第29話 やらないか

 翌日、ライト達の午前の授業は実技だった。


 午後はクラブ活動のため、今日はG1-1の生徒は座学が1つもない日になる。


 火曜日と木曜日、土曜日はそのスケジュールなので、安息日の日曜日を除いて1週間の半分は座学のない日である。


 今日は土曜日で明日は日曜日だ。


 明日休めるならば、多少の無茶をしても構わない。


 このように考えるのが守護者ガーディアンクラスのカリキュラムな訳で、土曜日の実技は火曜日と木曜日よりも重めなのだ。


 とはいえ、ライト達は入学3日目にして実技の授業が1回目なので、他の学年とは違ってそこまで重くはならない。


 屋内の訓練施設にはG1-1の10人と担任のシスター・マリアがいた。


「それでは実技を行います。皆さんがどの程度動けるか知るため、今日は模擬戦を行います。二人一組を作って下さい」


 シスター・マリアの指示が出てすぐにアルバスがライトに声をかけようとしたが、アルバスとライトの前にオットーがやって来た。


 そして、笑みを浮かべてサムズアップした。


「やらないか」


「ウホッ! オトライかいな!?」


「チェンジでお願いします。アルバス、僕と組んで」


「お、おう」


 オットーがBLを彷彿とさせる言い回しで二人一組に誘って来たので、ライトは考えることなく断った。


 その時、ミーアが腐女子的発言をしたのでライトの中でミーアは要注意人物として記憶された。


 オットーはライトに断られて固まってしまったが、そんなことはライトの知ったことではない。


 ライトはノーマルであり、ヒルダを婚約者に持つ身である。


 だから、紛らわしい発言をしたオットーが本当はノーマルで偶然BL発言をしてしまっただけであっても、ライトはオットーとペアを組むのは嫌だったという訳だ。


 ちなみに、ライトにペアを組むのをフラれたオットーはミーアと組んでいた。


「ライト、なんでオットーの誘いを断ったんだ?」


「アルバス、君はアマイモンさんの反応を見て何か思わなかった?」


「なんか興奮してたな」


「・・・アルバス、君はこのまま清らかに大人になってくれ」


「何言ってんだこいつ?」


 BLを理解していないアルバスは、ライトが何を言っているのかさっぱりわからなかった。


 そんな流れをぶった切るようにシスター・マリアが再び口を開いた。


「ペアが組めましたね。では、最初に戦ってくれる組はありますか?」


「ライト、俺達から戦おうぜ」


「良いよ」


「では、ダーイン君とドゥネイル君から始めましょう」


 シスター・マリアに前に出るように促され、ライトとアルバスは指示に従った。


 ライトは既に訓練施設に常備されている剣を用意している。


 それとは対照的に、アルバスは自前の大鎌を持参している。


「準備ができましたね。殺すのは当然禁止ですが、それ以外は全力でやってもらって構いません。試合開始!」


「先手必勝! 【斬撃スラッシュ】」


 姉弟揃って同じ技を使ったのでライトは少しおかしく感じたが、ジェシカのそれよりも遅かったので、【防御壁プロテクション】を使わずに避けた。


「チッ、やっぱ単発じゃ効かねえか。【斬撃巣スラッシュネスト】」


 いくつもの斬撃がアルバスから繰り出されたが、ライトはしっかりと見極めて避けながら前進した。


 距離を詰められたとわかると、アルバスは今まで大振りするような持ち方だったが、振るのに小回りが利くように短く持ち変えて前進した。


 そして、ライトの頭に当たるように大鎌を振り下ろした。


「せいっ!」


「甘いよアルバス」


「「「・・・「「えぇっ!?」」・・・」」」


 ライトが取った行動を見て、クラスメイト達は思わず叫んでしまった。


 ライトと対峙しているアルバスと、審判のシスター・マリアも驚いてはいるが、叫ぶまではしなかった。


 アルバスの振り下ろしに対し、ライトが取った行動とは真剣白刃取りだ。


 しかし、普通の白刃取りではない。


 両手を頭上でクロスさせ、手の甲で大鎌の刃を挟んだのだ。


 まさか、そんな方法で止められるとは思っていなかったので、アルバスに隙が生じた。


 その隙を逃すはずもなく、ライトはアルバスの腹を蹴り飛ばした。


「うわっ!?」


「剣を持ってるからと言って、剣で攻撃するとは限らないよ」


 後方に倒れたアルバスの首に、剣先をライトが向けると我に返ったシスター・マリアが口を開いた。


「そこまで! 勝者、ダーイン君!」


「「「・・・「「すごっ!」」・・・」」」


