第126話 前向きに検討することを善処するよ
翌日、イルミがライトとヒルダを連れて屋敷の外に停めてある
「イルミ姉ちゃん、マジで行くの?」
「マジで行くよ。お姉ちゃん、そろそろ体を動かしたかったから丁度良いと思うの」
「それに僕達を巻き込まないでよ」
「そうよ。私とライトの時間を邪魔しないで」
「将来治める領地の近くに、アンデッドが湧き出る場所なんてない方が良いと思わない?」
「イルミ姉ちゃんが先のことを考えてる・・・だと・・・?」
「これから天気が荒れるんじゃない? 下手したら雪かも」
イルミの発言がいつものイルミらしからぬものだったせいで、ライトもヒルダも各々の耳を疑った。
「むぅ、お姉ちゃんだってたまには考えるんだぞ?」
「それはない。考えるよりも感じることを優先するのがイルミ姉ちゃんだから、誰かの差し金だね」
「ギクッ」
(今時、ギクッて口にする人いたんだ・・・)
イルミがあまりにも隠し事が向いていないので、ライトとヒルダはイルミを憐れみの目を向けた。
「父様がイルミ姉ちゃんを使って何かすることは考えにくいから、これは母様だな」
「ギクッ」
「大方、イルミが体を動かしたいって口にしてたのを聞いて、ついでに月見の塔のアンデッドを減らさせようって考えたんじゃないかな」
「ギクギクッ」
「イルミ姉ちゃん、素直に吐いて。今ならおやつ抜きの刑は見送ってあげるから」
「結界が張られてから、月見の塔のアンデッドの数が増えたって報告が上がったんだって。だから、母様に2人を連れて行っといでって言われたの」
(おやつ抜きの脅しで自白するなんて、やっぱりイルミ姉ちゃんはチョロいな)
あっさりと自白したイルミに対し、ライトがチョロいと思ってしまったのは無理もない。
イルミの言い分はとりあえず脇に置き、ライトはもう1つ気になっていた点にツッコんだ。
「それで、なんでアンジェラが御者としてスタンバイしてるの?」
「若様達の
「母様が用意周到な件について」
「奥様の考えですが、先程ヒルダ様がおっしゃった通りでございます。お嬢様が体を動かしておとなしくなり、アンデッドの数も減らせるので皆幸せだとのことです」
「巻き込まれた僕とヒルダに対して、母様は何か言ってませんでしたか?」
「若様にはお嬢様を頼むとおっしゃっておりました。ヒルダ様に対しては、若様と末永く過ごしてもらうためにも、ここで強くなってほしいとのことでした」
「頑張ります」
アンジェラがエリザベスの伝言を述べたことで、ヒルダのやる気が上がった。
(僕だけイルミ姉ちゃんのお守りを任されたのか。いや、僕もたまには体を動かさないと駄目か)
抗議したい気持ちはあったけれど、最近骨のあるアンデッドとの戦闘をしていないことに気づき、体が鈍らないようにする必要があると判断してライトは受け入れた。
話はまとまり、ライト達はアンジェラの操縦により、
月見の塔に到着すると、ライト達は以前月見の塔に来た時よりも瘴気が濃くなっていることに気づいた。
「これは良くないね」
「瘴気が濃いね」
「強いアンデッドいるかな~」
ライトとヒルダが眉間に皴を寄せている一方で、イルミだけが吞気だった。
「じゃあ、アンジェラは
「承知しました。若様の放置プレイの一種だと思って、楽しんでおきます」
「自重しろ変態」
「ありがとうございます!」
「くっ、マジで注意が注意にならない。どうすれば良いんだ」
「ライト、変態は見ちゃ駄目。見るなら私にして」
ライトの体の向きをクルリと入れ替えて抱き締め、ヒルダはライトに慈愛に満ちた笑みを向けた。
「ヒルダ、そういうのは屋敷に帰ってからだよ。ここは気を抜けないんだから」
「そうね。ごめんなさい」
「・・・ごめんって言うなら離してくれない?」
「どうしよう、離したくない自分がいるの」
「今日は添い寝OKにするから」
「わかった」
まだ中に入ってないとはいえ、ふざけてばかりもいられないので、ライトは対ヒルダの切り札を切った。
