第17話 あんなに気合の入った土下座、生まれて初めて見たわ

 翌朝、ライトは両親とアンジェラに連れられてセイントジョーカーに移動した。


 昨晩の出来事について、ライトはルクスリアに関することは省いてパーシーとエリザベスに話した。


 地下室から尋常じゃない気配が消えたとなれば、パーシーとエリザベスがすぐに気づくと思ったからだ。


 ライトから話を聞いてブレスレットになったダーインスレイヴを目にしたことで、パーシーとエリザベスはライトを抱き締めた。


 無茶な真似をしたことに対して怒る気持ちもあったが、それ以上に先祖が遺した呪武器カースウエポンを見つけるだけでなく、浄化して自らの力にしたと報告を受けた2人はライトを誇らしく思ったのである。


 この時をもってダーインスレイヴは公式にライト専用の呪武器カースウエポンになり、ライトが常に持ち歩くことになった。


 そんな訳で今もダーインスレイヴはライトの右手首に嵌まっている。


 ライト達がセイントジョーカーに着くと、ライト達以外にも教会学校に通うべくたくさんの家族が教会学校に向かっていた。


 パーシーはこの後の段取りについてライトが覚えているか心配になったので、確認することにした。


「ライト、教会学校に着いた後にどうするか言ってごらん」


「教会学校に着いたら入学試験を受けます。試験科目は筆記と実技です」


「その通りだ。筆記と実技の間に<鑑定>持ちの試験官がステータスを教えてくれるから、それを利用すると良い。強制ではないし鑑定結果を学校の教師陣に知られてしまうが、自分の実力を知っておくに越したことはないからな」


「その件ですが・・・」


「なんだ?」


「僕、<鑑定>持ってます」


「え?」


「あっ、そうよね」


 きょとんとするパーシーに対し、エリザベスはすぐに納得した。


「リジー、知ってたのかい?」


「いや、知ってたというよりはライトが持っててもおかしくない心当たりがあったのよ。というか、パーシーもそれぐらい思い出してほしいわ」


「え~っと、何かあったっけ・・・?」


 エリザベスにジト目を向けられ、パーシーは必死に思い出そうとしたのだがそれはできなかった。


「・・・はぁ。ほら、私の病を治してくれたでしょ? ライトが根治したって判断できたのはなんでかしら?」


「あぁ、そういうことか! ライトに<鑑定>があったからリジーの根治を判断できたってことか!」


「そうよ。ライト、合ってるかしら?」


「母様のおっしゃる通りです。流石は母様ですね」


「フフン、ライトの母親だもの。これぐらいはわかって当然よ」


 得意気に胸を張るエリザベスを見て、ライトは少しだけ意地悪したくなった。


「では、これはご存じでしたか?」


「「え゛?」」


 ライトが<道具箱アイテムボックス>を発動して亜空間から水差しを取り出すと、パーシーとエリザベスは驚きのあまり変な声を出してしまった。


「丁度良い機会ですから、僕が先天的に備わっていたスキルを父様と母様に申し上げておきます。僕が物心つく頃から使えたのは<法術>と<鑑定>、<道具箱アイテムボックス>の3つです」


