第23話 地獄の体育祭準備編...的な事
「それで、帰りが遅くなると」
「ああ。夕食は作れるけど......はぁ、作り置きとか考えないとな......。」
ご飯を食べながら今日あったことを鈴音に話す。学校では、綺麗な同級生と可愛い年下。そして家に帰れば美少女と、誰もが羨むようなシチュエーションだろう。
だが現実は悲しいかな。学校に待ち受ける無理難題を押し付ける上司と、意思疎通が特殊な同僚、そして家ではサキュバス。
なんだこれ。どうゆう事だよほんと。
「まぁいいわ。事情は分かった。私も何か手伝った方がいい?」
任せなさいとも言うように胸を張る鈴音だが、俺はキッパリとその提案を断った。
「いや大丈夫。多分鈴音が手伝ったらとんでもないことになる。」
「はぁ!?どうゆうことよそれ!?」
お前はなんにも分かっていない。
今や二年生は俺の味方ではあると思いたいが、安心院の性格というか無茶振りを知らない1年生と三年生からは若干恨みの籠った目線を向けられるのだ。
それに加え今度は学園のアイドル?オワタ式ゲームやってんじゃないんだから。
「親衛隊が知ったら俺が死ぬ。」
「ぐ、ぐぬぬ。......わかったわよ。」
分かればよろしいのだよ。本当に頼むから、これ以上胃を痛めつけないでくれ。
ただでさえ、学校では同棲がバレてしまわないように気を張ってるんだから。
その後ご飯を食べ終わると、食器洗いを鈴音がやると言ってくれた。もちろん断ろうとも思ったんだが。
「私ができるだけ家事やるから、仕事に専念なさい。というか普段からもやろうとは思ってたんだけど......」
嫁かな? 仕事の忙しい夫を持った嫁なのかな?
鈴音に本当に頼んでもいいのかと聞いたところ、俺の方が早くて言い出しづらかったそうだ。
そりゃ勿論。一人暮らしも短くないんだし、ある程度はそつなく出来る。
でもまぁ、そう言ってくれる鈴音のお陰で少しだけ気分が和らいだような気がしてならない。
本当にありがたいんだよ、少しの気遣いとか言葉が。
「ありがとな、鈴音。」
「......!」
何やら照れてるようだけど気の所為だろう。
そうして、俺の地獄の体育祭準備期間は始まった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
体育祭までの期間は実に二週間程。実際は土日は学校が休みだから、カレンダーの表記よりも動ける時間は少ない。
でもまぁ、基本的なことは一年生で体験している。教員に道具の申請、場所やらなんやらは前年度の通り行えばいい。
新しい競技の申請やら説明は、他の生徒会役員たちが行ってくれる。さらにその説明や今年の競技の内容、人数などは体育祭実行委員が行うのが普通だ。
ここまで見ればあんま仕事ないじゃーんと天才子役ばりの言葉が出てきそうだが、問題はその橋渡しだ。
生徒会で決まったことは、俺が足を使ってその生徒に伝えに行く。うちはマンモス校でもないが、それでもかなりの生徒数から目的の生徒を探し出して説明しなくてはならない。
なんなら時間を割いてもらって授業前に俺達が一々説明しに行く。さらに出る競技の生徒のリストアップも任されているとは、新手のいじめだろうか。
でもそれをやらないと、居るんだよな。バレないと思って不正を働くような奴らが。
ほら、クラスでも運動めっちゃ出来るやつを全部の競技に出しちまおうなんて考えあるじゃん?
それを確認していくって訳。去年も勿論、その行為に文句を言う生徒がいたが、それを何とか承諾させないといけない。
まぁ結果として全てのクラスが接戦して最高に面白い演出にはなるのだが。
それを去年の新生徒会長、しかも一年生の俺一人がやったのだから本当に大変だった。
ブチギレる三年生の先輩に一年の俺が、どれだけ怖い思いをしたか。パンツ濡らしたほどだ。まぁそのおかげで承諾してくれたんだが。
今は、黒歴史の話はやめよう。
そうしたお陰で、今の二年生と三年生は俺に割と寛容的である。
去年から安心院から中々の仕打ちを受けている俺を生暖かい目で迎える二年生と、去年の体育祭や文化祭などでの俺の働きに純粋な好意で受け答えてくれる先輩。
もちろんその中には、美しい後輩といつも一緒に居て腹立つこいつ、みたいな奴らももちろんいるんだけどさ。
一限が終えた後の廊下。まばらに歩いている生徒や、教室で次の準備を始めている生徒達を他所目に俺達は仕事を行っていた。
「今年の体育祭の内容です。前年度との違いは五ページ目にありますので、確認よろしくお願いします。
また、最後のページには競技と出場する生徒の名前を書く欄もあるので、記入した後、生徒会室か俺の元へお願いします」
「......」
「おう、今年も大変だな。篠塚! 」
「え、ええまぁ......。」
目の前に居るガタイのいい先輩は、確か野球部のキャプテンとかそんな立ち位置だったと思う。俺の去年の功績を願い労ってくれる数少ない人物だ。
「今回は可愛い女の子も付いてるとはやるなぁ!」
「ははは......」
「......」
後ろに付いてきていた沢渡の肩がビクンと跳ね上がった。いきなり名指しで言われたのだからそうなるのも当然と言っちゃ当然か。
補佐的な立ち回りの為、俺が三年のクラスを回る時もついてきてはいるんだが、いかんせん対人コミュニケーションが苦手な訳で、俺の背中に隠れるようになってしまっている。
「それじゃあ、よろしくお願いします」
「おうよ! 」
「......」
ぺこりと頭を下げると、俺たちはその場を後にする。
春の日差しも遠く感じる始めるような六月下旬。その陽射しに怯えるように日に日に小さくなる沢渡の姿に、俺は小さくため息をついた。
「一応、ここ数日の橋渡しの感じを見てもらったけど、分からないところはあるか?」
「......な...無い...です......」
「おっけー」
最初は俺がどういった感じでやっているかを見てもらい、その後に一年生のクラスを任そうと考えている。
本当は初めての体育祭の準備で、てんやわんやの一年生から始めたいんだけどな。まぁそこは命大事によろしく、沢渡の育成的なことを中心にやっていこうと思ってる。
うん? 新人育成? 初めての試みに決まってるだろ。後輩との絡みなんて、こんな長いの沢渡が初めてだよ。
しかも上記の会話からは想像しずらいだろうが、これでもかなり会話では進歩した方だ。
最初は本当にスマホでしかやり取りできないし、オマケに久々に口を開いても、声が小さすぎて聞こえない。
ん、なんか言った? なんて昔のラブコメ主人公ばりの難聴を発動させてみろ。ここまで築いた関係性が、ブラジル辺りまで吹き飛ぶぞ。
「とりあえず、今日の昼は適当な場所でご飯食べてから、放課後頑張ろうぜ」
「......」
一応、沢渡とは何度か昼食を一緒に食べてはいる。信頼はまず、小さなことからコツコツとが俺の信条だ。
小さな可愛らしい後輩は、それでもなおただ無言で頷くだけであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます