第118話 司教と特技が関係ない!?

 1月4週目の月曜日の午後、生徒会室には次年度の生徒会メンバー4人とメア、トニー、アルバスの3人が向かい合って座っていた。


 面接の進行はヒルダが担う。


「皆さん、集まってくれてありがとうございます。これから面接を始めます。よろしくお願いします」


「「「よろしくお願いします」」」


 面接ということで、口調を丁寧に変えるヒルダに合わせ、メアとトニー、アルバスの口調も丁寧である。


 全員が姿勢を正し、自分達を真っ直ぐと見るのを見て、ライトは前世での就職活動ってこんな感じだったっけと思っていた。


 (まあ、俺が受かったとこはブラック企業だったんだけどね)


 前世の忌々しい記憶のせいで、気分が悪くなりそうだったので、ライトは思い出すのを止めて気持ちを切り替えた。


 そんなライトの気持ちはさておき、ヒルダは面接を進める。


「では、最初に自己紹介をしてもらいます。アリトンさんからお願いします」


「はい。C4-1のメア=アリトンです。職業は司教ビショップです。特技は交渉O・HA・NA・SHIです」


 (司教ビショップと特技が関係ない!?)


 交渉O・HA・NA・SHIという言葉から、ライトはどうしても模擬戦で見せたフレイル捌きを想起してしまった。


 実際、メアの交渉というのは納得させるための話術を指しているのではなく、屈服させるための肉体言語を指していた。


 普段はお人好しだが、戦闘に入るとキャラが変わってオラオラするメアに違和感しか覚えないヒルダはとりあえずスルーした。


「ありがとうございました。次はソール君、お願いします」


「はい。G3-1のトニー=ソールです。職業は剣士フェンサーです。特技はフェイントです」


 (フェイントが特技ってドヤられても困るんだけど)


 決して顔には出さないが、ライトはそのような感想を抱いた。


 フェイントが特技だったら、何に役立つのかを伝える必要があるだろう。


 メアの交渉ならば、自分あるいは自分達の意見を通すというメリットを一応は提示できているのだから、トニーもライト達にメリットを提示すべきだった。


 ヒルダはコメントに困ったようで、何も触れずに次に進むことにした。


「最後はドゥネイル君、お願いします」


「はい。G1-1のアルバス=ドゥネイルです。職業は闘士ウォーリアですが、<聖鎌術>を使えます。また、現生徒会長の姉から、庶務の業務内容については聞いてたので、即戦力になれる自信があります」


 (アルバス、マジでイルミ姉ちゃんと過ごせる時間を増やそうとしてるんだね)


 メアとトニーの自己紹介に比べ、アルバスのものは生徒会に貢献できるというアピールが強かった。


 <聖鎌術>が使えれば、ヒルダやイルミと一緒にアンデッドに特に効果的な攻撃ができるから、いざアンデッド退治に生徒会パーティーとして派遣されても問題ない。


 それに加え、生徒会長ジェシカから庶務の業務内容について訊き出していることで、もしも生徒会庶務に慣れた時に就任前後の業務に感じるギャップはほとんどないだろう。


 ライトにだけわかる点で言えば、アルバスはジェシカを苦手としている。


 その苦手意識を我慢してでも、次年度の庶務になってみせるというアルバスの強い意思をライトは感じた。


「ありがとうございました。それでは、次に次年度の生徒会庶務を志望する理由を教えて下さい。今度はドゥネイル君からお願いします」


「はい。私的な理由になりますが、隣に並びたい人がいるからです。今は力が及ばないとわかっておりますが、少しでもその背中に追いつきたいんです」


 (イルミ姉ちゃんのことだね。わかってるよ)


 ライトにはその真意を理解できていたが、当の本人イルミには伝わっていなかった。


「ライトはいい友達を持ったね。お姉ちゃんは嬉しいよ」


 哀れアルバス。


 自分への恋愛感情に疎く、アルバスをライトの友達としてしか認識していないイルミを振り向かせるには、アルバスは並大抵の努力では目標の達成は難しいだろう。


「私的な理由でも構いません。あくまで個人的な考えですが、建前では人は心の底から動くことはできません。ですから、ドゥネイル君が憧れを理由に庶務を目指すことはありだと思います。では、ソール君、お願いします」


 ヒルダは綺麗事が聞きたい訳ではない。


 だから、アルバスの発言に便乗してトニーとメアに釘を刺した。


 実際、ヒルダもライトが一緒にいるから生徒会長の業務が楽しい訳で、ライトが生徒会にいなければモチベーションはグッと下がる。


 勿論、なりたくてなった生徒会長なのだからやる気自体はある。


 それでも、モチベーションを高く維持した状態のパフォーマンスと、モチベーションがそこそこの状態でのパフォーマンスを比べれば、どちらが生産性が高いかなんて説明するまでもない。


