第60話 それ、本気で言ってます?
ライト達が月見の塔から戻って来た日の夜、校長室にはシスター・アルトリア、シスター・マリア、シスター・エクシアの3人が集まっていた。
夜に集まったのは、シスター・アルトリアが夕方は不在であり、つい先程この校長室に戻って来たからだ。
「では、話を聞かせてもらおうかしら」
「はい。本日、私のクラスのダーインパーティーがシスター・マリアのクラスのダーインパーティーを連れて月見の塔から戻りました。しかも、
「
シスター・エクシアが嘘をつくとは思っていないが、長年校長を務めて来たシスター・アルトリアでも鵜呑みにはできない内容だったので、
「事実です。イルミ=ダーインがヴェータライトというガントレットを、ヒルダ=ドゥラスロールがエクスキューショナーという剣を持ち帰りました。手に入れる過程で、ヴェータラとボールクラッカーというゾンビ亜種と戦ったそうです」
「・・・昨日のグールの出現の件もそうだけど、教皇様には文句の一つでも言わなくちゃね」
シスター・マリアからの報告を聞き、シスター・アルトリアは小さく息を吐いた。
ミミル山にグールが現れてエルザ達の遠征見学が中止になったこともそうだが、月見の塔でもヴェータラとネームドアンデッドのゾンビ亜種が出るなんて、前代未聞の事態だ。
大規模遠征を行うなら、それによる二次被害が出ないように遠征を完遂させてほしいと思うのは、
学校行事に支障が出れば、若い世代が育たなくなる可能性が出て来るのだから、そんな事態を起こした責任者のローランドに文句を言いたくなるのは仕方のないことだ。
シスター・エクシアは夕方、イルミから聞いた報告が頭が理解できる範囲を超えて気絶してしまったので、ここから先はシスター・マリアがメインで話す。
「ダーインさん曰く、ヴェータラとボールクラッカーと戦ったのはダーイン姉弟とドゥラスロールさんの3人だそうです。ダーイン君には<法術>がありますから、被害は0です」
「本当に規格外ね、<法術>ってスキルは。ルクスリア様以降、一切発現することのなかったスキルを受け継いで
「
「普段は聖水が足りないせいで危険な戦闘を強いられてたけれど、今回に限っては大量の聖水をガンガン使った訳ね。そのせいで、攻められたアンデッドも予想外の事態だったから教皇様が殲滅戦に持ち込む前にあちこちに逃げたようね」
シスター・マリアから聞いた情報をベースに、シスター・アルトリアは今回の遠征見学への影響の原因を突き止めた。
「報告を続けます。ヴェータラとの遭遇は昨日、ボールクラッカーとの遭遇は今日で、それぞれのレベルは35と40だそうです」
「そのレベル帯のアンデッドを4年生2人と1年生1人で倒すとはねぇ・・・」
「4月ですが、ダーイン君が生徒会庶務としてカルマ大墳墓に行った時も、話を聞く限りではパーティー戦でしっかりと自分の役割をこなしてました」
「しかも、その時も
「はい。ペインロザリオという黒い十字架のような剣です」
ペインロザリオの件はシスター・アルトリアも記憶の隅に留めていた。
生徒会に加入した
本来、
ところが、ライトが関わるだけで手軽な
この発見は衝撃としか言い表せまい。
「ちなみに、ヴェータライトとエクスキューショナーの効果は?」
「ヴェータライトですが、STRが1.25倍になって殴った時に3割の確率で恐慌状態に陥れます。その代わり、使用者はこれを使えば使うだけ空腹になります」
「デメリットはそれだけ?」
「それだけです」
「使用者の精神を蝕むとかはないの?」
「ありません。空腹にさせるだけです」
シスター・マリアが言い切ると、シスター・アルトリアの顔が引き攣った。
ペインロザリオに続き、またしても使い勝手が良い
「エクスキューショナーの方はどうなの?」
「STRが1.5倍になる代わりに、自分が執着するものへの独占欲が強まり、使用者の精神が不安定になると殺人衝動を引き起こすというものです」
「ヴェータライトよりは重いデメリットね」
「そうですね。ただ」
「ただ?」
シスター・マリアが補足したいことがあるとわかると、シスター・アルトリアが先を促した。
