わるだくみ(冥府の門side)

【冥府の門】はビア帝国と亜人圏の間にぱっくり開いた大きな亀裂である。

恐ろしく大きな亀裂の光も届かない底の底の底には麻薬王が支配する亜人達の街が広がっている。

光も届かないまさに冥府の底と言って良い環境だが

五十数年前にビア帝国で発明された

永劫ランプと言う永久的に持続的に使える光源が街中に設置されている為

住民達は特に不便無く暮らしていた。


但し住民達の中には帝国及び人間を信じられず

永劫ランプを設置せず嫌っている偏屈な連中も存在している。

そういう偏屈な連中が住んでいる場所を暗黒街と呼んだ。


「如何考えても不便だろ、 何考えてるんだ君等」


暗黒街のとある建物の一室。

大勢の亜人達に囲まれて椅子に座る一人の女。

彼女はリソレ・ボウル・ビア(故)。

ビア帝国から【冥府の門】に派遣されている外交官である。

厚着をして帽子を被っている。


「用件を聞こう、 帝国の外交官」


頭がナイフになっている亜人が問う。


「マクスウェルが亜人圏に入った連中を人間圏に戻したいらしい」

「マクスウェルが何をしようと我々には関係無い」

「その中にビア帝国の皇子と皇女が居てもか?」

「・・・・・ビア帝国の連中は人間圏と亜人圏の交通はフリーパスじゃないのか?」

「おやおや、 私が規則を知らない奴に教えてやる程

お人好しに見られていたのかい?」

「喰えない女だ、 それで?」

「君等のボスは皇子も皇女も嫌いだろう? 私も好きか嫌いかで言えば嫌いだ

私がこんな谷底の下で追いやられていると言うのに

あいつ等はのうのうと太陽の下に居るのは不愉快極まる

だから排除に協力してやろうと言うのだ」


みちみち、 と音がしながら話すリソレ。


「・・・・・良いだろう、 アンタには色々便宜を図って貰っているからな

それで? アンタはそんな逆恨みで態々ここに来る訳じゃないだろう?

そんなお人好しじゃないからな」

「分かり合えて嬉しいよ、 君等が大使館にスパイを送り込んでいるだろうから

何れ情報が洩れる前に準備させようと思ってね」

「スパイがいると分かって何もしないのか?」

「どうせ新しいのを送って来るだろう

それに人間圏に戻りたい連中が死のうが生きようが私には関係無い

巻き添えを喰らって被害を被るのは御免だ

だから何時連中が来るのか教えるから始末してくれ

こちらに被害を出さず、 且つ後腐れ無く全員皆殺しに」

「最終的にはボスの判断に任せるが恐らく色よい返事が貰えるだろう」

「それは重畳、 では私はそろそろ戻るよ」


ぐらり、 と立ち上がるリソレ。

頭が天井にぶつかりながらもふらふらと歩き始めた。

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