第21話 あれ、僕何かやっちゃいました?

 雑談の時間が終わると、シスター・マリアが再び口を開いた。


「はい、時間です。これより職業判定に向かいます。一列に並んで私の後ろについて来て下さい。勿論、私語は慎むように」


 下手に逆らうことなくライト達はシスター・マリアの後に続き、G1-1の教室から出た。


 シスター・マリアに連れられて到着したのは、屋内にある訓練施設だった。


 そこには水晶玉とそれを乗せたテーブル、その前に椅子が2セットずつあり、テーブルの向こうには記録係として生徒会役員が待機してた。


 待機していた者達が生徒会だとライトが判断できたのは、ライトに元気いっぱいに手を振るイルミと小さく手を振るヒルダの姿があったからだ。


「ここが屋内訓練場です。今日だけは終日新入生の職業判定に使いますが、本来は屋内での模擬戦や訓練に使われます」


「シスター・マリア、質問よろしいでしょうか?」


「ウォーロック君、許可します」


「あの方達が今期の生徒会役員でしょうか?」


「その通りです。今日は新入生の入学試験があるため、一部の仕事に協力してもらってます。貴女達、挨拶なさい」


 シスター・マリアに促され、生徒会役員の4人がライト達の前にやって来た。


 最初に口を開いたのはアルバスと同じ緑髪の女生徒だった。


「こんにちは。私が今期の生徒会長、G5-1のジェシカ=ドゥネイルです。そこにいる愚弟の姉です。愚弟が何か余計なことをしたら遠慮せず私まで言って下さい。よろしくお願いします」


「姉上、誰が愚弟だよ」


「何か言いたいことでも?」


「・・・なんでもねえ」


 笑って訊き返しただけのように見えたが、アルバスが自らの発言を取り下げる際に震えていたため、ライトはアルバスが姉には頭が上がらないのだろうと察した。


 次に口を開いたのはザックと同じ紫色で長髪の女生徒だった。


「G5-1。メイリン=ロアノーク。副会長。ザックの姉」


 その場にいるザックを除くG1-1全員がそうだろうなと頭の中で思った。


 そう思うのが当然なぐらい、口数の少なさや佇まいがそっくりだったのだ。


 メイリンの次はイルミの番である。


「こんにちは! G4-1のイルミ=ダーインだよ! 生徒会では書記でライトのお姉ちゃんだからね! よろしく!」


 その瞬間、ライト以外全員の視線がライトに集中した。


 あんなに自由で元気溢れる人がライトの姉なのかと皆の目が疑問を呈していたのは言うまでもない。


 ライトはそんなイルミを見て頭が痛くなり、額に手をやったのは仕方のないことだろう。


 そして、イルミが終わればヒルダの番だ。


「こんにちは。G4-1のヒルダ=ドゥラスロールです。役職は会計でライトのです。仲良くできると思います」


 ヒルダの発言によって再びライトに視線が集まった。


 あの人、とても良い笑顔で怖いこと言っているけど本当なのかと目だけで質問している。


 イルミの時はともかくヒルダの発言まで無視はできないので、ライトは首を縦に振って皆の疑問に答えた。


「では、これより職業判定を行います。ロアノーク君、オネスティさん、オルトリンデさん、ドゥネイル君、ダーイン君は左のテーブルで判定しなさい。ドゥネイルさんとドゥラスロールさん、お願いしますね」


「「はい」」


「右のテーブルは、シュミットさん、スタンレー君、ウォーロック君、フローラさん、アマイモンさんです。ロアノークさん、ダーインさん、お願いします」


「「はい」」


 ライト達は割り振られた通りにそれぞれの列に並んで職業判定を始めた。


 職業判定に使われる水晶は当然のことながら魔法道具マジックアイテムである。


 その名も職業診断器ジョブチェッカー


 職業診断器ジョブチェッカーに手をかざすだけで、その者にふさわしい職業を診断して決定する機能がある。


 最初に職業診断器ジョブチェッカーに手をかざしたのは、ライトと同じ列に並ぶザックだった。


 ザックが手をかざしたことで職業診断器ジョブチェッカーに光が灯った。


重騎士アーマーナイト


 機械的な音声がザックの職業を発表した。


 ザックが手を遠ざけることで職業診断器ジョブチェッカーの光は消えた。


 今度は反対側の列でアリサの職業が発表された。


戦鍛冶ウォースミス


「うん、わかってました」


 アリサは自分の職業が予想通りだったらしく、聞こえて来た音声に苦笑いで応じていた。


 その次はカタリナの番で、おずおずと職業診断器ジョブチェッカーに手をかざした。


 すると、職業診断器ジョブチェッカーが光ったが何も声が聞こえなかった。


「あ、あのぅ・・・、も、もしかして、壊しちゃいましたか?」


 不安になってカタリナがジェシカに訊ねると、ジェシカは優しく微笑んだ。


「大丈夫です。珍しい職業の場合、判定に少し時間がかかるだけですから。心配せずに隣の列の様子でも見ていましょう。そうしてる間に職業診断器ジョブチェッカーが教えてくれますよ」


