第135話 よし、行こう。40秒で支度しな

 イルミは依頼者に話を聞くべきとアドバイスされ、生徒会室から飛び出して数分後にスカジとカタリナを連れて戻って来た。


「さあ、スカジ、カタリナちゃん、話を聞こうじゃないか」


「え? あの・・・」


「ラ、ライト君?」


 いきなり話を振られ、スカジとカタリナが困惑していた。


「イルミ姉ちゃん、ちゃんと2人に事情を話して連れて来た?」


「お姉ちゃん、全速力で連れて来た」


「・・・はぁ。すみません、ホーステッドさん。カタリナもごめん」


「い、いや、大丈夫」


「うん。ライト君は悪くないよ」


 イルミが問答無用で2人を守護者ガーディアンクラブから拉致って来たのだと理解すると、ライトの口から大きな息が吐き出された。


 スカジとカタリナが困惑するのも当然なので、とりあえずライトは謝った。


 イルミが思いついたら即行動することは、スカジも理解しているようなので、驚きはしたもののライトの謝罪を受け入れた。


 カタリナは状況を理解していなかったが、少なくともライトに悪気はないとわかったのでライトに謝罪しなくても良いと言った。


「イルミ姉ちゃん、連れて来るなら来るで説明しようか」


「は~い。2人に来てもらったのは、これを読んだからだよ」


 イルミは印籠を掲げるようにして、スカジとカタリナが出した依頼書を2人の目の前に出した。


「納得した」


「ライト君、引き受けてくれるの?」


「引き受けられるか判断に困ったから、詳しい話を聞きたいんだ。僕達の場合、倒す手伝いならできても捕獲するとなると初めてだから、事情を説明してもらいたいんだ」


「副会長が、落ち着いた人で、良かった」


「大丈夫ですよ、スカジ先輩。ライト君は話せる人です。偏見はありません」


「とりあえず、話を聞かせて下さい」


 カタリナの言う偏見に思い当たるところはあるが、それも事情を説明してもらえれば明らかになると考えてライトは先を促した。


「副会長、死霊魔術師ネクロマンサーの世間の認識はわかる?」


「アンデッドの使役を有益と考えられるかどうかで、認識が変わって来ると思います」


「その通り。残念ながら、死霊魔術師ネクロマンサーの知り合いがいない者は、死霊魔術師ネクロマンサーを怖がる者が多い」


「まあ、そうでしょうね。人間なんて、未知の存在や敵には少なからず恐怖を抱くものですから」


「副会長、よくわかってる。アンデッドと聞くだけで毛嫌いされることもある。でも、死霊魔術師ネクロマンサー側にも悪いところはある。扱いきれないアンデッドに手を出し、制御できずに暴走させてしまうことがある」


 スカジの言うことは正しい。


 死霊魔術師ネクロマンサーが手っ取り早く強くなるため、強いアンデッドを使役するという考えは死霊魔術師ネクロマンサーなら誰だって思いつく。


 しかし、実力に見合わないアンデッドを使役しようとすると、偶然使役した時は問題がなかったとしても、いざ召喚した時に油断して殺されてしまうことだってある。


 それだけなら自業自得で済むのだが、主を殺して解き放たれたアンデッドが周囲に被害を出すケースも少なくない。


 だから、しっかりと自分の実力を理解している死霊魔術師ネクロマンサーであれば、その知り合いから偏見の目で見られることはないが、それを知らない者達にとって死霊魔術師ネクロマンサーは恐怖の対象となり得る。


