第77話 あぁ、目がぁ~!!

 時を少し遡り、ライト達がホルン山に到着した頃、エルザのパーティーはカルマ大墳墓に到着し、入口でテントの設営と昼食を終え、食休みの最中だった。


「賢者の燻製、美味かったな。俺はチキン派だぜ」


「僕はニジマスが好き」


「わ、私は卵」


「ウチはビーフジャーキー」


「私はチーズですわ」


 ライトが料理大会でお披露目した燻製の中で、それぞれ何が好きか話していた。


 そこに、シスター・マリアは加わりはしなかったが、シスター・マリアも賢者の燻製に感動している。


 干し肉に飽きていたのは、規律に厳しいシスター・マリアであっても同じということだ。


「さて、皆さん、食休みは終わりです。そろそろ中に入りますよ」


「「「「「はい!」」」」」


 シスター・マリアに声をかけられると、エルザ達は立ち上がった。


 テントを設営し、ここを拠点にすることはランドリザードも理解しているため、置いて行かれたと心配することもなく吞気に昼寝している。


 カルマ大墳墓に足を踏み入れたエルザ達だが、フォーメーションはオットーが先頭、その後ろにエルザとミーア、そのまた後ろにアズライトとカタリナの順である。


 1-2-2のフォーメーションで、ライト達の2-1-2とは陣形が異なる。


 そんなエルザ達を、シスター・マリアは最後尾から見守っている。


 今回のブートキャンプでは、シスター・マリアは戦闘経験を多く積むようにという指示以外、細かく指示を出さないことをあらかじめ宣言している。


 勿論、エルザ達が困ったり、意見を求められればアドバイスはするつもりだが、ああしろこうしろと口うるさく言っても自分で考える癖がつかなくなるので、極力発言を控えることにしたのだ。


