第44話 合宿一日目はカレー

 色んな部活動の様々なドラマが終わりを迎えた夕食の時間。様々な情報交換が、大きな食堂で行われていた。


「いやぁ、隣町の競合の奴らと偶然会ってさ―」

「今年のダークホースの練習見たか?」

「最終的に滝壺の中からさ―」

「......」


 なんかほんと面白そうな話しか出てきてねぇな。なんだ、滝壺て。そんな場所、ここにあったか?


 というか普通に考えて合宿初日でどんだけドラマが出来てるんだよ。俺だけか? 取り残されているのは。


 全員分のカレーを配り終え、俺は自分の席へと座る。場所は勿論というか、なんというか生徒会の席だ。


 部活動には入っていないし、食事の手伝いをしてくれた地元の人は自分の家へ。


 マネージャー陣は勿論自分の部活の席へと行く。まぁとどのつまり、俺の居場所がないって言う事だ。そうして去年というか、大体の生徒会の手伝いでの俺の居場所は生徒会役員達と同じになる。


 その事で俺に目くじらを立てる奴も少なくはない。これでも去年よりは少なくなってはいるが......。


「クイクイ」


 副生徒会長のメガネ野郎は睨みながら、メガネをクイクイしてるし。そのメガネ、へし折ってやろうか?


「ジトー」


 会計のやけに露出が多いギャル風の女子は俺の事見ながら飴舐めてる。飯前にお菓子食うなよ。飴砕くぞ?


 とまぁ、敵対心を向ける輩が多いことはわかってくれたとは思うが、現在俺の座っている席にも問題があるとは思う。


 両隣に現生徒会長の安心院と沢渡。そして目の前には、学園のアイドルの鈴音。


 生徒会のみならず、男だらけの運動部からは、それはそれは丁寧に殺意の籠った視線を投げられている。


 うん、どうしてこうなった。もう一度言おうか。


 ど う し て こ う な っ た。


「前門の美少女、後門の美少女......」

「何馬鹿なこと言ってるの?」

「そろそろか」


 隣の席の安心院がそう言い、きちんと背を伸ばしながら、立った。その姿はあまりにも凛としていて、いつまで経っても、何度見ようとも美しいとさえ感じてしまう。


「ここに集まる生徒の目指す夢、目標は様々だろう。それに向かっての貴重な今の時間を大切にして欲しい。みな、英気を養い明日の活動の繋げてくれれば本望だ。では、いただきます。」


「「頂きます!!!」」


 安心院の言葉から、食堂がまた違うざわつきを見せ始める。部活で疲れた体、泊まり込みでテンションが上がっている精神。そんな状態で仲間と食うカレーなんて。


 美味いに決まっているだろう。


「うめぇ!!!」

「なんだこのルー!!!」

「あ、星型の人参も入ってる、やった!」


 などなどである。星型の人参で盛り上がるなんて小学生か! と言いたい気持ちは抑えよう。なんたって、俺の横で恥ずかしそうに嬉しそうにしている沢渡が居るからだ。


「成功だな、沢渡」

「え、えへへ」


 沢渡の思いつきでただの無茶苦茶美味いカレーは、楽しく美味いカレーに早変わりだ。


 にこやかにカレーを食べる佐渡の姿に心が穏やかに......。


 ヒュンという凄まじい音が俺の横を通り抜けた。肉眼で確認できるスピードではなかったが、おそらく色は銀色。


 恐る恐る後ろを振り向くと、壁に哀れに突き刺さっているスプーンらしく柄が......。


 これなんて天丼ですか?


「すすすす鈴音さん!?」

「フン」


 な、な、なんで怒っていらっしゃるんですかこのゴリラサキュバスは。そして何事もなかったかのように食事を口に運ぶ鈴音。


 お前こうなること予測してスプーンを二個持ってきてたんかよ!? 用意周到だなおい!


「ちかりん、さすがに行事が悪いぞ」

「そ、それもそうね。ごめんねみれりん......」


 シュンとなる鈴音だ。さすがに現生徒会長にそんなことを言われては―。


 うん? パードゥン?


「今なんて?」

「ん? いや、スプーンを投げるもんだから―」

「いや、そこじゃなくて。鈴音を何て?」

「ちかりんは、ちかりんだろ?」

「そうよ、遥斗。みれりんが正しいわよ」

「お前らいつの間にそんな仲良くなってんだよ!?」

「「ふふふ」」


 不敵に合わせて笑うその姿に俺は悪寒を感じえない。


「あたし達の!」

「熱いバトルを!」

「語るのならば!」

「単行本一巻分!」

「約10万文字でも!」

「足りないわね!」

「息ぴったしだなおい! というかその表現伝わりづらいから!」


 いい汗かいたぜみたいな顔してる二人にどっと疲れが増す。本当になんなんだこいつらの相性ピッタリな口上は。天元突破でもしそうだぜ。


 椅子にもたれ掛かるように座ると、横から渋い声が俺の耳に届く。


「また、腕を上げられましたな篠塚様」

「せ、せ、せ、セバスチャンさん!? なんでいんの!?というかいつ来たの!?」

「先程、指した宿に届く分の食料を確認して来ましたのでこちらを」

「お、おう......」


 誕生日席で美味しそうにカレーとサラダを食べるセバスチャン。そこから手渡しされた食料やなんやらをささっと確認していく。


 海鮮、が多いな。さすがに海の街。去年は不作とか何とか言われてたけど今年は大いに食事で楽しめそうだ。


「うん、了解。久しぶりに生物でも作りますか」

「なにか準備することでもありますか?」

「うーん、これって捌いてきたのが来る感じ?」

「いえ、そのままがこちらに届きます。」

「なら、魚捌ける人かな。捌いたこともあるにはあるけど......。うーん、おばちゃん達に頼むか。セバスチャンさん、捌ける?」

「大型でなければ」

「凄いなほんと」


 明日の献立を考えている俺とセバスチャンさん。その横では顔を近付かせ何やら話している二人が居た。


「は、話が高次元過ぎて着いていけないわ......」

「ちかりん、こういうのは適材適所と言ってな―」

「お前らもちょっとは手伝え」

「「痛っ」」


 ガヤガヤといつまでも鳴り止まない食堂。まだまだ合宿は始まったばかりだ。


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「あとがき」


おまたせしました! のんびり投稿していきます!

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