第2話 うげぇ、不味い。もう飲みたくない
転生から3年後、鹿角光貴、いや、転生した今はライト=ダーインと名付けられた男の子は部屋で腕立て伏せをしていた。
「98,99,100! 終わったぁ!」
『よく頑張ったわね。10分休憩したらもう1セット』
「ハァ、ハァ。この鬼! 悪魔! ルー婆!」
『あれ、私の聞き間違いかな? もっと筋トレを追い込みたいって? しょうがないなぁ』
「嘘ですごめんなさいもう言いません」
ライトがいる部屋は3歳の子供の部屋にしては広過ぎるものだった。
それもそのはず、ライトの生まれたダーイン家はニブルヘイム唯一の国家であるヘルハイル教皇国に4つしかない公爵家の1つであり、ライトはその公爵家長男なのだ。
もっとも、ライトには3つ年上の姉がおり、生まれた順番で言えば2番目である。
ちなみに、ライトの誕生は関係者を含むダーイン家総出で祝われた。
公爵家の長男が生まれたからと言うこともあるが、総出で祝われたのはライトの髪と目の色がその要因だ。
ライトが転生した時、母親の後ろで宙に浮いていた半透明の女性と同じ黒髪黒目だったことで、ライトには多大なる期待が寄せられている。
その半透明の女性とはルクスリア=ダーイン。
ダーイン家初代当主自らが守護霊になっており、ライトにルー婆と呼ばれるようになった。
生涯現役、一生独身を貫いたため直系の子孫はおらず、今のダーイン家は弟の息子を養子として迎え入れたことで続いている。
ニブルヘイムには本来、黒髪黒目の人間はいない。
それは、黒髪黒目にしか発現しない<法術>のせいである。
<法術>を使えた人間はニブルヘイムの歴史が始まって以来、ライトで2人目だ。
アンデッドを昇天させたり生者を治療するスキルは、生者とアンデッドが常に戦うニブルヘイムにとって渇望されているスキルなのだが、ルクスリア以来どの家にも会得できる者はいなかった。
そんなスキルを会得したライトが生まれたのだから、ダーイン家総出で祝うのも当然と言えよう。
なんと言っても、ニブルヘイムの未来の救世主になり得る可能性がある子が、再びダーイン家から生まれたのだから。
そして、ルクスリアがどうやって守護霊になっているかというと、死ぬずっと前から、自分の全盛期の姿を自分の死後に守護霊とする<法術>の中でも禁術とされる技を使ったと説明している。
自分が死んでもニブルヘイムが生者とアンデッドの戦いが終わるまでの間、ずっと後継者が現れるのを待ち続けていた。
そんな事情も知らず、ライトとして光貴が転生したのは偶然なのだが、ルクスリアにとっては待望の後継者なので冒頭のようにライトを鍛えているのである。
ルクスリアが考案した0歳から始められる毎日の鍛錬。
これにより、ライトは3歳になるまでに魔力の使い方や魔力の増強、体力の増強、筋力の向上、読み書き、スキルの使用等、体と脳が壊れない範囲でルクスリアの出したメニューを必死にこなしてきた。
その結果、ライトのステータスは以下のようになっている。
-----------------------------------------
名前:ライト=ダーイン 種族:人間
年齢:3 性別:男 Lv:1
-----------------------------------------
HP:50/50
MP:150/150
STR:50
VIT:50
DEX:50
AGI:50
INT:50
LUK:10
-----------------------------------------
称号:ダーイン公爵家長男
職業:なし
スキル:<法術><鑑定><
<状態異常耐性><HP回復速度上昇><MP回復速度上昇>
装備:なし
備考:疲労
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HPはHit Point(ヒットポイント)で体力を意味し、睡眠と食事で回復する。
MPはMagic Point(マジックポイント)で魔力を意味し、睡眠、食事、時間経過で回復する。