「ラ、ラ、ラ、ライト? <鑑定>どころか<道具箱アイテムボックス>も会得してたのか?」


「・・・そういえば、ライトはどこに行くにも荷物が少なかったわ。なるほど、そういうことだったのね」


 パーシーは驚き過ぎて顔が引きつっていた。


 その一方、エリザベスは最初こそ驚いた表情を見せたが、すぐに冷静な表情に戻って納得していた。


「はい。父様と母様に黙っていたのはただでさえ<法術>で騒がしくしてしまいましたから、これ以上余計な心配をさせたくなかったのです」


「ライト、ちょっと待ちなさい。私達に黙ってたって言ったけど、他に誰かこのことを知ってるの?」


 ライトの発言に引っかかり、自分達よりも先に重要な話を知っている者がいると悟ってエリザベスはライトに訊ねた。


「イルミじゃないか?」


「「それはない(です)」」


 パーシーが割って入った発言に対し、ライトとエリザベスが息ぴったりに否定した。


「えっ、どうしてだい?」


「イルミ姉ちゃんに知られたら、僕が荷物持ちにされる未来しかないじゃないですか」


「そうね。というか、パーシーもライトを社会見学と称して荷物持ちさせたかもしれないわ」


「・・・君達、仲が良いよね」


「ライトの<法術>は魔法系スキルだもの。同じく魔法系スキルを使う私がライトを気に掛けるのは当然でしょ? パーシーだってイルミばっかり気にかけてるじゃないの」


「それはまあ否定できない」


 パーシーもエリザベスも共通して、自分の知識を糧にしてくれる子供の方に時間を割いてしまう傾向にある。


 だから、その点で言えばどっちもどっちだと言えよう。


「じゃあ、ライトのスキルは誰が知ってるのかしら? ヒルダちゃん?」


「いえ、アンジェラです」


「・・・ライトが教える訳ないわよね?」


 ライトが渋い表情で言うものだから、エリザベスはライトが自発的に教えてないのだと悟った。


「はい。運悪く<道具箱アイテムボックス>を使ってるタイミングで見つかってしまいました」


「はぁ。アンジェラのライト好きも筋金入りよね・・・」


「確かにそうだね。今回の移動もしばらくライトと会えないから絶対に同行させてくれって土下座して来たし」


「あんなに気合の入った土下座、生まれて初めて見たわ」


 教会学校は全寮制である。


 つまり、アンジェラはセイントジョーカーでライトの世話ができないのだ。


 教会学校では自主自立の精神を養うため、貴族がメイドや執事を連れて入学することが禁止されている。


 だから、アンジェラはライトが卒業するまでの間、長期休み以外ライトの世話をすることができなくなる。


 それがわかっていたから、アンジェラは昨日、ライトが地下室でダーインスレイヴを手に入れていた頃、パーシーとエリザベスに対して土下座をして同行許可を貰ったのだ。


 そんな話をしていると、ライト達は目的地の教会学校に到着した。


 蜥蜴車リザードカーを降りた途端にアンジェラが涙目でライトの両手を握った。


「若様、くれぐれもここで新しいメイドなんて見つけないで下さい。今更若様に媚びる雌なんて百害あって一利なしの寄生虫です」


「わかったから少し落ち着こうか、アンジェラ」


「はい・・・」


 しょぼんとしたアンジェラを見て、ライトは小さく息を吐いた。


「しょうがないな。アンジェラ、僕から役目を与える」


「本当ですか!? なんなりとお申し付け下さい!」


「うわっ、切り替え早っ!?」


「若様、何をすればよろしいでしょうか?」


 ライトにはアンジェラの背後に、喜んで横にブンブンと振られる犬の尻尾が見えた。


「落ち着け。僕の治療院の手入れと患者が来た時の対応を頼む。僕が帰って来た時、治療院をすぐに再開できるように維持してくれ」


「お任せ下さい!」


 ライトに役目を与えてもらえたことで、アンジェラのしょぼくれていた表情は生き生きしたものに変わった。


 そこに、ライトの知る2つの声がライト達の耳に届いた。


「ライト、お姉ちゃんだよ!」


「ライト~!」


 イルミとヒルダである。


 ライトが新1年生なのに対し、イルミとヒルダは今年で4年生だ。


 教会学校で学ぶ先輩としてきっと2人は頼れる存在になっているのだろう。


 現にイルミとヒルダの制服姿は堂々としたものであり、その腕には生徒会の腕章が嵌まっていた。


 イルミが書記でヒルダは会計の役割を担っている。


 生徒会長と副会長は5年生であり、庶務は現在誰もいないとヒルダからの手紙を受け取っているため、ライトは把握していた。


「久し振りだね、イルミ姉ちゃん、ヒルダ」


「そうね。これからはずっと模擬戦できるね」


「・・・少しは勉強しなよ」


「♪♪♪~」


 ライトに痛い所を突かれたイルミは口笛で誤魔化した。


「安心して、ライト。私、座学で学年1位だから。ライトにわからないことがあったらどんなことでも質問してね」


「頼りにしてるよ、ヒルダ」


「あれ、お姉ちゃんと対応が違わない?」


「フフン。婚約者だもの」


 首を傾げるイルミに対し、ヒルダはライトの腕を抱いてドヤ顔を披露した。


「じゃあ、イルミ、ヒルダちゃん、ライトを頼むよ」


「よろしくね」


「は~い」


「小父様、小母様、お任せ下さい」


 パーシーとエリザベスは頷くと、アンジェラが御者を務める蜥蜴車リザードカーに乗って出発した。


 そして、ライトもイルミとヒルダに連れられて入学試験の会場に向かった。

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