第131話 やれやれだね

 ロッテンキマイラは、ライト達に効いた攻撃を思い出して攻撃に移った。


「グルォ!」


「メェ!」


「シュロッ!」


「【範囲浄化エリアクリーン】」


 ロッテンキマイラの放った<毒吐息ポイズンブレス>に対し、ライトは【防御壁プロテクション】を使わず、【範囲浄化エリアクリーン】を発動した。


 それにより、ロッテンキマイラのそれぞれの頭から放たれたブレスは、ライト達に届く前に浄化されて消えた。


 最初に<毒吐息ポイズンブレス>を使われた時、ライトは直撃を防げば良いと考えて【防御壁プロテクション】で応戦した。


 直撃さえ防げば問題ないと思っていたのに、実際は直撃を防いでも毒ガスが広まってしまった。


 それならば、自分達に当たるよりも前に消し飛ばせば良いと考え、ライトはそれを実行した。


 その結果、ライトの目論見通りに<毒吐息ポイズンブレス>を防ぐことに成功した。


 しかし、ロッテンキマイラは再びそれぞれの頭から<毒吐息ポイズンブレス>を吐いた。


「【範囲浄化エリアクリーン】」


 ロッテンキマイラの攻撃は、ライトが簡単に防いでみせた。


 それでも、ロッテンキマイラはまたそれぞれの頭から<毒吐息ポイズンブレス>を吐き出した。


「グルォ!」


「メェ!」


「シュロッ!」


「【範囲浄化エリアクリーン】」


 (まさか、僕のMP切れを狙ってる? 無駄なことを)


