第18話 手加減する。それに、半殺しまでなら自分で治せるだろ?
ライトはイルミとヒルダの案内で
教会学校は入学時点において、
全コース共通の筆記試験を受けてから、それぞれのコースの実技試験を受けてクラスが決まる。
アンデッドへの対抗勢力として教会学校は来るもの拒まずの姿勢であり、余程態度が悪かったとか入学の意思がない限りは不合格になることはない。
そこで重要なのがこの入学試験という訳だ。
入学試験で良い成績になれば、入学後に質の高い教室で授業を受けられる。
それぞれ1組から5組まであり、数字が小さい程優秀とされる。
それに加えて年次によっても識別される。
例えば、
このGは
3年前にセイントジョーカーを訪れた際、ヒルダに話を聞いてから考えた結果、ライトは
人を守るにしろ治療して救うにしろ、最低限の戦闘力がないと困ると判断したのだ。
もっとも、今のところ
それはさておき、ライトは試験会場に着いた。
イルミとヒルダと別れると、ライトは受験票に従って席に着いた。
会場を見渡せば知り合い同士で喋っている者、時間ギリギリまで知識の詰め込みに余念がない者、昨日寝られなかったのか会場で寝ている者と多種多様だった。
そこに、
その女性にライトは見覚えがあった。
以前、イルミとヒルダが模擬戦をした時に割って入って2人に説教したシスター・マリアである。
「はい、静かに! これより筆記試験を始めます! 試験に関係ない物は直ちにしまいなさい! 先頭の席の受験者に1列分ずつ問題用紙と回答用紙を順番に配ります!」
きびきびと動き、シスター・マリアは問題用紙と回答用紙を配り終えた。
「回答時間は1時間です! 早く終わった者は挙手すること! 問題がないようでしたら実技試験に行かせます! それでは、始め!」
シスター・マリアの合図と同時に、室内の受験者全員が試験に取り組み始めた。
試験開始から5分とかからずライトは全ての問題を解き終え、それどころか見直しも終えていた。
(嘘でしょ? こんな簡単な問題で良いの?)
そんな風に思ったライトは、カンニングと思われない範囲でチラッと周囲の様子を窺った。
ところが、ライトの周囲の受験者達はまだまだ必死に問題を解いている最中だった。
(あっ、これアカンやつや。ルー婆の詰め込み教育って教会学校の何年分だったんだ?)
ルクスリアに昨日までバリバリ鍛えられていたライトにとって、解き終えた筆記試験はあまりにも簡単過ぎた。
だが、ここで手を挙げようものなら悪目立ちすることは必至である。
だから、ライトはもう少し時間が経つまで適当に時間を潰すことにした。
しかし、そんなライトの目論見は早々に崩されることになった。
何故なら、シスター・マリアがライトをロックオンしていたからだ。
ライトが解き終えたと察するや否や、シスター・マリアはライトの席までやって来た。
「終わってますね? じゃあ、廊下に出なさい。係の者が待ってるから、そのまま実技試験の会場に案内しますから」
「あっ、はい」
有無を言わせない雰囲気だったため、ライトは筆記試験の会場で目立たないというささやかな目標を諦めて静かに廊下に出た。
すると、ヒルダが待っていた。
「流石はライト。びっくりするぐらい早いね」
「あれ、ヒルダが案内してくれるの?」
「うん。実技試験の会場まで案内するよ」
「よろしく」
「任せて」
移動中とはいえまだ試験の最中なので、ライトはヒルダに積極的に話しかけたりはしなかった。
知り合いが案内係だったからカンニングしただろうなんていらぬ勘繰りをされないようにするためだ。
ヒルダもそれを察しており、本当はライトと喋りたかったが我慢して案内するだけに留まった。
ヒルダが案内した先はグラウンドだった。
グラウンドにはどういう訳かローランドがいた。
「お久しぶりです、叔父様」
「よう、ライト。お前ってマジで頭良いんだな。俺と相手できる時間に来た奴なんて教皇に就任してからお前が初めてだぞ?」
ローランドは驚いていた。
毎年、一応決めていた時間が来るまでここにいたが、今日まで自分の目の前に1年生が来ることはなかったからだ。
