第30話 流れがおかしいと思っているのは俺だけか?

「......はっ!? さっきの筋肉モリモリマッチョマンの変態は!? 」

「せ、先輩?......」


 当たりを見渡すとそこは、白に整えられた保健室のように見える。保健室に縁もゆかりも無いが、さすがに何度か見た事はある。


 保健の先生とは何度か話したことがあるし、何より保健室独特の雰囲気というか、匂いというか、あの感じがする。


 なら、ここまで運ばれる時にうつらうつらとした意識で見たあの筋肉の塊は? え、夢なの?


 ファンタジー世界にいるようなお姫様よろしく、お姫様抱っこで俺を運んでいたあの人物は夢?なんという悪夢だったろうか......。


「...え、えっと......。野球部の主将なら...もう帰りましたよ?」


 史上最悪の体験をしたような表情をしたのだろう。横からそんなか細いような、そんな声が響く。


 その声は最近聞いていないような、ラブコメ主人公のような難聴になっている俺の耳にも届くほど、弱々しい。


 そう、沢渡の声だった。


「あ、ああ、あれキャプテンか......。どうりで―っていうか沢渡!? どうしたその顔!? 」


 俺の横になっているベットの近くに座っている沢渡の顔は涙でぐしょぐしょになっていた。まるで通り雨を有名映画バリのパッケージのように浴びたようだ。


 髪はぐしゃぐしゃになり顔に張り付き、目は赤く腫れている。唇は今でもプルプルと震えながら、何かを俺に訴えようとしているようにも思える。


 旗が顔面にクリーンヒットした俺よりも、焦燥しているようにも見えるその有り様に、なんて声をかけてあげればいいのか分からなくなってしまう。


 そうして雨粒が落ちるようにポツリ、ぽつりと話し始めた。


「先輩は...馬鹿です......。こんな私を助けるために...怪我するなんて。それにこれで二度目ですよ......。」


 不意に伸びた白い小さな手が、俺の頬っぺを引っ張る。


 痛い、とはならないその震える手。助けるとは言っても、こうも心配させちゃ意味ないよな。


 俺は小さくごめんな、と呟いて沢渡の震える手の上に自分の手を重ねる。


「これからも私の頼れる先輩でいてください......。元気な先輩が......私は好きです(ボソッ)」


 後半何を言っているか全く聞こえなかったが、沢渡の濡れた瞳でそんなことを言われては心の臓が飛び跳ねるのは確定だろう。


 聞き取れなかった事をしっかりと伝えながら俺は短く返答する。こうゆうことはしっかりと伝えねば、すれ違いはまず起きない。


 耳垢というデバフを常にかけられている俺の感がそう告げている。


 和やかな雰囲気というか、俺が勝手に佐渡に感じていた壁がなくなり、肩の力が抜けるのを感じた。


 ああ、頑張ってよかった。


「そ、それで美々ずっと先輩になにかしてあげられないかと考えていたんです。」


 なんて出来た後輩なんだろう。でも、俺は沢渡とこうして話せる関係に戻れた事で嬉し―。


「なので、その、耳かきをよろしければ......していいですか?」


「ん?」


 ん?


 思った事と、話したことが物の見事にシンクロした。いや、うん、これも俺の難聴のせいかなぁ?


 そう思っていたら、沢渡の右手にはいつの間にかステンレスの耳かき棒が握られている。


「......」

「? どうかしま―」

「なんでだぁぁぁぁぁ!?」

「ヒエッ」


 突然叫んでごめんね、いやでも違くない!? 流れおかしくない?


 いま良い感じで流れてたじゃん! なして耳かきなんですか?


 おかしくない?おかしいよねぇ?


「か、会長が先輩は耳かきが好きで好きな異常者だって......」

「あ、あいつかぁ.....!」


 誰が耳かきを好きな異常者だって? 全くもってその通りで何も言えないな!


 でも普通に考えてみてくれよ。沢渡は年下というか、中学生にも見えるような小柄な体型ではあるが、小動物のような可愛らしい動きと、それに負けない美声と美顔をお持ちの天使だ。


 それに耳かきをしてもらうという神シチュエーションではあると理解するが、そんな天使に己の耳垢を見られるという罰ゲームのような立場。


 はっきりいって死んでじまいたい案件ではある。


 ......ここは...話題を逸らそう。うん、そうしよう。


「で、でもだいぶ気絶していたし、もう下校時間過ぎているだろ?」

「その点は抜かりがないので、大丈夫です先輩。魔力で何とかなっていますので」


 へ、魔力? 聞きなれない単語なんですけど?


 だけど俺の抵抗は虚しく、おずおずとベッドの上に登った沢渡が小さく膝を叩く。キラキラと輝く顔で、そんなことをする。


「さ、先輩。こちらに頭を......」

「......。...はい......。」


 か細い声で俺はそうして膝の上に頭を乗せたのだった。



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「あとがき」


私生活が鬼のように忙しく更新できずすみません!!!

これからも頑張って更新していきます!

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