「はい。俺は平民の出なので、就職に有利な生徒会に入って安定した将来を目指したいです」


「・・・それだけですか?」


「それだけです」


 ヒルダの問いに対し、トニーは言い切った。


 確かに、トニーの志望理由は否定できるものではない。


 否定できるものではないのだが、アルバスのような熱意を感じられない。


 就職に有利な活動が他にあれば、そちらでも別に構わないという意思が今の回答から見えてしまったのだから当然だろう。


 (ソールさんの採用はないな。興味が失せた)


 同じ私情でも、アルバスの方にライトが親近感を抱くのは仕方のないことだろう。


 一緒に過ごした時間もあるし、アルバスの真の狙いも理解しているのだから。


 その点では、トニーにとってこの面接は不利だと言えるが、それを差し引いてもライトにとってトニーの回答は採用したいと思わせるものではなかった。


「では、アリトンさん、お願いします」


 それはヒルダも同じだったようで、ノーコメントのままメアに回答を促した。


「はい。私は将来、質の高い聖水を作れる仕事をしたいと考えてます。庶務の仕事に慣れれば、業務の合間にダーイン君から聖水についてレクチャーを受けられると思いました。ですから、私は将来の目標に近づける庶務になりたいです」


 (なるほど、そういうことか)


 ライトはメアの回答を聞き、ようやくメアが庶務の選定に参加した理由に納得できた。


 生徒会長選定であれば、聖職者クレリックコースの代表として選ばれてしまったから、その流れで参加したのだと納得できた。


 しかし、庶務については他薦はなく、自らの意思で参加するしかない。


 話に聞いていたメアの性格ならば、他にも大勢参加者がいれば参加しないという選択をするのではないかとずっと疑問だったが、メアにも庶務になりたい理由があった。


 それを聞けたから、ライトは納得できたのだ。


 ライト達が用意していた面接の質問は、自己紹介と志望動機だけだ。


 それゆえ、後はその場で追加質問をいくつかしたら、ヒルダは面接のクロージングに入った。


「わかりました。皆さん、ありがとうございました明日の始業前には、掲示板に次年度の庶務を発表する掲載をします。庶務になった方は、それを見て昼休み後に生徒会室に来て下さい。お疲れ様でした」


「「「お疲れ様でした」」」


 メア、トニー、アルバスが生徒会室を出て行くと、真面目な雰囲気に堪えられなくなったイルミが口を開いた。


「疲れたぁ。ライト~、お姉ちゃんの肩揉んで~」


「ヒルダが疲れるならともかく、イルミ姉ちゃんは何に疲れたの?」


「真面目な空気の中ずっと起きてたじゃん。お姉ちゃん、偉くない?」


「イルミ姉ちゃんってば、目標設定がイージー過ぎない?」


「しょうがないよ、イルミだもん」


「イルミだもんね」


「なるほど」


「むぅ。解せぬ」


 イルミ以外の意見が一致し、イルミに向けてジト目が向けられた。


 それに対して、イルミは静かに抗議するが誰も取り合わなかった。


「イルミのことは置いといて、庶務を誰にしようか? クロエの意見は?」


「うーん、私はドゥネイル君かな」


「なんで?」


「消去法。まず、ソール君は庶務に絶対になりたいって意思がないからアウト。その点では、アリトンさんとドゥネイル君が並んだけど、生徒会の即戦力になるかどうかで考えて、アリトンさんがアウトになった」


「なるほどね。イルミは?」


 クロエの意見を聞くと、ヒルダはすぐにイルミの意見を訊ねた。


「私もアルバスだよ」


「その理由は?」


「ライトの気心知れた人の方が、ライトの負担が減るから」


「思ったよりも真面目に考えてたんだね」


「心外だよ、ヒルダ」


「ごめん」


 思わず本音が出たヒルダに対し、今度はイルミがヒルダにジト目を向けた。


「ライトは?」


「僕もクロエと同じ理由でアルバス。感情論でもアルバスだったけど、客観的に考えて庶務になりたい意思が感じられて、来月の卒業式の即戦力になるのは誰かって考えればアルバスが真っ先に思い浮かんだよ」


「私もライトと一緒の考えだよ。じゃあ、満場一致で庶務はアルバス君に決定だね」


「「「賛成」」」


 (アルバス、良かったな。イルミ姉ちゃんへのアピールチャンスが手に入ったぞ)


 アルバスが次年度の生徒会庶務に決まると、ライトは心の中でアルバスがイルミにアプローチできることを祝った。

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