とはいえ、ライトはそんな事情を全く知らないので、自分の抱いた疑問をストレートにぶつけた。
「どういうことでしょうか?」
「教会としても若い世代の教育は急務だ。だから、教会学校で見込みのある奴は俺が直々に見定めることにしてたのさ。筆記試験を20分以内に解き終えた奴は俺への挑戦権が与えられる」
「そうだったんですね。それで、実技試験では何をするのでしょうか?」
「どうすっかなぁ。ライトの場合、<法術>使いだから真価が発揮されるのはアンデッド戦か人の治療をする時だ。う~ん、試しに俺と戦ってみるか?」
「・・・はい?」
いきなり、ローランドに戦わないかと提案されてライトは自分の耳を疑った。
アンデッドとの戦闘経験はあるが、対人の戦闘経験は家族やヒルダとしかない。
そんな状態でバリバリの戦闘系であるローランドを相手にできるとはとても思えなかった。
「本当だったら筆記試験と実技試験の間に鑑定するんだが、義兄さんからライトは不要って言われたし時間も10分以上ある。よし、そうしよう」
「えっ、ちょっと待って下さい。僕は対人戦がそんなに得意じゃないですよ?」
「手加減する。それに、半殺しまでなら自分で治せるだろ? ライトの勝利条件は5分間俺の攻撃を避けて意識を保ったままでいるか、掠らせるのでも構わんから俺に攻撃を当てることだ。ドゥラスロール、審判を頼む」
「わかりました」
ヒルダを審判に指名し、ローランドは黙々と準備運動を始めた。
それを見たライトはここで何を言おうと結果は変わらないと悟り、自分も準備運動を始めた。
「ライト、得物は使うのか?」
「剣を使うこともありますが、齧った程度です」
「じゃあ、これを使え」
そう言うと、ローランドはグラウンドに並べられていた木剣をライトに投げ渡した。
ライトがそれをキャッチする頃にはローランドも木製の大剣を握っていた。
「それでは、教皇様とライトの試合を始めます。よろしいですか?」
「おう。いつでも良いぜ」
「僕も大丈夫です」
「わかりました。始めて下さい!」
「【
ライトが技名を唱えると、光の壁が地面に並行してライトの腰ぐらいの位置に現れた。
それに飛び乗ると、ライトは再びスキル名を唱えた。
「【
「・・・何やってんだ?」
「さあ、なんでしょうね。【
3回目の【
気づくのも当然のことで、ライトは【
「させるか!」
「【
パリィン!
ローランドがライトが足場にしている光の壁にジャンプすると、ライトはそれを妨害するように光の壁を展開した。
そのせいでローランドはライトの乗る光の壁に飛び移れず、突然現れた光の壁を大剣で力づくで割るに留まった。
それから先、ライトは時間が来るまでひたすら逃げ続けた。
光の壁が破られ、時々木剣でローランドの攻撃を受け流したりもした。
ローランドもここまで避けられ続けると、段々と攻撃を当てる気になった。
そして、手加減を忘れているんじゃないかとツッコみたくなる力加減でライトの展開する光の壁を割り、ライトに向かって大剣を振り下ろした。
しかし、この追いかけっこはヒルダによって終わりが告げられた。
「5分経過しました。勝者はライトです」
「チッ、丁度面白くなってきたのによぉ」
「はぁ、助かった・・・」
追いかけっこが終わると、ライトはホッとした表情になった。
すると、不完全燃焼だと言わんばかりの表情のままローランドがライトに訊ねた。
「ライト、お前は俺に攻撃を当てようって気は起きねえのか?」
「残念ながら、僕は対人戦向きのスキル構成ではありません。それに、僕の役割はアンデッドを倒して人を治療することです。そんな僕が自ら怪我をしに行けば、役割を放棄したのと同じでしょう?」
ライトの答えを聞くと、ローランドは一瞬キョトンとしたがすぐに笑い始めた。
「・・・クックック。そうだな。お前の役割は先陣切って戦うことじゃねえ。自分を守れねえような奴が仲間を治療できるはずもねえ。よし、お前は文句なしでG1-1だ!」
「ありがとうございました」
ライトはローランドに認められてG1-1に入ることが決まった。
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