第32話 快楽魔法とかでもあんの?

「カリカリ......カリカリ」

「うわぁ......すごい......」


 年下に耳かきされてこんなにも情けなくなる人類は俺が初ではなかろうか。


 奥の方を刺激されて、思わず涎が垂れてしまいそうになってしまう。竹とは違うステンレス製の耳かきが俺の耳を刺激する。


 硬くそれでいて滑りがいいようなその肌触り。少しでも力加減をミスってしまえば、皮膚を傷つけてしまいそうな道具ではあるけれど、丁寧で優しい沢渡にはまさに、鬼に金棒であろう。


 かさぶたのような耳垢が取られる時によいしょと小さく声を出す沢渡の行為に微笑ましささえ感じてしまう。


 何度も何度も、耳垢を取られその度カリカリと擬音を言われる。


 バリバリとしたものや、大きくゴリっと音が鳴るほどの大物も多くあった。だけど、最初の方の恥じらいはどこへやらと言ったような感じで俺は声を出し続けていた。


「痛かったら言ってくださいね」

「全然......むしろ気持ちがいい......」

「ふふふ......。あ、ここに少し固まった耳垢があります......」


 コリコリ、パリパリといったような感覚と時折ゴリィっといったような大きな感覚がある。それを引っ掻くように刺激する度、頭からつま先まで電気が走ったような快楽が体を貫く。


「今から取っていきますね......うんしょ......」


 え、えぇ。これ取るのぉ? もう軽く刺激されるだけでも、おうふ、結構いいのに? これ取ってしまったら気持ちよすぎて気絶してしまうのでは?


 そんなアホみたいな事を考えていたらついにその時は訪れたようだ。


「よい...しょっ......と。取れたぁ...痛くありませんでしたか?」

「ふぇぇ...だいじょうびれす......」


 快楽という波はここまで人を堕落させてしまうのか......。とんでもないものだったぜ本当に。


 幼女のような語彙になっていて本当に申し訳なく思うが許して欲しい。大物が取れた時の快楽とか開放感とかはもうほんとこの地球の言語で言い表せないほどに気持ちがいいのだ。


 そしてまだ耳かきは終わってはいない。大物が取れたとて、俺の耳に眠る広大なお宝はわんさかいる。


「パリパリ...カリ...パリ......」

「お、おぉぉ......」


 耳かきは耳垢を刺激される事が気持ちいいと誤解されがちではある。いやまぁそれが気持ちいいのは認めるがそれ以外にも快楽要素は多い。


 まじ至近距離だから、女性特有のいい匂い成分がとんでもない破壊力を勝る。現に沢渡からお日様のようなポカポカしたいい匂いが鼻に訪れている。


 は?気持ち悪い? しょうがないじゃないかだって人間だもの。


 さらに耳の中を見るために添えられている手。俺を気遣っているおかげかその力は弱めだが、それでも耳を引っ張られるその感覚は目を細め眠りへと誘うにはもってこいだ。


 そしてステンレスが皮膚を少しだけ押す感覚。コツコツといった音を少しだけ響かせながら、どの獲物を取ろうかと見定めているようだ。


 ASMRだったらもっと鮮明に聞こえるけれど、さすがに人体とASMRの機械とでは聞こえ方も違うというわけか。


 それでも気持ちがいいのには変わらない。


「だいぶ取れてきましたね......」


 時間にして一時間ほどだろう。ゆっくりと丁寧な耳かきだったけれど、時間的にもう下校時間を過ぎているはず。


 仕上げと言ったように俺の耳の中に沢渡の細い指が入って小刻みに弾くような動きをした。


「はい、これでおしまいですね。」

「ああ、ありがとう。でももう、帰りの時間だなって―ええええ!?」


 残念そうにそう言う俺の目の前で突然、沢渡の体が紫色の光に包まれだした!


 な、何が起こってんの!? いやまじで!? 当の本人も


「え、え、うそ、なんで!?」


 とか呟いてるし、というかそのセリフはおれのでは!?


 どこか艶かしい紫色の光が徐々に部屋いっぱいの満たされていく。ガタガタと机が振動して、窓から光が漏れていく。


 このままだときっとこの部屋爆発してしまうんではないかという俺の予想とは相反して、ゆっくりとその光は小さくなっていった。


 光が出てきた場所、すなわち沢渡へと戻っていくように光が消えた瞬間。


 そこに居たのは。


「んんんー久々にこの体になったー」

「さ、沢渡......なのか?」


 そこに居たのは沢渡の顔そっくりの、やけに布面積の少ない衣装に彩られた美少女だった。


 だが、その美少女から伸びる動物的なしっぽと頭に生えた小さな角。そして顕になったお腹の上に踊るように刻印されているなにかの文様。


 こ、これは確実に......


「サ、サキュバス? だったのか?」


 それは俺や全人類の男や女が、たいそうお世話になっているサキュバスその者だった。






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