「使用者がドゥラスロールさんであれば、大したデメリットにはならないと思います」
「その理由は?」
「ドゥラスロールさんが執着するのは婚約者のダーイン君だけです。つまり、ダーイン君と一緒にいられるならば、精神が不安定になることはなく、実質ノーリスクでSTRを1.5倍にできます」
「なるほど。ダーイン君って<法術>使えてモテそうなんだし、ドゥラスロールさんと一緒にいる時間を長くできないの?」
シスター・アルトリアが質問すると、シスター・マリアは困った表情になった。
「あることにはありますが、正直私はそれをダーイン君に提案したくはありません」
「理由は後で聞くとして、どんなことを考えてるのかしら?」
「現在、ダーイン君は週2回生徒会の庶務として活動すれば、それ以外の日の午後は自由となってます。その自由時間を取り上げ、全て生徒会に時間を費やすように提案するのです」
「それしかないと思うけど、駄目なの? 婚約者が殺人鬼になるリスクをなくせるのだから、ダーイン君も喜んで協力するんじゃない?」
「それ、本気で言ってます?」
「どういうことかしら?」
シスター・アルトリアが言っていることは的外れであると思っているので、シスター・マリアはジト目を向けた。
シスター・アルトリアにしてみれば、なんでそんな視線を向けられなければならないのかわからないからその理由を訊ねた。
「まず、
「ええ」
「ダーイン君の場合は<法術>のせいで引く手数多ですし、それに加えて教皇様に手加減ありでも勝負に勝つ実力があったんです。ですから、
「そう聞いてるわ。そのどこが問題なの?」
「問題はダーイン君の興味が幅広いことです」
「詳しく話してちょうだい」
「まず、ダーイン君はダーインマヨネーズ、賢者クッキー、賢者ピクルスの生みの親です」
「あぁ、あれね。美味しかったわ」
既に食べたことがあったので、シスター・アルトリアはそれらがライトによって生み出されたことに感心した。
「次に、P5-1のオールドマン君に対して失伝したと言われてたルクスリア様の薬のレシピを渡しました」
「世紀の大発見じゃないの。サラッと何やってんのよ。1年生でしょ?」
「まだあります。ダーイン君には他人に神聖な力を馴染ませることで、スキルを神聖な力を持ったものに上書きできます」
「最早神の所業ね。なんでこの学校にいるのかしら?」
シスター・マリアから齎される報告を聞いてライトの凄まじさを思い知り、シスター・アルトリアの顔が引き攣った。
「そんなダーイン君から私は嫌われてます。どうやら、デスナイトの討伐遠征に無理矢理参加させたことで嫌われてしまいました。今日も帰還報告を受ける時、棘のある態度でしたし」
「あぁ、あの3ヶ月減給の処分にした時のやつね。まったく、どうして無理矢理参加させたのよ。そこはもうちょっと相手の気持ちを考えて頼むとかあるじゃないのよ」
「結果が同じなら、過程では効率を求めるべきだと考えました」
「はぁ・・・」
自分の娘ながら、どうして人の気持ちを考えずにドライな子になってしまったのかとシスター・アルトリアは頭が痛くなった。
不器用で不愛想だと思ってはいたが、期待の新星に嫌われてる担任というのはいただけない。
「ですから、私がダーイン君に頼んだところで引き受けてくれてもこれ以上嫌われるのは目に見えてます。余計に嫌われるのはいざという時の指示に従ってもらえなくなるので、私からは頼みたくありません」
「・・・しょうがないわね。私から頼んでみるわ」
「それは・・・」
「ええ、私は忙しいわよ。でも、貴女がやらかした尻拭いを私がしなきゃ駄目でしょ。申し訳なく思う気持ちがあるなら生徒への対応を見直しなさい。これで話は終わりよ。もう帰って良いわ」
シスター・アルトリアはこれ以上話すことはないと言って話を強制的に終了させた。
シスター・エクシアがほとんど空気だったが、それは誰も触れることはなく報告会が終わり、シスター・マリアとシスター・エクシアは校長室から退出した。
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