第75話 まさか、逆光源氏計画を企ててたとは・・・
目的地のドゥリンガル山脈まで、まだまだ時間があった。
だから、ライトは先程確認したアンジェラのステータスを見て気になったことをアンジェラにぶつけてみた。
「アンジェラ、なんでダーイン公爵家に仕えることにしたの? その前は、セイントジョーカーを拠点にして、戦場でガンガン名前を売ってたって聞いたけど」
「戦場云々の話は若気の至りです」
「いや、アンジェラまだ若いでしょ」
「・・・もう、若様ってば、本気で狙っちゃいますよ?」
「丁重にお断りさせていただきます」
「ソフトかつ意思のある拒否!? あぁ、濡れます!」
「やめてくれ」
前世の日本人の記憶があるライトにとって、30歳にいってなければ若いという認識だった。
人によっては、アラサーはもう若くないというかもしれないが、ライトが前世で働いていたブラック企業では、30を超えた先輩社員すら若手扱いされており、そのせいでアンジェラを若いと言ってしまったのだ。
実際、ブラック企業で若い社員の方が離職率が高く、
そんな感覚のライトに若いと言われれば、女としては結婚適齢期を過ぎているアンジェラも、うっかり本気でライトの第二夫人を狙いたくなってしまった。
普段は死ぬまでずっと仕えて入れれば良いと思っても、まだ女としての気持ちは枯れていないらしい。
「コホン、失礼しました。ダーイン公爵家に仕えるようになった理由ですが、旦那様と奥様の顔です」
「父様と母様の顔が良いから仕えたいと思ったの?」
「いえ、正確には美形の旦那様と奥様の息子なら、間違いなく私のストライクゾーンのど真ん中に入ると思ったんです。その直感は間違いありませんでした。若様は、私の人生の中で最高の外見でございます」
「まさか、逆光源氏計画を企ててたとは・・・」
「若様、とても魅力的な言葉に聞こえましたが、逆光源氏計画とはなんでしょうか。私、気になります!」
「なんでもない」
その後、ドゥリンガル山脈に到着するまでの間、アンジェラはしつこく逆光源氏計画の意味を質問したが、ライトは頑なに沈黙を守り続けた。
それから1時間半が経過すると、ようやくドゥリンガル山脈に到着した。
ドゥリンガル山脈の中でも、特にアンデッドが多いと呼ばれるホルン山に来た。
ホルン山には、教会学校の1年生にはまだ早いアンデッドの目撃情報もあるが、ブートキャンプなのだからこれぐらいやらなくては駄目だろうとシスター・アルトリアが許可を出したのだ。
ちなみに、エルザ達が登ったミミル山はホルン山の隣にある。
アンジェラがメイドとして働いているのだから、それを無下にはできなかったのだ。
ライトが降りてすぐに、アルバス達も
全員揃ったのを確認すると、アンジェラが口を開いた。
「ここを拠点とします。皆様には、野営と昼食の準備をしていただきます。役割分担は、若様にお任せしますね」
「わかった。じゃあ、テントは男子用、女子用の2つをアルバスとロゼッタ、ザックとアリサのペアで組み立てて。昼食は僕がやるから」
「「「「了解!」」」」
このペア決めだが、ライトはザックに配慮している。
ザックはアリサを気になっている。
それがまだ恋愛感情になっているのかは定かではないが、8割方ザックがアリサを好きだと思っているので、ライトはそのようにペアを組ませた。
勿論、本音はザックとアリサをくっつけるサポートだが、建前もちゃんと用意している。
テントを立てる作業なら、男子同士、女子同士では力が必要な仕事で作業時間に差ができてしまう。
男女ペアなのはその理由があるからで、ザックとロゼッタをペアにしないのは、ロゼッタではザックの言いたいことを半分も理解できないからだ。
アリサならば、ライトのレベルまで理解できずとも、半分以上は理解できている。
それゆえ、ザックとアリサをペアにした。
アルバスはイルミ一筋だから、アリサがペアだろうがロゼッタがペアだろうが特に気にしない。
ロゼッタはパーティー内での恋愛は考えていないようなので、これもまた問題ない。