 さて、エルザ達が周囲に気を配りながら進んでいると、早速オットーが正面から向かって来るアンデッドに気づいた。


「正面からスカルドッグ3体!」


「真ん中のはオットーが、左のはミーアが、右は私がやるんですわ。アズライトとカタリナは、MPを温存ですわ」


「「「「了解!」」」」


 今日はまだ長いので、早々にMPが不足して困らないようにアズライトとカタリナは待機である。


 というよりも、スカルドッグぐらいならオットーとミーア、エルザであれば1人1体を余裕で倒せる。


「そらよっ!」


 オットーは真ん中にいたスカルドッグと距離を詰め、頭蓋骨の部分を殴った。


 スキルの技を使えばMPを消費してしまうので、普通の正拳を放った。


 その正拳により、ピキッと音を立てて頭蓋骨に罅が入ると、オットーは畳みかけた。


「オラオラオラァ!」


 連続で放った正拳の3発目が鈍い音を響かせ、そのスカルドッグの頭蓋骨が壊れた。


 頭蓋骨が割れてしまうと、スカルドッグの残りの部位はガラガラッと地面に落ちて消えた。


 まずは1体。


「オットー早いなぁ。ウチも頑張らなあかん、な!」


 ミーアが矢を放つと、それが左のスカルドッグの眼窩を通過し、後頭部の骨を砕いた。


 ミーアもまた、MPを保存して普通に矢を放つだけだった。


 残りは1体。


「私、もっと精密性を上げたいんですの」


 エルザのレイピアも、ミーアと同じように眼窩を通過して後頭部の骨を砕いた。


 これにより、エルザ達の前からスカルドッグは消え、浄化前の魔石が3つその場にドロップした。


「お疲れ様。魔石の回収は任せて」


 アズライトが3人を労い、そのまま魔石をトングで回収した。


 今遭遇したアンデッドが、骨系のアンデッドで本当に良かったとアズライトはホッとしている。


 骨系のアンデッドであれば、腐りかけの肉片が飛び散ったりすることはないからだ。


「あ、あの、ちょっと良いかな?」


「カタリナ、どうかしまして?」


 カタリナが自分から話しかけることは、パーティーで行動していてもそこまで多くない。


 それゆえ、カタリナが何か伝えたいことがあるのだと察し、エルザは遠慮せずに話すように促した。


「次に、骨系のアンデッドが出たら、1体だけ残してほしいの」


「使役するんですわね?」


「うん。で、でも、普通の使役とはちょっと違うの」


「何をするつもりですの?」


「スカジ先輩から、新しい<死霊術>の技を教わったの。使役してから、試してみる」


「わかりましたわ。骨系アンデッドならば、1体カタリナに取っておきますわ」


「ありがとう」


 遠征見学の時は、スカジのことをホーステッドさんと呼んでいたのだが、今はかなり仲良くなったのかスカジ先輩と呼ぶようになっている。


 同じ死霊魔術師ネクロマンサーなので、カタリナはスカジに色々と教わっているようだ。


「おい、そんな話してたら来たぜ、アンデッド。しかも、カタリナがお望みの骨系だ」


 オットーの声が聞こえ、カタリナがオットーの示す方向を見ると、スカルバードが2体自分達の方に向かって来ていた。


「アズライトとカタリナで1体ずつ。よろしくて?」


「任せて」


「わ、わかった」


 飛んでいる相手となれば、近接戦闘メインのオットーとエルザでは分が悪い。


 ミーアは矢の本数に限りがあるし、魔法系スキルを使うにしても連戦になるので、アズライトがカタリナの用がない方を任された。


 獲物を見つけ、急降下するスカルバードに対し、アズライトはしっかりと狙いを定めて攻撃した。


「【氷矢アイスアロー】」


 アズライトが狙い澄ました氷の矢は、見事にスカルバードの胴体を貫いた。


 それによって体のコントロールが利かなくなったらしく、スカルバードは地面に墜落して砕けてそのまま消えた。


 残すところは、カタリナが狙っている1体だけとなった。


「【麻痺パラライズ】」


 カタリナが狙いを定め、上空で待機しているスカルバードを麻痺させるとスカルバードが上空から落下し始めた。


 麻痺して羽ばたけなくなったのだから、当然だろう。


「【絆円陣リンクサークル】」


 ブォン。


 落下地点を予測し、カタリナが円陣を起動すると、それがスカルバードを閉じ込める結界となった。


 結界が明滅しながら収縮し始めたのを確認して、カタリナは手を前に伸ばしてからグッと握った。


 ウィル・オ・ウィスプの時とは違い、叫ばずになんとしても使役してやるという気持ちを込めた結果、一気に結界が圧縮してスカルバードと同じサイズになった。


 すると、結界の明滅が止まってスカルバードがふわりと地面に着陸した。


 スカルバードの使役に成功したカタリナは、続けてスカジに習った技を試してみることにしたらしい。


「【召喚サモン:ウィル・オ・ウィスプ】」


 シュイン。


 カタリナが技名を唱えることで、ウィル・オ・ウィスプが現れた。


「カタリナ、これから何をするつもりなん? 教えてーな」


「み、見てのお楽しみ。【融合フュージョン:ウィル・オ・ウィスプ/スカルバード】」


 ピカァン!


「うわっ!?」


「あぁ、目がぁ~!!」


「眩しいですわ!」


「うっ!」


「なんやこれ!?」


 突然の発光に、少し距離を置いて見守っていたシスター・マリア以外が対応できず、しばらくの間カタリナ達は目を開けることができなかった。


 目を開けるようになると、赤い火を纏ったスカルバードがカタリナの前にいた。


「・・・やった! 成功した!」


「どういうことですの?」


 最初の1回で上手くいくとは思っていなかったようで、カタリナのテンションが上がっていた。


 状況が読めず、エルザがその場を代表して何をしたのか訊ねた。


「【融合フュージョン】って技だよ! 使役したアンデッド同士を融合させて、新たなアンデッドを生み出すの! 弱いアンデッド同士なら成功率は低くないけど、強いアンデッド同士だと一気に難易度が上がるんだよ! スカジ先輩が教えてくれたんだ!」


「よ、良かったですわね」


「うん!」


 カタリナのあまりのテンションの高さに、エルザは思わず引いてしまった。


 そこに、シスター・マリアが近づいて来て口を挟んだ。


「まさか、1年生の内にトーチバードを使役するとは驚きました」


「シスター・マリア、トーチバードというのがこのアンデッドの名前なんですか?」


「その通りですよ、ウォーロック君。簡単な火魔法系スキルの使用ができるだけでなく、飛べるから索敵も頼めるので、死霊魔術師ネクロマンサーなら是非とも使役すべきアンデッドです」


「ふーん。良かったじゃん、カタリナ」


「うん! ありがとう、オットー!」


「お、おう」


 元気なカタリナという見慣れないものを見て、オットーも引いてしまった。


 それから日が暮れるまでの間、カタリナはご機嫌なままという奇妙の状態が続くのだった。

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