第22話 え? なんだって?
ライトが1人困っていると、いち早く落ち着いたヒルダがライトに説明し始めた。
「ライト、
「ルー婆だけ?」
「ルー婆?」
「あっ、いや、なんでもない。ルクスリア様だけだったんだ」
ルクスリアをルー婆呼ばわりしているとバレれば面倒なことになりかねないので、ライトはすぐに誤魔化した。
実際、つい先日まで鍛えてもらっていたライトとしてはルクスリア様と呼ぶのはとても違和感があるのだが、変な所でツッコミを入れられても困る。
ユグドラ汁を小さい頃から飲ませたルクスリアに対して様付けをしたいとは思えないけれど、周りに合わせるために様付けで呼んだ。
「流石お姉ちゃんのライトだね!」
「なんでイルミが威張るのよ。流石は私の婚約者だね」
「ヒルダも似たようなもんじゃん」
「はい、そこまでです。G1-1の皆さん、教室に戻りますよ。次のクラスが来てしまいますから」
「「「・・・「「はい」」・・・」」」
イルミがヒルダと喧嘩しそうになると、シスター・マリアがその流れを止めてG1-1を連れて教室へと戻ることになった。
ヒルダが自分に手を振るのを見ると、ライトも小さく手を振った。
校内で過剰にイチャイチャしていると、変なやっかみを受けてしまうからだ。
ライト達は私語なく教室まで戻ると、それぞれが元の席に座った。
ライト達がいない間に手の空いた者によって今後使う教材が用意されていたようで、それぞれの机の上には教材で小さい山ができていた。
「職業判定も終わりましたから、今日やるべきことはオリエンテーションのみです。今、皆さんの机の上には教材が用意されてますね? これらの教材は1年を通して座学で使いますから大切に使って下さい。わかりましたか?」
「「「・・・「「はい」」・・・」」」
生徒全員が頷くと、シスター・マリアがよろしいと頷いた。
「では、
そう言うとシスター・マリアが順番に教材を手に取り、その教材で何を学ぶのか説明し始めた。
「この黒い教科書は皆さんが将来倒さなくてはならないアンデッドについて書かれてます。1年生ではアンデッドと戦うことはありません。戦う前にアンデッドに対する正しい知識が必要だからです」
シスター・マリアが言う通り、
常識的に考えて、基礎を身に着けていない者に実践させるなど論外だ。
勿論、そんな余裕がないならばいきなり実戦を経験せざるを得ないが、幸い今のニブルヘイムはそこまで追い込まれていない。
だから、1年生のライト達はじっくりとアンデッドについて学ぶ時間がある。
「次に赤い教科書ですが、人類とアンデッドの戦いの歴史が記されてます。突然変異でもしない限り、同一種類のアンデッドの特徴は昔も今も変わりません。ですから、歴史から戦い方を学ぶのです」
故きを温ねて新しきを知るという言葉があるように、モンスターとの戦いの記録を学ぶことで将来の戦いに活かせる知識を身に着けることも大事だ。
赤い本では過去の偉大な
「その次の青い教科書ですが、これは四則演算を学ぶものです。
ライトを含め貴族であったり商人の子供であれば、小さい頃から四則演算は習っていることが多い。
勉強をサボっている者、農業や工業を営む家庭出身の者でなければ、この科目は余裕だ。
ライトにとっては1年間この科目のみ参加せずとも良いとすら言えよう。
中身が大人なのだからこれぐらいできて当然であり、転生前の記憶があれば三角関数までは余裕である。
「そして、最後の緑の教科書はアンデッドとの戦闘で役立つ
アンデッドと戦うにはあらゆるものを利用する必要がある。
それらを使いこなせなければ、瘴気やデメリットによって早死にしてしまうからだ。
これまでの説明を受け、どのアンデッドが瘴気によって人体にどんな被害を与えるか知れたらもっと良かったのにと思った。
しかし、1年生にそこまでのことは求められないだろうし、そもそもそんなデータがまとめられてないだろうと思い直してライトは期待するのを止めた。