STRはStrength(ストレングス)で力を意味し、攻撃力と置き換えられる。
VITはVitality(バイタリティ)で生命力を意味し、防御力と置き換えられる。
DEXはDexterity(デクステリティ)で器用さを意味する。
AGIはAglility(アジリティ)で敏捷性を意味し、素早さと置き換えられる。
INTはIntelligence(インテリジェンス)で知力を意味する。
LUKはLuck(ラック)で幸運を意味する。
一般的な3歳児だと、Lv1で能力値がオール5となるのが平均である。
それにもかかわらず、ライトは一般的な3歳児の10倍のHP、STR、VIT、DEX、AGI、INTを保持し、MPに関して言えばその30倍である。
Lv1にもかかわらず、ここまで鍛えられたのは、間違いなくルクスリアの鍛錬のおかげだ。
LUKだけはレベルアップしないと上がらないし、上り幅も当然個人差が生じる。
だから、ルクスリアの鍛錬はLUK以外を伸ばすメニューとなっている。
さて、ルクスリアが組んだメニューをこなして今日のノルマが終わると、今日もライトにとってげんなりする時間が来てしまった。
『ライト、さっさとユグドラ汁を飲んじゃいなさい。トレーニング直後じゃなきゃ効果が最大化されないのよ』
「ユグドラ汁ってエナドリじゃん! 子供に飲ませて良い物じゃないよ!」
転生前の社会人時代、ライトも良くお世話になった飲み物だが、転生したせいでM〇NSTERの味がするエナジードリンク、もといユグドラ汁を舌が受け付けなくなっていた。
だから、ライトはトレーニング後のユグドラ汁の摂取が他の何よりも嫌いだ。
このユグドラ汁だが、名前から想像がつくかもしれないが、
これがなければ、ライトがレベルアップせずにここまでの成長を見せることはなかっただろう。
ユグドラ汁はどこから手に入っているのかというと、ルクスリアのスキルの<
このスキルは自分が使用したことのある薬品をMPを消費することで、記憶から創り出すことができるものだ。
「うげぇ、不味い。もう飲みたくない」
『飲みなさい。その1杯が貴方を生き残らせるかもしれないでしょ?』
「ルー婆だってもし生きてたらユグドラ汁を飲みたくないくせに。数ある
恨みがましそうな目でライトがルクスリアを見ると、ルクスリアは瞬時にライトから視線を逸らした。
いくら後継者を育成するためとはいえ、自分にここまでの苦行を強いるルクスリアに対し、ライトが文句を言うのも仕方のないことだろう。
『ほら、ぐずぐずしてるともうすぐイルミが来るわよ?』
「うぅ、ルー婆の鬼!」
それだけ言うと、ライトはコップに並々注がれたユグドラ汁を一気飲みした。
すると、ライトは喉が受け付けず、込み上げる感覚をどうにか気合で抑えてユグドラ汁を飲み干した。
「ゲホッゲホッ。【
少し噎せたが、ライトは汗だくの体とユグドラ汁を飲んだ不快感をなかったことにするため、【
体内からMPが消費され、その代わりに部屋を優しい光が包み込んだ。
光が収まると、ライトはとても清潔な状態で口内の不快感もさっぱりした状態になった。
それどころか部屋も埃が全く見当たらないぐらいピカピカになっている。
『相変わらず器用に【
【
ルクスリアが使っていた頃は、大雑把に部屋の掃除にしか使っていなかったのだが、ライトは体すら清潔にできるようになった。
これは現代地球の転生者であるライトとこの世界しか知らないルクスリアの想像力の差によるものである。
それはさておき、ライトが身支度を整えて部屋の掃除を済ませたところで、ライトの部屋が元気良く開けられた。
「ライト、お姉ちゃんと遊びましょ!」
6歳になるライトの姉、イルミが元気いっぱいという様子でライトを遊びに誘いに来た。
金髪碧眼の人形のようなかわいい見た目の女の子だが、その性格は活発で落ち着きがない。
ライトの1日はルクスリアの日課の鍛錬が終わってもまだまだ終わらない。
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