好き嫌い

衛かもめ

第1話

 「なんだ、高木さんか」

 ふっと振り返ると、黒い傘をさしている同級生の顔を見たユウリは安堵した。

 「レイラでいいです」

 「レイラ、さん。おはようございます」

 「おはようございます。ユウリさん」

 二人は肩を並べて、学校に向かって歩き出す。

 「レイラさんは、このあたりで住んでいるの?」

 「そうですよ」

 ユウリは人付き合いが上手くないつもりだけど、下手なほうだとも思っていない。

 「どう、うちの学校もう慣れた?」

 「皆さんのおかげでだいぶ慣れました。」

 転校生のレイラに対しては、ちょうどいい態度を取っている。ユウリは冷たくもなく、お節介でもない。

 ちらっとレイラに目をやり、ユウリは息をのみ込んだ。

 「やはり雰囲気が違う」

 「ユウリさん?」

 思わずに本音を漏らしてしまったユウリにレイラは目を丸めて視線を合わせる。

 「実はね、みんなは噂しているんだ。レイラさんは何処かいい家のお嬢さんって」

 「それは何故かしら。ごく普通な家柄ですよ」

 薄い笑みを浮かばせるレイラを見て、ユウリは少し馴れ馴れしくしても大丈夫な気がした。

 「立ち振る舞いが違うっていうか。いろんな所に気を付けているっていうか。ほら、レイラさん今日もしっかり日傘指しているじゃないか。しかも高価そうな傘を」

 傘の曲がっていないハンドルの先に、銀色の雄ライオンの胸像が飾られている。天光が遮断されても、ライオンの目は赤く輝いている。

 「私は体が弱いのです。日に晒されたら眩暈がしてしまいますので」

 「それは大変だね」

 空気をしんどくしたくないユウリは話題を変える。

 「レイラさんも歩いて通学するんだ」

 「人前で飛んだりはしませんよ」

 ユウリは急な冗談に噴き出した。冗談が言えることは、気にしていない証拠だ。

 よかった。

 「そういうことじゃない。レイラさんはもっと気を付けた方がいいよ。最近は物騒だから、女子高生が行方不明になったニュースは見た?」

 「見ました」

 「怖くない?さき私も後ろに誰かがついてくると感じたけど、振り向いたらレイラさんでよかった」

 「私ではありません」

 「え?」

 「ユウリさんの後ろに誰かがいましたよ。私を見てどこかに姿を消しただけです」

 急に寒くなる空気にユウリの肌が粟立つ。

 「怖い話ししないでよ!で、どんな人」

 「ほかの高校の女の子らしいです。よく見えませんでした」

 「なんだ、女子高生か。なら大丈夫」

 ほっとしたユウリは力を入れた肩を落とす。

 「女子高生ではなかったら大変でした、ということですか」

 「もちろんよ!もし変な男だったらどうする?」

 薄笑いながら、レイラは小首をかしげる。

 「どんな方でも同じですよ。私、人の好き嫌いありませんから」


 

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