「は、はい」


 ジェシカに諭されて少しホッとしたカタリナは、隣の列の判定を見て自分の職業について考えないことにした。


 その一方、オットーの判定は早かった。


武闘家グラップラー


 これも納得のいく結果だった。


 道着を着て肉弾戦で戦うと言っていたのに武闘家グラップラー以外の職業が判定されたら、それこそ職業診断器ジョブチェッカーの故障を疑うだろう。


死霊魔術師ネクロマンサー


 オットーの判定のすぐ後にカタリナの判定が出た。


「ネ、死霊魔術師ネクロマンサーってどんな職業でしょうか?」


「アンデッドを召喚したり使役できる職業ですね。努力次第では一騎当千の活躍ができますから、是非とも頑張って下さい」


「は、はい!」


 決して役に立たない職業ではないとわかり、カタリナは嬉しそうに返事をした。


 反対の列では、アズライトが職業診断器ジョブチェッカーに手をかざしていた。


魔術師マジシャン


「ふぅ、良かった」


 ウォーロック伯爵家の者として魔法職以外の職業だと問題があるらしく、アズライトはこの結果が出て肩の荷が下りたようだった。


「私の番ですわ」


 エルザが手をかざすと、職業診断器ジョブチェッカーは迷うことなく判定を出した。


剣士フェンサー


「当然ですわね」


 疑う余地のない結果にエルザは大して興味も示さなかった。


 右側の列ではロゼッタがのんびりと職業診断器ジョブチェッカーに手をかざしていた。


 しかし、職業診断器ジョブチェッカーはロゼッタと違ってのんびりすることはなかった。


森呪師ドルイド


「植物を使うんですね~」


 のほほんとした口調だが、植物を良く知る者が森呪師ドルイドになることはアドバンテージがあるということだ。


 鬼に金棒とも言える判定なのに、そう見えないのはロゼッタが纏う雰囲気のせいに違いない。


「んじゃ、俺か」


「アルバスは蛮族バーバリアン一択です」


「姉上、なんてことを言うんだ!?」


 アルバスが手をかざすと職業診断器ジョブチェッカーが点灯した。


闘士ウォーリア


「よし!」


蛮族バーバリアンと大差ないですね」


「姉上、俺への当たりが強くない!?」


 アルバスが抗議するが、ジェシカはすまし顔でスルーしてミーアの判定を見ていた。


 憐れなアルバスである。


魔射手マジックアーチャー


「ほぉ、ただの射手アーチャーとちゃうんかい。驚いたで」


 ミーアは自分が射手アーチャーになると思っていたので、魔射手マジックアーチャーだと判定されて驚いていた。


 そして、ここまで9人の職業が判定されて残すところはライトだけだ。


 この場にいる者は全員ライトの職業が何になるのか注目していた。


 それは当然のことで、誰よりも先にG1-1に案内された新入生なのだからどんな職業なのか気にならないはずがない。


「心配しないで。ライトならどんな職業でも大丈夫だよ」


「ありがとう、ヒルダ」


 ライトが緊張しないようにヒルダがライトに声をかけた。


 この行動には意味がある。


 1つは上述の通り、ライトに声をかけることでライトの心配を払拭すること。


 もう1つは、この場にいる女子全員にライトと自分の関係をアピールして牽制することだ。


 ヒルダ、恐ろしい子とでも言っておこう。


 ライトが職業診断器ジョブチェッカーに手をかざすと、皆の視線が職業診断器ジョブチェッカーに集中した。


 しかし、カタリナと同じようにすぐには判定結果が出なかった。


 そして、カタリナよりも1分遅れてようやく職業診断器ジョブチェッカーは結論を出した。


賢者ワイズマン


「「「・・・「「えぇぇぇぇぇぇっ!?」」・・・」」」


 ライト以外の全員が衝撃の結果に叫んだ。


「あれ、僕何かやっちゃいました?」


 治療院での仕事に加えてダーインクラブでやることに追われていたライトは、歴史上の偉人の職業について特に調べていなかった。


 そのせいで1人だけピンと来ていなかった。

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