第20話 職業病かな? うっかりしてたよ
ライトとアルバスが雑談していると、時間の経過とともにG1-1の教室に8人の少年少女がやって来た。
最後の少女と一緒にシスター・マリアが教室に入った。
「皆さん、試験お疲れ様でした。現在、この教室にいる10人が私、マリア=ヘイズルーンが受け持つG1-1の生徒です。来年のクラス替えまで皆さんは多くの時間を共に過ごすでしょう。仲良くして下さい」
着席した10人を見渡しながら、シスター・マリアはもうこれ以上G1-1の生徒は増えないことを説明した。
「では、最初に自己紹介をしてもらいましょう。廊下に近い方の後列の右から左の順にお願いします」
自己紹介を始めろと言われ、シスター・マリアと一緒に教室に入って来た茶髪の少女が立ち上がった。
「アリサ=シュミットです。実家はセイントジョーカーでシュミット工房という鍛冶屋を営んでます。私の武器はこの
アリサと名乗る少女は背が低いのにもかかわらず、背中には身長とほとんど同じ大きさの
ニブルヘイムにはいないはずだが、ライトは彼女のことをドワーフのような少女だと思った。
アリサの番が終わると、その前に座っていた赤毛で短髪の少年が立ち上がった。
「おっす。俺の名はオットー=スタンレー。両親共に
オットーの服装は山吹色の道着だった。
ライトからすればドラ〇ンボールの住人にしか見えなかった。
オットーの次は藍色の髪の毛を後ろに結んだ少年が立ち上がった。
「僕はアズライト=ウォーロックです。ウォーロック伯爵家の次男です。魔法系スキルが得意です。よろしくお願いします」
ウォーロック伯爵家とは代々魔法系スキルを持つ子供が生まれる家柄だ。
アズライトの服にもウォーロック家の家紋が入っており、アズライトがそこの家の者であることを証明していた。
ウォーロック家の領地はダーインクラブの南にある。
だから、セイントジョーカー以南の出身のアズライトにライトはなんとなく好感を持った。
その次に立ち上がったのはピンク色の髪をした背の高い少女だった。
「こんにちは~。私は~、ロゼッタ=フローラです~。実家はフローラルって花屋で~、趣味と特技は植物を育てることです~。よろしくね~」
間延びした喋り方のロゼッタは一見G1-1ではなくP1-1向きの人材ではないかと思ったが、ライトは他人のコース選択にとやかく言う権利はないと思い直した。
ロゼッタの次は紫色のツインテールの少女の番である。
「やっほー。ウチはミーア=アマイモンや。アマイモン辺境伯家の次女やで。田舎もんやけど気にせんと話しかけてな。ウチ、弓を
アマイモン辺境伯と聞いて、ミーアが大陸の北端から来たことを知った。
とはいえ、それ以上の興味がある訳でもないのだが。
ミーアの番が終わると、今度は前の列の廊下側の少年が立ち上がった。
「ザック=ロアノーク。ロアノーク子爵家長男。大剣使い」
紫色の長髪であり、ザックの目はその髪に隠れてしまっている。
大剣を背負って群青色のコートを着ているが、寒色系で装備を統一しているザックを見てライトは仕事人のような印象を抱いた。
ザックの三行自己紹介の次はボブカットの銀髪の少女が立ち上がった。
「カ、カタリナ=オネスティです。実家はセイントジョーカーの外れの古書店です。わ、私は状態異常系のスキルが得意です。お、お願いします!」
緊張しているらしく、カタリナの声は若干震えていた。
自分以外の者が貴族か有名な鍛冶屋か花屋の子供であり、自分だけが一般庶民であることに怯えているらしい。
G1-1に入れた以上彼女がそんなに委縮することもないのだが、こればかりは本人のメンタル面の問題なのでどうしようもないだろう。
カタリナの次に金髪のドリル巻き髪の少女が立ち上がった。
「皆さん、ごきげんよう。私はオルトリンデ侯爵家長女、エルザ=オルトリンデですわ。私の武器はレイピアですわ。以後よろしくお願いしますわ」
最後に髪をファサーってさせるあたり、完全なる貴族令嬢である。
というよりも、金髪ドリルで語尾が”ですわ”の時点であまりにもテンプレで思わずライトは吹き出しそうになった。
