第34話 決着ゥ!!!

「......」

「......」



 重苦しい雰囲気が、場を支配する。先程のキャッキャウフフとはいかずとも、嫌にテンション高い空間があったとは思えないほどに沈んでいる。


 俺は息が絶え絶えといったふうに満身創痍。そして件のサキュバスというと......。


『もうあっしを、燃やしてくだせい......』


 ご覧の通りだ。スマホのディスプレイを顔の前に起きながらそんな文字を見せてくる。


 耳かきされていた俺と同じように、茹で上がったタコの様に真っ赤だ。しかもプルプルと震えている。


 うん、こうなるとは思ってはいたんだけどね? 沢渡はただでさえ内気な女の子だ。それが先輩相手に、サキュバス状態でテンションが上がっていたとはいえ、あんな口調で耳かきをしてしまったのだ。


 羞恥心で心が壊れそうだろう。だれだ、某クイズ番組でのおバカトリオの曲流してるのは。


 やめて差し上げろ。


「沢渡?」

「......っ!」


 ビクンと肩が跳ね上がる。まるでこれから怒られるみたいな子どものようなそんな行動に、少しだけ笑みがこぼれた。


「ありがとう、すげぇスッキリしたよ。」

「へっ......?」

「いや〜安心院から聞いてないか? 俺の体質。新陳代謝が良すぎて耳垢溜まりまくるんだよ。」


 難聴になるわ、耳が痒くなるわで大変だけどその分いい事も確かにある筈で。


「そりゃあ俺もめちゃくちゃびっくりしたけど、耳かきしてくれてありがとな。す、すげぇ気持ちよかった」

「先輩......」


 気持ちよかったって言うとなんだか変な感じになるけど、嘘は言っていない、嘘は言っていないはず。


 しどろもどろにさらにフォローしている俺の様子に、柔らかな笑みを沢渡は浮かべてから俺の手を取る。


 そして自身の柔らかそうな、すべすべした頬に手を重ねるように持っていくと目を閉じた。


 沢渡さん、それは童貞には刺激が強すぎますよ......。もちもちっとした感触とすべすべが仲良く同居するような感触。


 いくらでも触っていられそう。


「ありがとうございます......先輩......」

「お、おう......」


 潤んだ瞳と、ほのかに染まる頬。そして咲き誇る笑顔でそんなこと言われりゃ大抵の男の語彙は遥か彼方へと飛んでいくだろう。


 いつまでも笑っている後輩に、タジタジな先輩な俺であった。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 長いような一日を終えて、一人帰路に就いている。こうして一人で歩くのも久々のように感じる。だって、基本的に鈴音と居るし、というか帰ったらいるし、今年も生徒会の雑務が始まった。


 こうやってゆっくり帰るのも少なくなる。別に集団が嫌いなわけじゃないけど、たまにはこうして頭の中をリセットでもしたいなぁっていう日あるじゃん。


 あんな感じ。


 校門で沢渡と別れを告げる時、気になったので聞いてみた事を思い返す。


 なんでこんな時間になっているのに、先生に見つからなかったのか、という事柄だ。


 俺たちが保健室を出る頃には完全に闇の世界。時刻は八時を迎えていた。それなのに誰にも会わずに校門までいけるのはおかしいと思う。


 俺のそんな問いに沢渡は丁寧に答えてくれた。


「サキュバスが持つ魔法で上手い具合にやっておきました。」

「へ? そんなことできるの?」

「ええ。私はあまり得意では無いですが、保健室の一室をもう一つ作り上げるぐらいにはできますね」


 サキュバス恐るべし。そんな魔法があるなら、滅茶苦茶できるじゃないかと思ったが、意外とそんなことも無いらしい。


 基本的には人から生気を奪う用途に合わせた魔法しか使えないとのことだ。そして沢渡は地球から湧き出している魔力を吸収できるらしい。


 それが出来ないのは純粋な人間か、それともハーフサキュバスぐらいだと......。


 純粋なサキュバスはやっぱり凄い。その気になれば廃人にでもされそうな勢いだろう。現にめっちゃ体が重い。


 沢渡は苦笑気味に搾り取りすぎましたと言っていたが......。


 聞き慣れている音楽がよく聞こえる。慣れた帰り道を歩きながら、俺は何気なくスマホを見た。


「うわっ!?」


 思わず声が出てしまい、周りを見渡す。どうやら周囲には誰もいなかったらしい。あぶねぇ、ヤバいやつだと思われるとこだった。


「通知140件......」


 そこには鬼のように電話やメッセージが鈴音から入っていた。超怖い。最終的に一言電話でろ、とだけ書いてある文字が超怖かった。


 洒落怖かよ......。


 まぁ今まで連絡してなかった俺も悪いからな。これは俺から電話をかけるべきだろう。


 そう思って震える手でスマホの電話を押した途端。


「遥斗!? 大丈夫なの!? 怪我ない? 事故とかだった? ととととと、とりあえず大丈夫!? 」


 すぐさまスマホから鈴音の声が聞こえ、鼓膜に直に響く大音量の声。嬉しいやら煩いやら、色んな感情が入り交じりそう。


 こんな事なら耳垢残しておいた方がいいかな、なんて思いながら鈴音の元へと帰って行った。

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