第129話 当たらなければどうということはないよ
ゾンビイーターの魔石を回収した後、ライト達は月見の塔の3階を探索した。
2階までとは異なり、少し歩けばすぐに瘴気が濃くなるので、瘴気を振り撒くアンデッドが3階を徘徊しているのは間違いない。
ゾンビイーターと何度か遭遇したが、それ以外のアンデッドがなかなか出て来ない。
それでもしばらく慎重に進んでいると、イルミが通路の奥にそれらしきアンデッドを見つけた。
「敵見っけ!」
「ゾンビイーターじゃないね」
「やっと別種みたいだね」
イルミが指差した方向を見て、ライトとヒルダも敵の姿を捕捉した。
ゾンビイーターならば、肉切り包丁を手に持っているだけなのだが、ライト達の視界に映るそのアンデッドは、擦り切れたフード付きマントを着ており、手には杖を持っている。
敵の正体を確かめるため、ライトは<鑑定>を発動した。
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名前:なし 種族:ゾンビメイジ
年齢:なし 性別:雄 Lv:40
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HP:4,000/4,000
MP:3,500/3,500
STR:2,000
VIT:2,000
DEX:1,500
AGI:1,500
INT:2,800
LUK:1,300
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称号:なし
二つ名:なし
職業:なし
スキル:<
<
装備:襤褸マント
骨杖
備考:なし
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(当然っちゃ当然だけど、ゾンビイーターよりも強いな)
そんなことを思いつつ、ライトは<瘴気変換>の効果を確かめた。
その効果とは、瘴気をMPに変換させるものだった。
ゾンビメイジのステータスを読み終えると、ライトは自分が見た情報をすぐにヒルダとイルミに伝え始めた。
「ゾンビメイジ。名前通り魔法系スキルがメインの攻撃だね。瘴気がある場所で戦えば、MP補充し放題だから、ゾンビイーターよりも強いよ」
「当たらなければどうということはないよ」
「イルミ、ドヤ顔で何言ってんの?」
「イルミ姉ちゃん、真面目にやろうね」
「あれ、お姉ちゃん結構真面目に言ったつもりだったんだけど」
「「それはない」」
イルミの認識とライトとヒルダの認識に相違があったようだが、そんなことは今はどうだって良い。
流石に1人で相手をするには厳しい相手を前に、イルミが余裕ぶった態度を見せたので、ライトとヒルダがそれを窘めた。
「イルミ姉ちゃんは左側面から、ヒルダは右側面から攻撃して」
「「了解」」
気持ちを切り替え、ライトはイルミとヒルダに指示を出した。
その指示を聞くや否や、2人はライトの指示通りに動き始めた。
2人が自分に近づいていると気がつくと、ゾンビメイジが骨杖を掲げた。
「やらせないよ。【
魔法系スキルを使う寸前で、ゾンビメイジの体に光の鎖が絡みついてその行動を阻害した。
「ライト、ナイスアシスト! 【
「ぐぅ・・・」
イルミの走っていた運動エネルギーも加わり、ゾンビメイジの左脇腹にヘビーな一撃が入った。
光の鎖で地面に固定されたゾンビメイジは、イルミの【
固定されていなければ、まず間違いなく後方に吹き飛んだだろうが、それは【
「左側を殴られたら、右側も差し出してね。【
「ごえっ!?」
ヒルダの攻撃をまともに受け、ゾンビメイジのマントの右側には狼が噛んだような跡が残った。
変な声を漏らしてしまったゾンビメイジは、やられっ放しでいたくはなかったらしく、身動きが取れなくてもライト周辺で<
そんな抵抗をしたところで、ライトがいれば無駄である。
「【
ライトの技により、ゾンビメイジの<
接近を拒むものさえなくなれば、イルミは追撃できる。
「【
光の鎖で身動きを封じられたゾンビメイジは、イルミのサンドバッグへとジョブチェンジした。
一方的にタコ殴りされてもまだHPは残っているので、今度はヒルダの番である。
「【
水で構成された4つの刃が、舞うようにしてゾンビメイジを斬りつけた。
4つ目の刃がゾンビメイジの首を斬りつけたタイミングで、ゾンビメイジのHPが尽きたらしく、魔石と杖をドロップして消えた。
「お姉ちゃん大勝利!」
「ライト、杖が遺ったよ」
「そうだね。<鑑定>を使ってみるよ」
イルミだけがハイテンションの中、ヒルダに指摘されてライトはゾンビメイジがドロップした骨でできた杖に<鑑定>を発動した。
(アバンダンドボーン、見捨てられた骨か。悲しい名前だね)
ゾンビメイジがドロップした骨杖は、アバンダンドボーンという名前の
ライトはその名前を和訳し、悲しい名前だという感想を抱いたが、この
(えっ、なにこれ?