 そうとしか思えないぐらい、ロッテンキマイラは<毒吐息ポイズンブレス>を多用している。


「私、無視されるぐらい弱いと思われてる? 【聖十字刃ホーリークロスブレード】」


「メェェェッ!?」


 ヒルダの攻撃によって、山羊の頭部にあった角が折れた。


 痛みに鈍いロッテン系統のアンデッドとはいえ、角を折られれば山羊だって驚くのは仕方のないことだろう。。


「お姉ちゃんだっているんだよ! 【輝手刀シャイニングハンドナイフ】」


「ジュラァ!?」


 イルミが光輝く手で手刀を放ち、ロッテンキマイラの尻尾を切断した。


 見た目は蛇の尻尾だったが、それは蛇の頭と感覚を共有していたようで、蛇からは驚きの声が漏れた。


 その声に釣られ、ライオンの視線が自分から蛇に向いたとわかった瞬間、ライトは攻勢に出た。


「【肆式:卯月うげつ】」


「グルォッ!?」


 ライトを見失ったと思った瞬間、脳天に強烈な一撃を喰らったので、ライオンの頭部から声が漏れた。


 ライトの【肆式:卯月うげつ】は、簡潔に説明すれば跳躍からの振り下ろしだ。


 そうは言っても、ライトのSTRとAGIによる跳躍だから、人間1人なら軽々と飛び越えられる高さまで跳んでいる。


 その高さからの振り下ろしならば、落下エネルギーが一撃に圧縮され、ライオンの脳天に命中した時にロッテンキマイラの体がバランスを崩した。


 その隙をライトが見逃すことなんてあり得ない。


「【【聖戒ホーリープリセプト】】」


 戦闘序盤の2倍の光の鎖が出現し、ロッテンキマイラの体を再び拘束した。


「私を無視したこと、後悔させてあげる! 【聖六連星ホーリープレアデス】」


「メエ゛・・・」


 ヒルダは羊の頭部の至近距離まで走り、聖気を纏わせたエクスキューショナーで6連続の突きを放った。


 それが羊の目や喉にも刺さり、視力と<毒吐息ポイズンブレス>の発動に支障が出た。


「お姉ちゃんも良いとこ見せる! 【聖壊ホーリークラッシュ】」


 イルミの聖気を纏わせた拳が、ロッテンキマイラの側面に命中した。


 そのすぐ後に、時間差で衝撃波がロッテンキマイラを襲い、ロッテンキマイラの側面が崩れ始めた。


 ライトだけを狙えばイージーモードと思っていたが、実はそうではなかったと気づいたロッテンキマイラは、どうにかして自分を縛る光の鎖から逃げなければピンチだと悟った。


 どうやって抜け出すか頭を回転させていると、光の鎖が今の体の大きさに合わせて縛り付けていることに気が付いた。


 それはつまり、ということに他ならない。


 だが、ちょっと待ってほしい。


 その思考自体が、ライトの狙い通りであることにロッテンキマイラは気づいているだろうか。


 いや、気づいていない。


 現に、ロッテンキマイラはライトが誘導した通り、<離合自在>を使ってしまっていたのだから間違いない。


「かかった。【【【昇天ターンアンデッド】】】」


 パァァァッ。


 ニヤッと笑ったライトは、<多重詠唱マルチキャスト>で【昇天ターンアンデッド】を重ね掛けすることで、3体に分かれて弱体化したロッテンキマイラを消滅させた。


《ライトはLv48になりました》


《ライトはLv49になりました》


《ライトはLv50になりました》


《ライトはLv51になりました》


《ライトはLv52になりました》


《ライトの称号に”ユニークスレイヤー”が加わりました》


《”ネームドスレイヤー”と”ユニークスレイヤー”が、”スーパーノヴァ”に統合されました》


《ライトの<状態異常激減>が<状態異常無効>に上書きされました》


 ロッテンキマイラを倒した途端、ヘルの声が怒涛のアナウンスをライトの耳に届けた。


 (”スーパーノヴァ”ってなんだよ)


 聞いたことはあっても、具体的に何を示しているのかわからなかったので、ライトは<鑑定>で”スーパーノヴァ”の意味を調べた。


 すると、ネームドだけでなく、ユニークのアンデッドを1パーティー以下の人数で倒した者に与えられる名誉称号であることがわかった。


 超新星が如く、圧倒的な個が群に匹敵する一騎当千の力の持ち主である証明である。


 (それはそうとして、<状態異常無効>ってマジか)


 <状態異常無効>は、ライトが会得したくても全然会得できなかったスキルだ。


 それを会得できたと言うことは、ロッテンキマイラの<毒吐息ポイズンブレス>には、雑魚モブの纏う瘴気なんて比較できない程体に悪影響を及ぼす毒が含まれていた訳だ。


 ヒルダとイルミに対し、迷うことなく【上級治癒ハイキュア】と【上級回復ハイヒール】を使ったのはライトの英断と言えよう。


「【範囲浄化エリアクリーン】」


 ロッテンキマイラとの戦闘で、ロッテンキマイラの腐った臭いが自分達にも移ってしまったのではないかとライトは心配になったからだ。


「「ライト!」」


「うぐっ!?」


 自分の汗や汚れを気にする心配がなくなった途端、ヒルダとイルミはライトに抱き着いた。


 ロッテンキマイラの<毒吐息ポイズンブレス>を受けたせいで、死を間近に感じたのだから無事に生還できた喜びをライトに伝えたかったのである。


「ライト! ライト!」


「お姉ちゃん、ライトがいてくれて本当に助かったよ!」


 ヒルダは喜びを言葉にできず、ひたすらライトの名前を呼んだ。


 その一方、イルミは改めてライトがパーティーにいるありがたみを思い知り、ライトに体を使っためいいっぱいの感謝を伝えた。


 そんなヒルダとイルミの猛攻により、ライトは息を吐き出したが、どうにか2人が落ち着くと戦利品の回収に移った。


 魔石はさておき、問題は呪武器カースウエポンと思しきマーブル色の宝玉だった。


 浄化は済んでいるので、ライトはそれを拾おうと手に伸ばした。


 その瞬間、ライトの右手首に嵌まっているダーインスレイヴが光を放ち、その場を光が包み込んだ。


「うっ」


「きゃっ」


「目がぁ~!?」


 イルミだけリアクションが大きいのは置いておくとして、光が収まった時にはマーブル色の宝玉はどこにもなかった。


 だとすれば、その宝玉がダーインスレイヴに嵌まっている紅い宝玉に吸収された可能性は高いと考え、ライトは<鑑定>でダーインスレイヴを調べ始めた。


 (やれやれだね。やっぱり吸収されてたか)


 ライトの推測通り、マーブル色の宝玉はダーインスレイヴの宝玉に吸収されていた。


 それがわかったのは、ダーインスレイヴに新たな効果が追加されていたからだ。


 <鑑定>をもってしても謎の多いダーインスレイヴだが、今はその謎に挑むよりも会得した効果の内容の方が重要なので放置した。


 (マジか。MPストックってそんなのあり?)


 ライトが目を疑うのも仕方のないことだろう。


 何故なら、新しく追加されたMPストックの効果が、チートと呼ぶ以外どうしようもないものだったからだ。


 MPストックとは、ダーインスレイヴにMPを蓄えられる効果のことである。


 予めダーインスレイヴにMPに蓄えておけば、ライトはいざMPが不足した時にダーインスレイヴから不足分のMPを引き出せる。


 ということは、ライトはMPをこまめに蓄えておけば、MP切れになることがほとんどあり得なくなる。


 これをチートと言わずしてなんというのか。


 ライトが今の光について説明すると、ヒルダとイルミは納得した。


「ライトが強くなってくれるなら問題ないよ」


「お姉ちゃんもそう思う」


「ありがとう。この効果があれば、パーティー戦での生存率が高まる。だから、大切に使わせてもらうよ」


 その後、屋上にはアンデッドがいないので、ライト達は一休みしてからアンジェラと合流することにした。

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