第3話 見たよねーちゃん

会社帰り、改札を出ると雨。

うわ。天気予報でぜんぜん言ってなかったし。

と思っていたところ、後ろから「よお」と声をかけられて振り返ると、幼なじみの健太だった。

「よお、久しぶり」

「おぅ。会社帰り?」

「うん、おまえも?」

「うん」

「なんか、、変な気分だな。お互いスーツでな」

「な。」

中学の頃までは親同士も仲良くて、よく遊んだけど、こうやって大人になってから会うと、なんかぎこちない。お互い、社会人一年目だ。

「じゃ、」と歩き出したいところだが、雨が止みそうもない。

健太が「ダメだな、止まないな」と言って、

「ちょっと、そこらで休んで帰んねぇ?」とファストフードを指差したので、なんとなく断われず、「んああ」と小走りで、ハンバーガー屋に入る。

注文のカウンターに並びながら、お互いの近況などをさぐりあう。

「引っ越したんじゃなかったっけ?」

「ああ、親だけね。親が田舎暮らしをしたいって、父親の実家の方に引っ越したんだけど、オレとねーちゃんはあのマンションに残ったんだよ」

「そうか。うちのかーちゃんが、引っ越しちゃったって言ってたから、もう居ないんだと思ってたよ」

「でも、会わないもんだな、近くに住んててもさ」

「ほんとだな。地元にどんぐらい居るんだろうな、同級生」

「なー、会わねぇよな」

「いつも、帰りこんぐらい?」

「いや、もう少し遅い」

「おまえは?」

「いやー今日は久しぶりに出先から直帰。こんなことめったにないのにこの雨」

「そうか、仕事たいへん?」

「たいへんっていうか、、辞めたい」

「わかる。オレも」

コーヒーを飲みながら窓の外を眺めていたら、お互いに弱音が出た。

弱音ついでに「それがさぁ、うちのアネキ、覚えてる? もうさ、やばいのよ」

健太に愚痴を聞いてほしくなった。

そしたら健太、「知ってるよ。あれ、おまえのアネキ、昔っからなんか不思議だったけどな」

「不思議に磨きがかかってダメ人間になってる」

「あ、そういえば見たよ俺。ねーちゃん見たよ、この店で。 なんかぁ、不思議な事やってた」

「ぇ?」

「あの、ポスターあんじゃん。あれ、スマホで撮ってた」

「へ?」

そのポスターを見ると、『新型コロナウィルス感染予防対策の取り組み』についての案内だったが、一番下に、店長さんらしき人の顔が小さく貼られていた。

「ちょっとごめん」

オレはポスターに吸い寄せられるように、よろよろとその写真を見に向かった。


いた。

ここにいたんだ。

ねーちゃんの好きな人。


「どうしたんだよ?」健太に声をかけられ我に返る。

健太に、「おまえのその格好、おまえのアネキにそっくりだな」と笑われ、背筋が凍る。

「やめて。ぞっとする…」

「アハハ、雨、止んだよ」

もやもやした頭のまま、雨上がりの外に出る。健太に「今度あらためて連絡していい? 飲みにでも行けたらなと思って」

と言われ、ラインを交換して別れた。

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