だが、いきなり噴き出しては失礼なので必死に大笑いしたい気持ちを押し殺して耐えたのだ。
伊達にライトは治療院での患者対応を続けてはいない。
患者の中には時々キャラの濃い人も紛れている。
しかし、治療する前に相手を不快にさせてはいけないから、ライトは笑い耐性にも強くなっている。
エルザの番が終わればライトの隣にいるアルバスの番だ。
「俺はアルバス=ドゥネイルだ。ドゥネイル公爵家の長男で武器はこの大鎌だ。公爵家だが堅苦しいのは嫌いだ。気軽に話しかけてくれ。よろしく」
アルバスの自己紹介はミーアのものを参考にしたらしい。
公爵家と名乗ってしまうと、どうしても話しかけづらい雰囲気になってしまう。
だから、アルバスは堅苦しいのが嫌いだと言うことで少しでも話しかけやすくなるようにクラスメイトに言質を与えたのだ。
そして、アルバスの番が終われば最後はライトの番である。
「僕はライト=ダーインです。ダーイン公爵家の長男でダーイン治療院で医者の仕事をしてました。この口調なのは職業病みたいなものなんで気にしないで下さい。よろしくお願いします」
「あれが100%治すって評判の医者か・・・」
「庶民の味方だって聞いてたけど、本当に同い年だったなんて」
「・・・す、すごいです」
(あれ、なんか失敗しちゃったかな?)
クラスメイト達から尊敬の眼差しを向けられてしまい、ライトは困った表情になった。
そんなライトを見て、アルバスはやれやれと首を振ったがもう遅かった。
このような形で自己紹介が終わると、シスター・マリアが再び口を開いた。
「皆さん、ありがとうございました。今年のG1-1は色々と人材が豊作なので私が担任になりました。どうか問題だけは起こさないで下さい。そうしてくれれば私も無駄な罰を与えずに済みますので」
(
シスター・マリアの発言を聞き、ライトは2年前にヒルダとイルミが連行されたのを思い出した。
とりあえず、問題さえ起こさなければ説教されることもないだろうと思い、ライトは余程のことがない限り問題を起こさないように気を付けることにした。
ライト達が頷くのを見て、シスター・マリアは話を続けた。
「では、職業判定まで時間がありますので、少しの間だけ自由時間とします。先程の自己紹介だけでは話し足りないでしょうから、騒がない限り私語を許します」
そう言い終わると、シスター・マリアは教壇に用意されていた椅子に座った。
それと同時にアルバスがライトの肩を叩いた。
「ライト、お前何やってんだよ」
「職業病かな? うっかりしてたよ」
「うっかりじゃねえよ。折角、俺が砕けた感じで自己紹介してんのにお前がそんなんでどうすんのさ」
「患者さんにタメ口使っちゃうよりはマシじゃないかな?」
「はぁ・・・。しょうがねえなぁ」
ライトに言ってもしょうがないと理解したので、アルバスはこれ以上は言わないことにした。
すると、カタリナがモジモジしながらライトの前にやって来た。
「あのあの、ダーイン君、ありがとうございました」
「・・・何がでしょうか?」
いきなりカタリナにお礼を言われても、ライトには心当たりがなかったので首を傾げた。
「わ、私のおばあちゃんが、ダーイン君に治療してもらったんです。今も元気にしてます。ほ、本当にありがとうございました」
頭を90度下げて感謝の気持ちを伝えるカタリナに対し、ライトはできるだけ怯えさせないように口を開いた。
「頭を上げて下さい、オネスティさん。医者として当然のことをしたまでですから。おばあさんが元気だと聞いてホッとしました」
「はわわ・・・。と、尊い・・・」
「これ、ライトが悪い訳じゃねえかもなぁ」
ライトとカタリナのやり取りを見て、ライトの口調がですます調なのは無理に変えさせない方が良いのかもしれないとアルバスは悟った。
だが、自分と喋る時だけは砕けた口調になってほしいと同時に願った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます