第189話 腕1本も~らい!

 ライト達が対峙するアンデッドは、紫色の幽体の馬に跨り濃紺のローブを羽織ったスケルトンだった。


 これにアルバスの得物と同じ大鎌を持っていたならば、死神と表現するのに相応しかった。


 しかし、スケルトンの得物は馬上槍ランスだったため、どことなく惜しい。


 とりあえず、惜しかろうがなんだろうが危険な敵であることは間違いないので、ライトは<鑑定>でその強さを確認し始めた。



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名前:なし 種族:ペイルライダー

年齢:なし 性別:雄 Lv:65

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HP:12,000/12,000

MP:15,000/15,000

STR:3,000

VIT:3,000

DEX:2,000

AGI:2,000

INT:3,000

LUK:2,000

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称号:特殊個体ユニーク

二つ名:なし

職業:なし

スキル:<呪刺突カーススティング><人馬一体><浮遊>

    <衰弱霧ウィークミスト><呪火カースファイア><炎上特攻>

    <配下召喚><配下統率>

装備:耐火ローブ

   アーマーキラー

備考:なし

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 (うわっ、特殊個体ユニーク。おまけにロッテンキマイラよりもレベルが上じゃん)


 <鑑定>によって暴いたステータスを見て、ライトはペイルライダーとの戦闘が簡単には終わらないことを理解した。


 ロッテンキマイラよりもレベルが高く、<離合自在>を会得していない。


 つまり、分裂による弱体化で倒しやすくなるなんてことがこの戦いでは期待できないのだ。


 厄介な理由はまだ2つもある。


 1つ目はスキル構成だ。


 近接攻撃と遠距離攻撃だけでなく、バフとデバフに雑魚モブの召喚までできて、挙句の果てには空に浮いて離脱できる。


 ペイルライダーが特殊個体ユニークでなければ、人類は生存競争にあっという間に負けていたに違いない。


 2つ目はペイルライダーが持つアーマーキラーという馬上槍ランスだ。


 これは呪武器カースウエポンである。


 その効果は、刺した者のVITを一時的に30%カットするものであり、その代償として使用者は金属鎧を着られなくなるというものだ。


 もし、金属鎧を無理やり着ようものなら、アーマーキラーが反応して着た金属鎧が爆散する。


 ペイルライダーは耐火ローブしか着ていない。


 それゆえ、デメリットなくアーマーキラーを使えることになる。


 今回の敵は、ライト達にとって厄介でしかないというのが正直なところだ。


「敵はペイルライダー。Lv65の特殊個体ユニーク。能力値はロッテンキマイラより上。近接遠距離バフデバフ召喚浮遊なんでもござれ」


「・・・負けない」


「相手にとって不足なし!」


「これを倒せば私も若様とお揃いのスーパーノヴァです。戦わない手はありませんね」


 ライトが完結に<鑑定>でチェックした結果を告げると、ヒルダ達に気合が入った。


「手筈通りに頼むよ。【【【聖戒ホーリープリセプト】】】」


 3本の光の鎖が出現し、ペイルライダーを拘束しようとするが、ペイルライダーは宙に浮いてそれを難なく躱す。


 そして、周囲の瘴気を利用して<配下召喚>を発動する態勢に移った。


「【範囲浄化エリアクリーン】」


 増援を呼ばれては堪らないので、ライトが急いで技名を唱える。


 その結果、ペイルライダーの<配下召喚>が完全に発動し終えるまでに周囲の空気が浄化され、<配下召喚>は不発に終わった。


「空を飛ぶなら撃ち落とすまで! 【水弾乱射ウォーターガトリング】」


「お姉ちゃんも! 【輝拳乱射シャイニングガトリング】」


 水弾と光弾が上空のペイルライダー目掛けて放たれるが、ペイルライダーは幽体の馬から落ちることなくするりするりと攻撃を躱していく。


 ペイルライダーがバランスを崩さずにいられるのは、<人馬一体>と言うスキルのおかげだ。


 このスキルには、馬上でのバランス補正と馬上戦闘での相手に与えるダメージを増加させる効果がある。


 残念ながら、ペイルライダーを幽体の馬から落とすのは至難の業だろう。


「若様、足場をお願いします!」


「わかった! 【【【・・・【【防御壁プロテクション】】・・・】】】」


 アンジェラのリクエストに応じ、ライトは空中に光の壁をあらゆる角度で展開して足場を用意した。


