第134話 寝言は寝て言おうか

 新学期2日目、ライト達生徒会は入学試験の運営に協力する都合上、その日の授業が免除されていた。


 教師陣に混ざり、ライトとヒルダが校門前で受付を手伝い、イルミとクロエ、アルバスが校内の誘導を手伝った。


 この配置だが、去年のものを踏襲したものだ。


 去年、ライトが入学試験を受けに教会学校に来た時、ヒルダとイルミがライトを出迎えに来れたのも2人が去年は誘導を手伝っていたからだ。


 受付が締め切られると、次の仕事まで少しだけ余裕があったから、ライトとヒルダは今日入学予定の新1年生のリストに目を通した。


 (今年は去年よりも人数が多いな)


 改めてリストを見てみると、20人程去年よりも入学者が多かった。


 もっとも、その増加分は聖職者クレリックコースと生産者プロダクターコースだから、ライトとのかかわりは薄いかもしれないが。


「ライト、そろそろ片付けよう。実技試験を手伝いに行かなきゃ」


「わかった」


 受付の仮設テントを片付けると、ライト達はグラウンドに移動した。


 すると、教皇ローランドが今年もいた。


「よう、ライト、ドゥラスロール」


「こんにちは、叔父様」


「こんにちは、教皇様」


「ここにいられる時間は残り5分もねえ訳だが、今年はライトみたいな奴はいなさそうだな」


「ライトが特別なんです」


「だろうな。なんてったって、1年生で小聖者マーリンなんて二つ名を得るような奴だ。そんな奴がポンポン出て来ることはねえだろうさ」


 ヒルダがドヤ顔で言うと、ローランドは間違いないと頷いた。


 残念ながら、今年はローランドに許された滞在時間中にグラウンドに辿り着けた守護者ガーディアンコースの生徒はいなかった。


 ローランドが教会に戻ってから15分後、ようやく最初の生徒がやって来た。


「一昨年と同じぐらいかな」


「そうなんだ」


「当時は私も生徒会に入ってなかったから、ジェシカさんから聞いた話でしかないんだけどね」


「なるほど。あっ、ボチボチ1年生が出て来た。お喋りはここまでだね」


「うん」


 筆記試験を終えた生徒の数が徐々に増えて来たので、ライトとヒルダは実技試験を担当する教師の要請に応じてあれこれと手伝った。


 手伝いの主な仕事は、模擬戦で使用する訓練用の武器の準備とそれが使用された後の手入れだ。


 途中からは、イルミとクロエ、アルバスもそれに合流し、どうにか最後の1人まで実技試験を終わらせることができた。


「じゃあ、屋内訓練場に行くよ」


「「「「了解」」」」


 生徒会メンバーは休む暇なく、ヒルダに付き従って屋内訓練場へと移動した。


「アルバス、去年の僕達の試験って生徒会の人達がこんなに頑張ってたんだね」


「だな。俺、姉上が職業判定でイラつき気味だった理由がわかったわ」


「みんなの前で愚弟とか言われてたもんね」


「ああやって、俺でストレスを発散させてたんだよ。姉上の中では、弟はストレスの捌け口なんだ。それに比べてイルミさんはマジ天使」


「寝言は寝て言おうか」


「ん?」


「なんでもない」


 イルミを高く評価しているアルバスに対し、現実を突き付けてやろうかと思わなくもなかったが、ライトはそんなことでアルバスの気分を害するのは悪いと思って何も言わなかった。


 屋内訓練場に到着すると、ヒルダが教会学校の備品である職業診断器ジョブチェッカーを2つ手に取り、片方をクロエに渡した。


「私とライトで1つ、クロエとイルミで1つ使うよ。アルバス君は判定がもたついた時にフォローをお願い」


「はい!」


 その後、ライト達は順番にやって来た守護者ガーディアンコースの生徒達に自己紹介をした後、各生徒の職業判定を行った。


 守護者ガーディアンコース5組分の対応が終わると、普段ならば昼休みに入る頃合いだった。


「お疲れ様。それじゃ、入学試験の手伝いはこれで終わりだよ。午後からは生徒会の活動があるから、昼休みにしようか」


「お腹空いた~!」


「イルミさん、早く食べられるように席を取りに行きましょう!」


「わかってるね、アルバス君! 行くよ!」


「はい!」


 休憩に入った瞬間、イルミとアルバスは元気に食堂に向かって行った。


 (アルバス、なんだか舎弟っぽくなってると思うのは僕の気のせい?)


