第31話 すまない先輩
柔らかい肌の感触と、小さく声をあげる沢渡のダブルコンボで俺の理性が軽く飛かける。
夕暮れ差し込む保健室で一体ナニが始まるんです?とでも言えるような状況ではあるのだけれど。
沢渡の冷たい手が俺の耳を探るように触った。
「ふふ、先輩耳熱くなってます......」
「んんん〜すみません。」
「いえいえ」
なんかよく分からないような会話を挟みながら、ゆっくりと耳が開けられるような感覚。きっと、中の耳垢を見ようとしているんだろう。
ああ、本当になんでこんなことに。後悔は既に過去になりつつあるんだけど。
「わぁ〜耳垢の古典書庫みたいです」
「何を取りそろえているんだい?」
なに、なんなの? 俺の耳垢を見たら何かしらコメントしないといけない制約でもあるんですか?
どっかで聞いていたようなそんな感想に疑問を漏らしつつ、沢渡の小さな手のひらがさらにぺたぺたと俺の耳を触る。
はしゃぐようなそんな雰囲気を感じるのは俺の気のせいだろうか。
「最初はゆっくりとマッサージしますね」
「は、はい。」
そう言いながら沢渡はゆっくりと耳を解すように、つまんだり、握ったような力を入れてくる。
これは凄まじいほど気持ちがいい。耳のみならず体の強張りも解けていくようだ。
何せ今これをやっているのは、小柄な美少女。たまに漏れるような小さな声がこの快楽をさらに押し上げている気がしてならない。
数分ほど解していた指が俺の耳から離れると、それでは、と前置きを置いてステンレスの耳かきが俺の耳に触れた。
「うわっ」
「え、え、ど、どうしましたか!?」
「ご、ごめ、冷たかったからつい......」
普段竹耳かきやピンセットで取られているせいか、ステンレス製の温度にびっくりしてしまった。
沢渡は少しだけ安心したような声をしてからもう一度耳に入れる。
今度も少しだけ体が反応したが、うん、大丈夫。今回は何とか耐えきれた。
「最初は浅い所から行きますね?」
「お願いします......」
カリカリとゆっくりと取るように耳垢を刺激されていく。沢渡の性格もあるだろうその弱々しい動きに、なんともむず痒いような感覚を覚える。
むしろ痒いと言ってもいいんだけど、それでも少しだけ時間が経てばその優しい耳かきが病みつきになってきた。
「気持ちいですか?」
「うん、凄い、気持ちがいい......」
「良かったです」
竹耳かきと違ってスプーンというか、耳垢を掻き出す部分の反りが大きい。なのでよりダイレクトに取られているので、気持ちがいい。
ちなみに浅い所とはいえ俺はまだ声に出していない。必死に耐えている。
それはそうだろ? なにせ沢渡は大事な大事な後輩だ。そんな後輩の耳かきで変な声を出す訳には行かないだろう。
というか、俺も伊達に男の子ではない。情けない声を出すのは極力―
「ひゃい!」
「あ、す、すみません。ふふ、少しだけ手元が、ふふ、ひゃいって......」
「......」
ま、まぁ沢渡の笑顔を作り出せるなら俺の惨めなプライドもいらないってもんだぜ。
いらないってもんだぜ!
「カリカリ...カリ...カリ......」
何事もなかったかのように続けられる耳かきではあるが、まさか沢渡が擬音とかいう攻め手を会得しているとは思わなかった。
こんな天国のような行為に思わず目が細まっていく。時折可愛らしい声とは裏腹に、俺の耳からゴリッという音も聞こえる。
いつの間にか横に置かれておるであろうティッシュに大物を置く度に、小さくすごい大きいですとか言うのはやめて欲しいです。
というか、俺の周りの女性はなぜにこんなにも耳かきがうまいのか。保健の授業でそういう授業しているんですか? と質問したいほどには上手い。
さすがに上級みみかき施術師の鈴音よりは劣るが、それでも優しく耳垢を取るこの技能レベルはマジでやばい。
声が出そうになる。
「先輩、声我慢しなくても...大丈夫ですよ?」
「へ?」
「どんな先輩でも...受け入れますから......」
は、母上!?
な、なんて言うバブみ。おぎゃりみまでかねそなえたうちの後輩はなんて最強なんだ。
その母上にも匹敵するような寛容な受け答えを甘んじて受け入れます。
「あ、ああ。気持ちいい......」
「ふふ、先輩の気持ちがいいーっていう感情。流れ込んできます......」
「さ、さいですか......」
そんなにも俺だらしない顔してたかな。いや、もうなんでもいいや......。
そうしてだらしない声を垂れ流す機械になってしまってから数分後。
小さな声が俺の耳の中に入ってしまったんじゃないかと思うような距離感で、沢渡が言った。
「それじゃあ...そろそろ奥の方、取っておきますね......。」
「よろしくお願いします......」
きっと今後の展開は読めているであろうことは、分かりきっていた。
ああ、本当にだらしない先輩ですまない。
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