「今回の依頼で、ホーステッドさんとカタリナが狙ってるアンデッドはなんですか?」


「フレッシュスライムとウエポンゴーストを2体ずつ」


「マニアックなアンデッドですね。どうして必要なんですか?」


「スケルトンとフレッシュスライム、ウエポンゴーストは【融合フュージョン】でデスナイトになる。狙いはデスナイトの使役」


「デスナイトって使役できるんですか?」


 ライトの疑問は当然である。


 昔、ヒルダの母であるエレナを苦しめたアンデッドなのだから、簡単に使役できるとは思えないのだ。


「野生のデスナイトなら難しい。でも、【融合フュージョン】でできるデスナイトは素体のアンデッドを使役してることで、使役が継続したままになる」


「なるほど。僕は死霊魔術師ネクロマンサーに詳しくないのですが、今までに成功例はあるんですか?」


「まだない。でも、理論上は可能。私達が成功すれば、死霊魔術師ネクロマンサーが見直されるチャンス」


「ライト君、お願い。私もスカジ先輩も、少しでも死霊魔術師ネクロマンサーの地位を向上させたいの。万が一デスナイトが暴れても、ライト君達なら倒せるでしょ?」


 カタリナの表情からは、微かな希望に縋っているのだとわかるには十分な必死さが感じられた。


 ライトとしては、デスナイトの使役ができるのであれば、それだけで人類の戦力強化に繋がるので手伝うことに異論はない。


 だが、生徒の依頼の窓口の責任者は自分ではなくイルミだ。


 だから、ライトはイルミの方に顔を向けた。


「イルミ姉ちゃん、どうする?」


「よし、行こう。40秒で支度しな」


「イルミ待って」


 イルミが男前な発言をしたが、ヒルダが待ったをかけた。


「なんだよもう」


「行き先もわからないのに、40秒で支度なんてできないでしょ?」


「そうだった」


 至極当然なツッコミだったので、イルミは立ち止まった。


「ヒルダも行くの?」


「勿論だよ。ライトが行くなら私も行く」


「俺も行くぞ」


「私も行くよ」


 ヒルダに続き、アルバスとクロエも参加を表明した。


「ありがとう。生徒会に改めて依頼する。私達が行きたいのは、カルマ大墳墓」


「カルマ大墳墓って、春休みにルースレスが目撃された場所の1つじゃん」


「知ってるの、クロエさん?」


 スカジから目的地を聞くと、クロエから思いがけない情報が出て来た。


「うん。ルースレスって、セイントジョーカー周辺の墓をあちこち回ってるんだって。私、春休みの行商で偶々その話をお客さんから聞いたんだ」


「ライト、ルースレスってシスター・マリアがやられたアンデッドだよな?」


「うん。遭遇したくないね」


「大丈夫だよ、ライト。遭遇したってお姉ちゃんがミンチにしてやるんだから」


「ミンチって、まさか食べたいなんて言わないよね?」


 フレッシュゴーレムはぐちゃぐちゃになった動物の肉が、瘴気の影響を受けて人形になったアンデッドだ。


 とてもではないが、そんな有害な肉を食べたいだなんて言い出さないかライトは気が気でなかった。


「お姉ちゃん、ハンバーグが食べたい」


「俺が買って来ます!」


「アルバス、行かんでよろしい。イルミ姉ちゃん、夕食で頼めば良いじゃん」


「そっか。それもそうだね」


 (フレッシュゴーレムと聞いてハンバーグが食べたいだなんて、イルミ姉ちゃんの神経はどうなってるんだか)


 それから、ライト達は蜥蜴車リザードカーを手配してカルマ大墳墓へと向かうことになった。


 幸い、カルマ大墳墓に向かうのが7人のため、ライトとヒルダが御者席に座ればギリギリ1台で移動できるため、誰も使っていない蜥蜴車リザードカーに乗ってカルマ大墳墓へと出発した。


 ライトが蜥蜴車リザードカーを操縦していると、ヒルダがライトに抱き着いた。


「ヒルダ、やっぱり気乗りしない?」


「・・・うん。私、デスナイト嫌いだから」


「そりゃそうだ。エレナさんを苦しめたんだから、嫌いでもしょうがないよ」


「ごめんね、ライト」


「謝る必要なんてない。むしろ、ヒルダがスカジさんとカタリナのためについて来るって言ったことの方が驚いたよ」


 エレナの件があるので、ライトとしてはヒルダがこの件に協力すると言ったことは本当に驚きだった。


 すると、ヒルダはニッコリと笑って答えた。


「だって、私は生徒会長だもの。困ってる生徒がいたら、助けるのが生徒会長でしょ?」


「本音は?」


「ライトから離れたくなかったの。カタリナって子の目を見て、下手をすればライトに惚れるってわかったから」


「いや、まさか」


「ライトは私の傍にいて。これ絶対」


「わかった」


 ここでNOと言えば、ヒルダの精神が不安定になるのは明白である。


 だから、ライトはヒルダの精神を安定させるために、迷うことなく頷いた。


 その後、カルマ大墳墓に到着するまでの間、ヒルダはライトにべったりだった。


 (頼むから、野生のデスナイトとルースレスは出て来るなよ)


 前者はヒルダの精神衛生を考慮して、後者は単純に戦うのが面倒なのでライトは祈った。


 そして、ライト達はカルマ大墳墓に到着し、スカジとカタリナが望むフレッシュスライムとウエポンゴーストを探し始めた。

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