 2人のやり取りを見て、ライトの率直な感想はそれだった。


「う~ん、あの2人がくっつくのはまだまだ先かな」


「そうだね。アルバス君、イルミの弟みたいだった」


「弟は僕なんですけどね」


「アハハ・・・。ライト君をイルミの弟というには出来が良過ぎじゃないかな」


「それはわかる。初めて会った時、ライトとイルミが本当の姉弟だと思えなかった」


「だよね~」


 ヒルダとクロエは、ライトとイルミよりもアルバスとイルミの方が姉弟っぽいという印象らしい。


 似た者同士だからこそ、姉弟に見えるということなのだろう。


 ライトとヒルダ、クロエが食堂に到着すると、イルミとアルバスが5人座れるテーブルを確保して待っていた。


「遅いよライト!」


「遅いぞライト!」


 (おやつ抜きとデコピンまでは許されても良いよね?)


 イルミだけでもイラっと来るにもかかわらず、それにアルバスが同調するものだから、ライトは普段の2倍イラついた。


「ライト、馬鹿2人は放っておいて料理を頼みに行こうよ」


「うん、そうする」


 ヒルダもイラッと来たらしく、ライトにここはスルーして料理を頼みに行こうと声をかけた。


 ライトはそれに賛成し、ヒルダと仲良く料理を注文しに行った。


 全員の料理が揃うと、まずは空腹を満たすために食べた。


 イルミはフードファイターと呼んでも過言ではないぐらい食べ、ライトも背を伸ばすために頑張って食べた。


 その後、食休みに雑談を交え、そろそろ昼休みが終わる頃合いになると、ライト達は生徒会室に向かった。


 生徒会室に移動すると、ライト達は各々のデスクに座り、仕事の振り分けから始めた。


 既に、アルバスも卒業式で生徒会の一員として働いたおかげで庶務としてすべきことは理解できているから、適宜周りがフォローすれば問題なく仕事はできている。


 ライトが自分の分の書類を片付けていると、イルミが2枚の紙を持って来た。


 イルミの仕事には、生徒の声や依頼が書かれた紙を読み、できる限り実行するというものがある。


 そんな仕事を進めていると、自分だけでは対処できないものがあり、その時力を借りたい人に声をかけることもよくあるのだ。


「ライト、ちょっと良い?」


「どうしたの、イルミ姉ちゃん?」


「この2つの生徒の声、お姉ちゃん的には難易度高めなんだけどどうしたら良いかな?」


「見せて」


「はい」


 イルミから受け取った生徒の声が書かれた2枚の紙には、確かにイルミには難易度の高い内容が書かれていた。


 1枚目の紙には、珍しいアンデッドの捕獲を手伝ってほしいと書かれていた。


 依頼者は連名で、スカジ=ホーステッドとカタリナ=オネスティの名前が書かれていた。


 スカジはヒルダとイルミと同じクラスの生徒で、カタリナはライトとアルバスのクラスメイトである。


 2人の共通点は、死霊魔術師ネクロマンサーだということだ。


 死霊魔術師ネクロマンサーの強さは、召喚、使役できるアンデッドの強さに比例する。


 だから、強くなるために使役できるギリギリの強さで、珍しいアンデッドを捕まえるのがベストなのだ。


 もしくは、【融合フュージョン】で融合させたアンデッドがレアであることが望ましい。


 ただし、そのようなアンデッドというのは大抵一筋縄では捕まえられない。


 それゆえ、スカジとカタリナは生徒の味方である生徒会に捕獲を手伝ってほしいと依頼した訳だ。


 イルミがその依頼を受領した場合、手加減が上手くいかずに倒してしまう恐れがあるので、ライトに相談したということだろう。


 2枚目の紙には、聖職者クレリックを人気にしてほしいという依頼が書かれていた。


 依頼人はC5-1のメア=アリトン。


 生徒会長選定に参加した生徒であり、ヒルダとイルミのクラスメイトであるニア=アリトンの双子の姉だ。


 この依頼は非常に難しい。


 ライトにとっても難題である。


 というのも、一般的に聖職者クレリックとは聖水作成班や治療院で働く者、孤児院を運営する者、冠婚葬祭を執り行う者という認識なのだ。


 その認識を変えるというのは、ちょっとやそっとのことではできないだろう。


 イルミの交友関係は広く、聖職者クレリックコースの生徒とだって関わりはある。


 しかし、関りがあっても聖職者クレリックコースの生徒が普段何をやっているかイルミはピンと来ていない。


 困った時のライト頼みということで、イルミはこの依頼についてもライトに意見を求めたのだ。


 そんなイルミに対し、ライトが言えることはただ1つだけだ。


「イルミ姉ちゃん、依頼者に話を聞こう」


 それが一番手っ取り早いのは間違いない。

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