そういう訳で、この割り振りで不平不満が出ることはないのだ。
さて、それぞれが作業に移ったが、アンジェラは手も出さなければ口出しもしない。
ここでアンジェラが手伝ってしまえば、ライト達の成長に繋がらないからだ。
ライトは人数分の昼食を作るため、必要な食材を取り出した。
黒パンとチキンとチーズの燻製、作り置きしたタルタルソースである。
黒パンを半分に切り、お手製バーガーを作る訳だが、今回はダーインマヨネーズではなく、タルタルソースを使う。
アンジェラは見たことのないソースを見て、流石に口を挟まずにはいられなかった。
「若様、そのソースはなんですか? ダーインマヨネーズではないんですか?」
「アンジェラ、一体いつからマヨネーズが終着点だと錯覚してた?」
「なん・・・ですって・・・?」
マヨネーズは完成された調味料だと思っていたらしく、アンジェラは目をパチクリさせていた。
料理のこととはいえ、アンジェラから一本取れたことが嬉しかったようで、ライトは得意気に話し始めた。
「マヨネーズに潰した茹で卵と刻んだピクルス、胡椒を混ぜるだけで、マヨネーズはタルタルソースに進化するんだよ」
「タルタルソース、ですか?」
「味見してみる?」
「是非」
「わかった。ちょっとだけだよ」
そう言って、ライトはスプーンに少しだけタルタルソースを乗せ、アンジェラに差し出した。
自然な流れでスプーンを差し出してしまった。
「若様があーんして下さるなんて、感激です! いただきます!」
ライトからのあーんは、アンジェラにとってはご褒美以外の何物でもない。
うっかり、アンジェラへのサービスをしてしまったとライトが気づいた時にはもう遅く、スプーンはアンジェラによって舐め取られてしまった。
「あぁ、なんということでしょう! 若様にあーんしてもらったことが嬉し過ぎて、タルタルソースの味がわかりませんでした! 若様、もう一口お願いします!」
「駄目に決まってるでしょ」
「・・・フッフッフ。流石は若様、わかってますね。私を上げてから落とすなんて、私の扱いを本当によくご存じです。そうやって、私に下着を交換させようという魂胆なんですね?」
「いや、違うから。パーティーのみんなに変な目で見られるから、マジで変なこと言うな」
ライト、マジトーンである。
そんな一幕がありながらも、ライトがチーズチキンタルタルバーガーなんて子供がいかにも好きそうな料理を完成させると、アルバス達もテントの設営を終えてやって来た。
「何それ、美味そうじゃん!」
「美味」
「ザッ君~、まだ食べてないよ~?」
「多分、美味しそうな匂いってことじゃない?」
「同意」
「そうなんだ~。アリサも~、ザッ君語の翻訳ができるんだね~」
「ザッ君語ってなんだよ・・・」
ロゼッタの造語が披露され、アルバスはツッコまずにはいられなかった。
それから、ライト達は昼食の時間になった。
遠征見学の際、お手軽バーガーを食べたことがあったので、アルバス達はライトが作った新しいハンバーガーも間違いなく美味しいだろうという確信があった。
「「「「「「いただきま(~)す」」」」」」
食事に感謝し、全員がチーズチキンタルタルバーガーにかぶりついた。
「
「美味!」
「美味しい!」
「美味しい~!」
「これほどとは・・・」
純粋に喜ぶアルバス達とは異なり、遠征での食事がこれだけ美味しいのなら、士気を高くキープできるとアンジェラは驚いていた。
ライトが料理大会で優勝した話は、ライトから聞いていた。
しかし、まさかここまで遠征に持って行く保存食を進化させていたとは思っていなかったため、アンジェラの予想は良い方に裏切られたのだ。
そして、こんなに美味しい食事があるなら、ブートキャンプの難易度を上げてもアルバス達が我慢できるだろうと判断し、密かにプログラムを変更することに決めた。
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