 すると、アンジェラは身軽に足場を利用して宙に浮くペイルライダーに向かう。


「【聖半球ホーリードーム】」


 光のドームが出現し、ライトとヒルダ、イルミ、アンジェラ、ペイルライダーのみがその中に閉じ込められた。


 これにより、ペイルライダーが逃げられる範囲はかなり限定され、ここから脱出するにはライトのMPが尽きるかライトを気絶、あるいは殺すしかなくなった。


 そうなれば、ペイルライダーとしては真っ先に狙うべき相手がライトになるのは当然であり、自分に向かって来るアンジェラを無視してライトに向かって急降下した。


「ライトに近づかないで! 【聖六連星ホーリープレアデス】」


 聖気を纏わせたグラムを構え、ヒルダが右側面からペイルライダーの乗る幽体の馬に6連続の突きを放った。


 ライトを真っ先に倒すことに集中し過ぎたせいで、ペイルライダーはヒルダの攻撃に気づくのがワンテンポ遅れた。


 そのせいで、ヒルダの6連続の突きは幽体の馬に全て命中した。


 ここでグラムの効果が働く。


 攻撃の当たった者のAGIを一時的に20%カットする。


 それが【聖六連星ホーリープレアデス】の6発分なので、今のペイルライダーのAGIは元々の1/4強だ。


 こうなってしまえば、先程までのように全ての攻撃を回避できまい。


「【聖拳ホーリーフィスト】」


 キィィィン!


 左側面からのヒルダの攻撃だが、空に逃げるにはAGIが足りないせいでペイルライダーはアーマーキラーを自分の体とイルミの間に差し込んで防いだ。


 だが、イルミには<剛力>があってSTRの数値が増幅している。


 まともに受け止めれば、ペイルライダーの体もグラつかないはずがなかった。


「隙ありです!」


 アンジェラが足場を蹴り、ペイルライダーの背後に一撃を食らわせようとした。


 ところが、それは失敗に終わった。


 何故なら、ペイルライダーを中心に黄緑色の霧が発生し、ペイルライダーがキリの中に姿を隠したからだ。


 この霧は<衰弱霧ウィークミスト>で、まともに霧を吸い込んでしまえば衰弱の状態異常になる。


 しかし、アンジェラに<衰弱霧ウィークミスト>は効かない。


 <聖体>を会得しているからである。


 このスキルにより、アンジェラは状態異常にならないし瘴気が体に触れる前に弾かれるようになった。


 (アンジェラは良いとして、ヒルダとイルミ姉ちゃんに吸わせたら駄目だ)


「【範囲浄化エリアクリーン】」


 被害を受ける前に、ライトはドーム内の空気を浄化した。


 それにより、ライト達の視界がクリアになるが、その時には既にペイルライダーはドームの天井付近に避難していた。


 そして、グラムによって制限がかかっていたペイルライダーのAGIが元通りになった。


 ペイルライダーの全身が燃え始め、そのままライト目掛けて急降下した。


 <炎上特攻>を発動しても、ペイルライダーには耐火ローブがある。


 それゆえ、ペイルライダーは自身にほとんどダメージが入らない状態で、ライトに向かってダイブしている訳だ。


 しかしながら、ライトの守りは簡単に破れるはずがない。


「【【【・・・【【防御壁プロテクション】】・・・】】】」


 自分と火だるまになったペイルライダーの間に、光の壁を連続して展開することで、ペイルライダーがライトに近づくにつれてダイブした勢いとスピードが削れていく。


 勢いとスピードさえなくなれば、ペイルライダーに攻撃を当てるのは難しいことではない。


「【舞水刃ダンシングアクアブレード】」


 ヒルダが技名を唱えることで、水で構成された4つの刃が舞い、ペイルライダーが纏う火をあっさりと消した。


 燃えてさえいなければ、アンジェラだって至近距離から攻撃できる。


 ペイルライダーの背後に回り込み、アーマーキラーを持つ腕を3回斬りつけてその場を離脱した。


 それと入れ替わるようにして、イルミがペイルライダーの左側面に拳をぶつける。


「【聖壊ホーリークラッシュ】」


 ビキィッ!


 咄嗟に左腕を上げて庇ったが、そのせいでペイルライダーは左腕が粉砕された。


「腕1本も~らい!」


「イルミ姉ちゃん下がって! 【【【・・・【【聖戒ホーリープリセプト】】・・・】】】」


 腕をやられたことに怒り、ペイルライダーが右腕に持つアーマーキラーでイルミを突き殺そうとしたのを見て、ライトは咄嗟にいくつもの光の鎖でペイルライダーの攻撃を止めようと動く。


 光の鎖で捕まっては拙いとわかっているらしく、カッとなってイルミに反撃しようとしたペイルライダーは上空に離脱した。


 左腕を失ってなお、<人馬一体>のおかげでペイルライダーはバランスを崩さない。


 ドーム内での戦いはまだまだ続く。

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