「教材に関する説明は以上です。
流石に学内でアンデッドと戦えるような施設はないので、学内での実技は専ら模擬戦である。
割合から言えば座学:実技=3:7である。
イルミならば1:9か0:10でも一向に構わないと言っただろう。
「カリキュラムについての説明はここまでですが、質問はありますか?」
シスター・マリアはそう言いながら、生徒全員の顔を見回した。
10秒ぐらい待ったが誰の手も挙がらなかったので、次の内容に移った。
「では、最後に学生寮の説明です。学生寮は各コースの1組から5組がありますが、A棟、B棟、C棟の3棟に分かれてます。各棟には食堂もあります。貴方達の入るA棟は年次縦割りで1組だけがおり、部屋は全て個室になってます」
個室と聞いた瞬間に生徒の何人かがガッツポーズをしたのを見て、シスター・マリアがすぐに注意した。
「個室と聞いて浮かれてるようですが、これは1組に在籍してこその権利です。組の数字の人数がそのクラスに在籍する生徒の部屋の定員になるのです。座学も実技も疎かにしていれば、来年は2組に落ちますから気を引き締めることです」
喜んでいたところに水を差され、先程ガッツポーズした者達はすっかりおとなしくなった。
「教会学校の生徒である間は学生寮が貴方達の家です。少しでも家でゆっくりしたいと思うなら、限りある時間を有効に使いなさい。貴方達の部屋はA棟の1階にあります。部屋の札を見て、自分の部屋に入りなさい。制服も用意されてますから明日からはそれを着て下さい。よろしいですね?」
「「「・・・「「はい」」・・・」」」
「結構です。では、今日は解散とします。ダーインさん、号令をお願いします」
「はい。起立」
突然のご指名ではあったものの、ぼーっとしていた訳でもなかったのでライトはすぐに反応した。
ライトの声を聞いて他の生徒はすぐに席から立ち上がった。
「気をつけ、礼」
ライトに倣って他の生徒も頭を下げた。
それを見届けるとシスター・マリアが教室から出て行った。
そうなれば、今からは明日の始業時刻まで自由時間である。
自由時間になった途端、アルバスはライトに話しかけた。
「なあ、ライト」
「何?」
「イルミさんって、婚約者いたりする?」
「え? なんだって?」
自分の聞き間違いではないかと思い、ライトは無意識に難聴系主人公のお約束のセリフを口にしてしまった。
「だからさ、お前のお姉さんって婚約者いるのか?」
「・・・マジか。アルバス、それマジで言ってる?」
どうやら聞き間違いではないとわかると、ライトは苦笑せずにはいられなかった。
「あの快活な笑顔に天真爛漫という言葉が相応しい雰囲気。俺の憧れが詰まってるように感じた」
「ウン、ソウダネ」
快活な笑顔だとか天真爛漫と言われ、ライトの頬は引きつらないはずがなかった。
純粋に何も考えずに勝手気ままに振舞っている脳筋というのが、ライトの抱くイルミの印象である。
それをどう美化すればアルバスの抱く印象になるのだろうか。
「ライト? 喋り方が変だぞ?」
「そんなことないよ」
「そうか? まあ、良いや。それでさ、どうなんだよ? ライトみたいに婚約者いるの?」
ライトの様子よりもイルミに婚約者がいるかどうかの方が重要らしく、アルバスは回答を催促した。
「いないよ。というかイルミ姉ちゃんは自分よりも強くなきゃ異性としては認めないと思う」
「わかった。俺、イルミさんに認めてもらえるように強くなる」
「・・・そっか。頑張れ」
「おう。ライトも協力頼む」
「前向きに検討することを善処するよ」
「それ、逃げ口上だって知ってる。頼む。協力してくれ」
「考えとくよ。それよりも早く寮に行かない? 部屋が気になるんだ」
「確かにな。行ってみるか」
アルバスも寮の部屋が気になったらしく、ライトの話題転換に乗って2人は寮へと移動した。
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