第35話 体育祭、晴れのち快晴

 いつもよりかなり早い起床のアラームが部屋に響く。もう少し眠りたい気持ちを抑えながら、ゆっくりと体を起こす。


 うん、大丈夫そうだ。昨日佐渡に生気を吸い取られてからいやに体が重かったけど、今は嘘のように消えている。


 なんなら顔とかつやつやしてそう。してない? してないですかそうですか......。


 ま、まぁ気持ちを切り替えて今日は体育祭での弁当を作らなきゃいけない。昨日から仕込みをしているものもあるけど、今日は一段と頑張りますか。


 そう思って俺は自室から台所へと向かった。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 体育祭も例年通り近隣住民から苦情を得るレベルの盛り上がりを見せている。クラス別対抗リレーや、それぞれの競技で神のごとく僅差で戦っている。


 それを見ながら生徒会が座る席で、『ふつはっはっは』なんて悪役みたいな笑い声をあげている安心院。


 うん、本当に楽しそうで何よりですよ。


 生徒会役員として沢渡も、滅茶苦茶頑張っている。テニスラケットにテニスボールを複数個乗ってけて走る競技では、とことこと可愛らしくかつ素早く走り一位をもぎ取る。


 障害物リレーでも、同じクラスから声援を受けながら一位を独走とかなり貢献していた姿がかなり特徴的だ。


 その競技中、もちろん俺も応援している訳だが。


「......!」


 パチリと目が会い、恥ずかしそうに手を振ると競技に戻る沢渡。


 可愛いでしょあの子。俺の後輩なんですよ? へへ。とまぁ調子に乗りそうになる気持ちをグッと押え笑顔で返すというなんともまぁなヘタレ具合。


 そして鈴音も。


「鈴音様ァァァァァァァァ!」

「キャアアアアアアア!!! 鈴音様お美しいぃぃぃぃ!」

「ポニーテールが美しかったと......母さんに伝えて......くれ......」


 とんでもない程の黄色い声援と、重傷者の声を巻き上げるように出させるほどの活躍をしていた。


 例に漏れず、俺。そして雅も違うクラスでありながらも応援している。そして100m走で優雅に一位を取った鈴音が俺たちと目が合った。


「(にこっ)」

「「「うぐっ!!!」」」


 快晴のような笑顔と、控えめなピースサインで男女関係なく胸を撃ち抜かれ倒れた。もちろんその中には俺もいるが、こんな腑抜けた奴らと同じに捉えないで欲しい。


 俺は立っている。膝が震えているが。


「(べー)」

「はうっ!」


 最後のあっかんべーはずるいでしょ......。いたずらっ子のようなそんな表情で、俺はリタイアしたのだった......。


「篠塚」

「え、あ、はい。どうしました先輩」


 俺が奇声をあげながら、倒れていると後ろから声をかけられた。その声には聞き覚えがある。確か野球部のキャプテン的な先輩だったはずだ。


 そんな先輩がなんで俺の元に? そう思いながら後ろを振り向くと、そこには地獄が広がっていた。


「ヒェッ......」

「「前が見えないッス......」」


 そこには顔面が後頭部にめり込んだような野球部の後輩達らしき人物が、さらにボコボコにされて立っていた。


 瀕死と言うよりかはオーバーキルレベルの状態だ。それでもキャプテンからしっかり立て、ときつい口調で言われ背筋を伸ばす。


 普通に怖いんですけどこれはどうゆうこと?


「篠塚、昨日怪我したろ」

「え、はい。確か旗が飛んできて......」

「それはこいつらが遊んでいたからだ。本当にすまない」

「え、ちょっと!?」


 俺より倍はあるようなガタイのいい先輩が、綺麗に頭を下げて謝罪をしている。俺の周りにいる同級生は何事かと、視線を集めていた。


 やめろ、なんか凄い居た堪れない! 俺は遅刻とかした時にクラスはいる時のあの空気が苦手なんだ!


 慌てて頭を上げるように頼むと、先輩は申し訳なさそうな顔しながら頭をあげる。そして後輩たちの頭を強引に下げた。


「こいつらが部室で馬鹿にしながら話していることを聞いてな。問いただして昨日の篠塚の事に結びついたんだ。篠塚が望むなら退部でもなんでも―」

「そんなことしなくていいですよ!?」

「そうか......」


 少しだけほっとした様な顔を見せるキャプテン。


 そりゃそうだろ。確かに馬鹿にされてたのは腹立つけど、それで退部させろなんて言うほど俺は悪魔じゃない。


 俺との会話が終わりキャプテン達は、あとを去る。その際、ボコボコにされていた部員は俺の方へ体を向け、少しだけ頭を下げて走るようにキャプテンを追っていった。


「おい、見たか奥さん」

「ええ、やっぱり篠塚さんの家の子って......」

「お前ら雑な井戸端会議やめろ!」

「「「ははははは」」」


 もうそろそろ太陽も真上へと動き始める。そろそろ昼食の時間が迫っていた。








  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る