト達はアリトンノブルスの月食を終わらせたことを実感することができた。
「ふぅ。疲れた」
そう口にした瞬間、ライトはMPの消費量が普段の比ではなかったことでふらついてしまった。
「ライト!」
そこに真っ先にヒルダが駆け付け、ライトが倒れないように抱き留めた。
「ありがとう、ヒルダ。ストックが空になるぐらいMPを大盤振る舞いしたのは久しぶりで疲れちゃった」
「ううん、良いの。ライトが頑張ってくれたおかげで、私達は誰も欠けることなくペイルライダーを倒せたんだよ。こっちこそありがとうだよ」
「少しだけ僕のことを支えててくれる?」
「ライトのことならいくらでも支えてあげるよ」
「ありがとう。【
ライトは手を組んでヘルに祈った。
そうすることで、ライトは<超回復>でも賄いきれなかったMPを回復し始めた。
ライトを抱き締めていられるヒルダは役得なので、疲れていたはずなのに精神的に充足して嬉しそうに笑っている。
アンジェラが妬ましそうにその様子を見ているうえ、イルミも疲れてその場で寝てしまうようなカオスな状況だったが、それはライトが動けるぐらいMPを回復するまで続くのだった。
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