第2話

 ユウリは、レイラのような世間知らずではない。

 いつもの通学路といっても、一人になると落ち着かなくなる。

 周りがやけに明白に見えるし、耳も妙によく聞こえるようになる。

 今日の帰り道にもそうだ。

 知らない鳥の鳴き声が一段と耳に障る。

 ようやく鳴き声が止み、後ろからの足音が再びユウリの神経を尖らせる。

 ペースがほぼ同じで、自分の足音にわざと合わせるような歩きがただ。ユウリが足早になると、向こうも速くなる。たまにずれた一歩が気のせいじゃないとユウリに知らせる。

 左に曲がって路地に入るのがいつものルートだけど、今日も路地へ逃げ込んだほうがいい?それともこのまま誰もいない道をまっすぐいく?

 躊躇っていたユウリはほんの少し足を止めた。

 後ろの足音は止まらなかった。

 追いつかれたユウリの首に息がかかる。

 「高木レイラから離れなさい」

 聞き覚えのない女の声に振り返ると、ユウリはだれ一人も見えなかった。



 一人で通学するのが嫌になった。

 とはいえ、知らない人に声かけられたくらいで騒いちゃっても無駄だろう。

 このやけに静寂な通学路を誰と一緒に歩けたら心強くなれるな。

 と、思ったばかりに、前の交差点に親しみのある黒い傘が見えてくる。

 「おはよう!レイラさん!」

 駆け足でレイラに追いつくユウリは元気よく手を振る。

 「あら。おはようございます。ユウリさん」

 「レイラさんは、毎日この道を通るの?」

 「いいえ。土地勘をまだつかんでいませんので、通学の道も決まっていません」

 「じゃ、明日この時間にここで待っててくれない?一緒に登校しようよ!」

 「一緒に、ですか?」

 レイラは少しの躊躇いを見せる。

 ユウリは頭を下げて掌を合わせる。

 「一生のお願いです!」

 「いいですよ。よろこんで。」

 「本当?ありがとう!レイラさんがいてくれてすっごく助かる!実はね…」

 安心したユウリは昨日の出来事をレイラに話した。

 「私に離れてっと?なら、私と一緒に登校するほうが危なく思いません?」

 「いやだ。生涯離れない」

 「それはちょっと困ります」

 はしゃぎすぎてしまった。ユウリは軽く後悔する。

 大通りの前で二人は立ちすくんで、信号が青になるのを待つ。

 黙りこくるユウリを助けるように、レイラが話しかけた。

 「ユウリさんに尾行する方はなんのご用かしら。もしかしたらユウリさんをお慕いしていますかもね。うふふ」

 「笑いごとじゃないよ!レイラさんは私のこと心配しないの?」

 「心配、ですか」

レイラは何の前触れもなく拗ねているユウリの制服のスカーフに手を差し伸べる。

 「確かにね。ユウリさんのお首は綺麗なので、狙われやすいですもの」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る