 白刃取りに驚いていたクラスメイト達が1人残らず歓声を上げた。


 剣を鞘に納めると、ライトは倒れていたアルバスに手を差し出した。


「大丈夫?」


「お、おう。完璧にやられたぜ。つーかお前、誰に師事したんだよ? めっちゃ実戦的じゃねえか」


「その内話すよ」


「ちぇっ。まあ、良いけどよ」


 人前では話せない事情があるのだろうと判断し、アルバスはライトの手を借りて起き上がった。


「ダーイン君、今の技はアンジェラから習いましたね?」


「・・・はい」


「「「・・・「「えぇぇぇぇぇっ!?」」・・・」」」


 (忘れてた。アンジェラとシスター・マリアって知り合いじゃん)


 騒がしくなると思ってこの場では言うまいとしていたのだが、シスター・マリアはライトの考えを察することなく自分の興味を優先してしまった。


 昨日、アンジェラの名前が出たらジェシカが大仰に反応したことから、絶対にクラスではバレないようにしようと思ったのにシスター・マリアが余計なことをした。


 せめてもの抗議の気持ちとしてライトがシスター・マリアにジト目を向けると、シスター・マリアもようやくライトがアンジェラから習った事実を隠したかったのだと悟った。


「オホン。皆さん、静粛に。ダーイン君は今、スキルを使った訳ではありません。確かにスキルは強力ですが、スキルだけに依存せずに戦う必要があると感じさせる良い試合でした。皆さん、拍手」


 パチパチという拍手がライトに向けられた。


 その場を取り繕うため、シスター・マリアは教師っぽく学びがある戦いだったと評価して話題を逸らしたのである。


 多少強引ではあったが、拍手をしている内にクラスメイト達もアンジェラのことを気にしないようになった。


「それでは、次の組に移りましょう。戦ってくれるペアはありますか?」


「はい、私達がやります!」


「わかりました。シュミットさんとロアノーク君ですね。お願いします」


 ザックは何も言っていないので、どうやらアリサが勝手に話を決めたようだ。


 しかし、ザックは嫌だと意思表示をすることなく、アリスの正面に立った。


 そして、アリスとザックはそれぞれ戦槌ウォーハンマーと大剣を構えた。


「長重武器同士、派手にやりましょう」


「わかった」


「準備ができたようですね。試合開始!」


「【怪力打撃パワーストライク】」


「【怪力斬撃パワースラッシュ】」


 ガキィンと派手な金属音の鳴り響くパワーVSパワーの構図になり、アリスは戦槌ウォーハンマーを、ザックは大剣を全力で振るった。


 全力同士のぶつかり合いの結果、アリスとザックは動かなくなった。


 しかし、アリスがそのすぐ後に自分の戦槌ウォーハンマーを床に落とした。


「私の負けです。手が痺れて武器を持てません」


「そのようですね。勝者、ロアノーク君!」


 シスター・マリアが終わりを告げると、ザックが口を開いた。


「すごい」


「それ、ロアノーク君には言われたくないです。私、これでも工房で一番力持ちだったのに、撃ち負けました」


「違う。俺、戦槌ウォーハンマー、壊す気で撃った。でも、壊れなかった。すごい武器だ」


「あぁ、そういうことですか。父が気合を入れて作った戦槌ウォーハンマーです。そう簡単には壊せませんよ」


「俺の大剣、壊れたら頼む」


「・・・ありがとうございます」


 模擬戦に負けたが、自分を馬鹿にすることなく自分の父親の武器を褒めてくれたことが嬉しくて、アリスは負けた悔しさがどこかに行ってしまった。


 それだけではなく、将来のお客まで獲得できたのだから万々歳である。


 その後、残り3試合も順番に行われた。


 ミーアとオットーの試合は、オットーがミーアの放った矢を全て手でつかんだせいで、撃てるもののなくなったミーアが降参した。


 アズライトとエルザの試合は、両者共にガンガン攻撃するスタイルだったが、アズライトがMP切れを起こして負けた。


 ロゼッタとカタリナの試合は引き分けになった。


 どちらも相手を拘束した後、動けなくなってシスター・マリアが引き分けと判断したのだ。


 模擬戦全てが終わると時間が正午を回っており、実技の授業は終了となった。


 ライトとアルバスが食堂に向かおうとしたら、ライトだけシスター・マリアに居残りを命じられた。


 ライトは仕方なく、アルバスに今日は一緒に食べられないと告げてシスター・マリアから話を聞くことにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る