その効果は抜群で、ライトの体はあっさりと解放された。
気持ちを切り替え、ライト達は月見の塔の前に立ったが、瘴気が濃い屋内に入るのは体に良くない。
それゆえ、ライトは最初にその問題を解消することにした。
「【
月見の塔全体を対象として、ライトは瘴気を浄化しにかかった。
【
それと同時に、ライトのMPが4割程度減った。
(う~ん、前に来た時よりも強敵がいる気がする)
瘴気が濃い所には、強いアンデッドがいるというのが世間一般の常識だ。
その常識に基づいて判断すれば、ライトの考えは正しい。
「ライト、もしかして結界を嫌がったアンデッドがここに避難してる?」
「その可能性はあると思う」
「なんでも良いよ。お姉ちゃんがボコボコにしちゃうから」
「イルミ姉ちゃんは落ち着いて戦ってね。危なっかしいんだから」
「前向きに検討することを善処するよ」
「・・・それ、絶対しないやつだから。というか、イルミ姉ちゃんがそんな複雑な言い回しを知ってるなんておかしい」
イルミが政治家みたいな言い回しをするなんて、普通に考えてあり得ない。
だから、ライトはこれが誰かの入れ知恵であることをすぐに見抜いた。
「こう言っておけば、頭の回転が普通未満の人は納得してくれるって父様が言ってた」
「父様、何やってんだよ」
「あっ、でも、母様には効かないし、ライトにも効かないからって言われたんだっけ」
「はぁぁぁ・・・」
イルミの発言を聞き、ライトはかなり大きな溜息をついた。
パーシーが逃げ口上として使っていることも頭が痛いことだが、それをイルミに教えていることもライトが頭を痛める原因である。
その上、イルミはその逃げ口上を使いこなせていないと来たものだから、ライトからすれば注意する気力すら出てこないのだ。
もう手遅れではないだろうか。
そんな考えが脳裏を過ぎるが、今考えても仕方がないと諦めてライトは月見の塔に足を進めた。
屋内に入ると、まだ瘴気が残っていた。
「【
とりあえず、自分達が進む道だけでも無害な空気を吸えるようにしたかったので、ライトは【
すると、通路内の瘴気が減ったことに驚き、通路の奥からロッテンウルフの群れがライト達に向かってやって来た。
「お姉ちゃんの新技の出番だよ! 【
拳を引いて半身になったイルミが力を溜め、ロッテンウルフの群れを十分に引き付けてから輝く拳を前に突き出した。
その結果、拳から光が散弾のように放たれ、ロッテンウルフの群れに次々に命中した。
【
そうなると、ロッテンウルフを倒せてもその腐った肉片が飛び散って拳に悪臭が付く。
それを避けるため、拳圧に聖気を乗せて乱射したのが【
この技ならば、直接ロッテンウルフを殴ることもないので、倒したことを褒められるべきイルミが臭いと言われずに済むという訳である。
実際、【
ただ、残念なことに、ロッテンウルフ自体のレベルが低いせいで、ライト達の誰もレベルが上がらなかった。
全てが上手くいくとは限らないし、経験値自体は3人に等分されているのだから、今はそれを良しとするしかない。
ライトは周囲に敵影がないことを確認すると、【
そして、回収が終えてから早く褒めてと目で訴えるイルミの期待に応えた。
「イルミ姉ちゃんの新技すごかったね」
「でしょ? 斬撃を飛ばせるなら、拳による攻撃だって飛ばせると思ったんだ。だって、弾いてるのはどっちも空気だし」
「誰の受け売り?」
「酷い! お姉ちゃんが自分で気づいたのに!」
頬を膨らませるイルミを見て、ライトは拗ねられては困ると思ってすぐに謝った。
「ごめんごめん。イルミ姉ちゃんは戦闘センスがあるね」
「謝罪の証として、おやつの増量を要求する」
「別に良いけど、こんなアンデッドが出る所でおやつを食べたいの?」
「美味しく食べたい! だから、急いで数を減らすよ!」
「はいはい」
今回ばかりはライトも自分が悪いと思ったので、イルミの方針に賛成した。
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