第130話 お姉ちゃん、川の向こうに食べ物だらけの天国が見えた
階段を上り、月見の塔の屋上までやって来たライト達の目の前には1体のアンデッド、いや、怪物の姿があった。
「ライオンと山羊、それに蛇?」
「変なの~。くっ付いてるじゃん」
ヒルダとイルミにとっては、未知の存在としてそれぞれの目に映るが、ライトの目には既知の存在として映った。
(なんでキマイラがこの世界にいるんだよ!?)
そう、ライト達の目の前にいるのは前世のギリシャ神話に登場するキマイラだった。
ライオンと山羊、蛇の頭を持ち、尻尾は蛇の合成獣の見た目なのだから、まず間違いない。
勿論、アンデッドであり、その体からは腐った臭いがするから、ロッテン系統であることは間違いないが、それでもキマイラがニブルヘイムにいると言う事実にライトは驚いた。
とりあえず、危険な敵であることは間違いないので、ライトは<鑑定>でその強さを確認し始めた。
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名前:なし 種族:ロッテンキマイラ
年齢:なし 性別:雌 Lv:60
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HP:10,000/10,000
MP:12,000/12,000
STR:2,500
VIT:2,500
DEX:2,000
AGI:1,500
INT:3,000
LUK:2,000
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称号:
二つ名:なし
職業:なし
スキル:<
<
装備:なし
備考:なし
-----------------------------------------
(
ロッテンキマイラの称号と能力値、スキルを確認したライトは冷静にその強さを見定めた。
つまり、ロッテンキマイラという種類のアンデッドは、ライト達の目の前にいるこの1体しか存在しない。
亜種であれば、稀にではあるがその個体以外にも存在するので、珍しいけど遭遇しない訳でもない。
しかし、
そんな偶然を引き当ててしまうのは、ライトだからなのかもしれない。
それはさておき、ライト達が月食の際に戦ったゲイザーと比べると、ロッテンキマイラはSTRとVIT、DEX、INTの能力値は低いが、HPとMP、AGIはゲイザー以上だ。
ゲイザーよりも素早く、スキルの使用回数が多く、HPを削るのに時間がかかるとなれば、ロッテンキマイラはしぶとい相手と言えよう。
もっとも、ゲイザーのように<離合自在>を会得しているので、ロッテンキマイラがうっかりそれを使いさえすれば、ライトが【
だが、事がそう簡単に進むとは限らないのだから、運頼みで戦う訳にもいくまい。
運頼みではなく、狙って分断させるのが理想である。
「相手はLv60のロッテンキマイラ。爪、噛みつき、砲撃に注意して。それと、ゲイザーみたいに分裂させられれば、その時点で僕達の勝ち。だから、今回は3人共攻撃。正面は僕。左はヒルダ、右はイルミ姉ちゃん。OK?」
「「了解」」
ライトの指示を聞くと、ヒルダとイルミは緊張した表情で頷いた。
Lv60と聞けば、強いアンデッドであることは容易に想像できる。
でも、2人が緊張した顔になったのは、ライトも攻撃に参加すると聞いたからだ。
今までだったら、ライトは後方支援だった。
それが攻撃参加しなければならないと言うことは、ライトが支援に徹しても決着がつかないことを意味する。
その判断をライトにさせたと言うだけで、ロッテンキマイラが如何に厄介な敵なのかがわかるというものだろう。
「僕がヘイトを稼ぐ。【
ライトが技名を唱えることで、屋上から瘴気が消え去った。
その瞬間、キマイラが不快感を顔に出した。
「グルルル・・・」
「メェ・・・」
「シュロロ・・・」
ライトは攻撃をした訳ではないが、【
その証拠に、ロッテンキマイラはライト目掛けて駆け出し、ライトを喰らってやろうと大口を開けた。
「舐めてんの? 【
「グルォ!?」
「メェ!?」
「シュロッ!?」
フェイントを入れたり、ジグザグに動くことなく、ただ馬鹿正直に正面から突っ込んできたロッテンキマイラに対し、ライトはあっさりと光の鎖で拘束することに成功した。
「流石ライト! 【
「お姉ちゃんの鉄槌! 【
ライトが十分に注意を引き付けたおかげで、ヒルダとイルミの大技がロッテンキマイラの両側面に入った。
「グルルル・・・」
「メェェェ・・・」
「シュロロロロロ・・・」
今の攻撃により、ライオンの目はライトを、山羊の目はヒルダを、蛇の目はイルミを捉えた。
「こっち見ろ! 【参式:
シュボッと燃える音がしたが、ライトの攻撃はライオンの頬を掠るに留まった。
ロッテンキマイラの胴体は拘束されていたが、それぞれの顔までは拘束されていない。
だから、顔を動かすことで、ライトの攻撃をロッテンキマイラはクリーンヒットから逃れたのだ。
「グルォォォォォォォォォォォ!」
「メェェェェェェェェェェ!」
「シュロォォォォォォォォォォ!」
ロッテンキマイラの<
<
光の鎖から解き放たれたロッテンキマイラのそれぞれの口を、紫色の靄が覆う。
「2人共後退して!」
「うん!」
「わかった!」
「【【【
ライトが指示を出すとすぐに、ロッテンキマイラはそれぞれの口から<
ライトとヒルダ、イルミをそれぞれ狙った指向性のある毒ガスの噴射は、ライトが創り出した光の壁によって防がれた。
しかし、このままでは毒ガスが周囲に広がってしまい、状態異常に耐性がないヒルダとイルミが危ない。
だから、ライトはすぐにその処理に動いた。
「【
周囲に広がり始めた毒ガスは、ライトのおかげですぐに消えた。
「「ゴフッ」」
(即効性のある毒ガスか! クソッ!)
ヒルダとイルミが立っていられなくなり、血を吐く咳をしたのを見て、ライトはしてやられたと気づいた。
「【【
【
そのついでに、毒によって失われたHPを回復させるため、【
強敵と戦っており、自分のMPに余裕があるのなら、過保護であるぐらいの回復でライトは初めて安心できる。
「ライト、助かったよ」
「お姉ちゃん、川の向こうに食べ物だらけの天国が見えた」
「かなりピンチだったじゃん!」
イルミの発言から予想以上に、<
その一方、ロッテンキマイラは先程の攻撃により、ヒルダとイルミだけなら倒すのは苦ではないと理解したのか、完全に攻撃対象をライトに絞り始めた。
「グルァ!」
ライオンの口が瘴気を纏い、ライトの首を噛み千切ろうと迫る。
「【
<
「私のライトに何すんのよ! 【
山羊の顔の近くに水で構成された4つの刃が現れ、舞うようにして斬りつけた。
「メェ!?」
4つの内1つの刃が、山羊の右目を斬りつけたらしく、山羊が慌てた声を出した。
その動揺したタイミングを逃さず、イルミも攻撃を仕掛ける。
「【
「ジュラァ!?」
イルミの拳から光が散弾のように放たれ、それが蛇の牙を折った。
先程、大した相手ではないと油断していたところに、イルミの攻撃を受けたものだから、蛇は牙を折られてパニック状態である。
「グルォォォォォォォォォォォ!」
ライオンの頭が叫ぶと、山羊と蛇の頭は落ち着きを取り戻し、ロッテンキマイラは一旦後方に退いた。
真ん中にあるのは伊達ではないらしく、ライオンの頭が渇を入れたことで戦闘は仕切り直しとなった。
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