アバンダンドボーンの効果は、別の
それ以上でもそれ以下でもなく、デメリットもないことから、逆に気味の悪い印象さえ受けた。
そんなあっても意味のないような効果の
(いや、待てよ? アンチロッテンナイフの使い道も今はないし、アバンダンドボーンに取り込ませてみようかな?)
現在、ライト達はそれぞれに
アンチロッテンナイフについては、ゾンビ系統のアンデッドとロッテン系統のアンデッドに対して切れ味が上がるものの、その切れ味の上り幅だって大したものではない。
それならば、初めて見るタイプの
ライトがヒルダとイルミに状況を説明すると、ヒルダとイルミはライトに賛成した。
「ライトの好きにして良いよ」
「お姉ちゃんもライトに任せる」
「ありがとう」
2人から許可が下りると、ライトは<
そして、そのままアンチロッテンナイフを地面に置いたアバンダンドボーンに押し当てた。
すると、アンチロッテンナイフがアバンダンドボーンに取り込まれていった。
柄まで完全に取り込むと、アバンダンドボーンが淡い紫色の光に包み込まれ、形態が変形し始めた。
その結果、紫色の光が骨の柄を持つ杖に吸収され、その色が定着したまま変形が止まった。
変化が終わったと判断すると、ライトは再び<鑑定>を発動した。
(ヒドゥンナイフ・・・、仕込み杖か!)
なんと、アバンダンドボーンがアンチロッテンナイフを取り込んだ結果、新たな
ヒドゥンナイフという名前のこの
骨の柄に手をかけて抜いてみると、確かに刃が存在した。
ヒドゥンナイフだが、その効果はSTRとINTの能力値が元々の1.25倍になるというものだった。
デメリットについては、DEXとAGIの能力値がそれぞれ500未満の者がヒドゥンナイフを使った場合、何を斬ろうとしても斬れないという変わった条件が設定されていた。
つまり、ヒドゥンナイフは素早くて器用な者であれば、デメリットなしでSTRとINTの能力値が上昇する
ちなみに、ライト達は3人共ヒドゥンナイフの使用条件を満たしている。
それならば、ヒドゥンナイフを持つべき者は決まっている。
「ヒルダ、ヒドゥンナイフをサブ武器として持っておきなよ」
「私にはエクスキューショナーがあるよ?」
「携帯してるだけでも、STRとINTが1.25倍になるんだ。ヒルダはDEXもAGIも500を超えてるよね?」
「うん」
「だったら、デメリットなくこのヒドゥンナイフを使えるよ」
「そうなの? それだったら、お言葉に甘えちゃおうかな」
ヒルダがライトの手からヒドゥンナイフを受け取り、それをベルトに差した。
それを見たイルミが、ライトに視線を送る。
「どうしたの、イルミ姉ちゃん?」
「お姉ちゃんもああいう
「わがまま言わないの。そもそも、イルミ姉ちゃんは両手にそれぞれ
「は~い」
ライトから良さげな
その後、ライト達は屋上へと続く階段まで辿り着き、昼食を取ってから屋上へと進んだ。
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