第22話 袖を開発した人類に感謝したい
「それで、今年は何から始めるんだよ。」
「聡明な君ならもうわかっているだろう?」
そう言いながら、重厚な椅子に腰かける。多分校長のよりいい材質使ってんだろうな。質の良さそうな革製品特有の雰囲気を感じる。
「体育祭だろ。どうせ」
「ご名答」
パチンと小気味の良い音が聞こえた。あんなにドヤ顔でやってことは中学男子みたいなのに、カッコつくのマジで狡いと思う。俺もあんなふうに指パッチンしてぇよ。
まぁ、さておいて。夏休みを眼前に控えた俺たちに待っているのは体育祭だ。この段階で入れるって言うことは、おそらく親睦を深めろという学校側の意図を感じざるを得ない。
一年生のときなら確かにそうなんだが、見知った顔もチラホラある二年生や受験を控えた三年生からはやっぱり不満の声もあるだろう。
俺?うん、例に漏れずそんな好きじゃない。何が悲しくて100mも走らなきゃいかんのだと思う。まぁ当日サボるなんてダサい真似しないけどさ。
「例年通り、君には色々と大切な仕事をしてもらいたいと考えているよ」
はぁ、大切ねぇ。まぁたしかに大切ではあるんだけど、なら他の生徒会役員にでもやらせろよと思ってしまう。
「他の役員にはもちろん違う案件をお願いしている」
「ナチュラルに心読むのやめろや」
「ふふ、戯れだ。今回は君のバックアップも付けてある。入れ」
そう言いながら、木製扉はゆっくりと開けられた。そこから一回りは小柄な少女が顔を出す。
借りてきた子うさぎのようにプルプルと震えながらも、ゆっくりと俺たちの前へと移動し終えた。
からあげも雅の家に来た時は震えていたが、それ以上に震えている。紙相撲めっちゃ強そう。
腰までロングの深い深い青色の髪色。いや、紺色の方が適切か。
そして安心院とは違い、とてもおっとりタレ目の可愛い顔立ち。文学少女と幼女を重ねたようなそんなお顔。
はっきり言うと、超可愛い。鈴音と安心院とは違う守ってあげたくなるようなそんな気持ちにさせてくる。
「新一年生でありながら、生徒会役員の一人だ。」
「えっと、とりあえず少しの間宜しく。会長から話は聞いてるとは思うけど、俺は二年の篠塚遥斗。」
「――。」
軽く自己紹介をしたのだが偉く警戒されたようで、スマホに何やら打ち込んでいる。そしても数秒も経たないうちに、ディスプレイに文字が映し出されていた。
『一年の
おっと......。こりゃまたとんでもない子が来たな。
コミュ障という概念をも超えて、人と会話することができない。いや、苦手と言うべきか?
うーむ、前途多難の予感が俺の耳からひしひしと聞こえ出す。
さすがにフォローしながら仕事をこなすなんて、雅じゃないんだからできないぞ俺。
「大丈夫だ。君なら雅くんのようにいかずとも、立派に成し遂げられるさ。」
「だから心読むのやめろって」
ぎゃあぎゃあと俺らが言い合っていると、休みを告げる音が鳴り響く。やば、弁当食ってねぇ。
急いで生徒会室を後にする事にしよう。
その時、小さく震えている沢渡が少しだけ気になったが、それはまぁ気の所為だろうと思う事にした。
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放課後。俺は図書室で、少女とテーブルを挟みながら会話をしていた。勿論、少女というのは沢渡だ。
六限が終わった直後に俺のスマホに沢渡からメッセージが飛んできた。どうやら安心院に聞いたらしく、今後の打ち合わせをしたいとの事。
安心院......。校内放送とかじゃなく、こうやって連絡取れよ、本当にさ。
放課後の図書室には、生徒はあまりおらず、図書委員のやつにも体育祭での打ち合わせがあると伝えたら、なんともまぁ心中お察しといったふうな複雑な笑顔を向けられた。
ならもちっと、手伝ってくれよと思ったが、図書室で会話という意味のわからん状態を見逃してくれるのだ。贅沢は言えない。
「それで、とりあえず今後はこういう風に行くけど、分からないところある?」
俺は先程から前年度の記憶と、手元にある資料に目を通しながら沢渡に先程から説明をしていたが、時折、小さく相槌を打つ彼女にどうしたものかと頭を抱えていた。
手元のメモ用紙らしきものにもあまり書いていないし、というか最初に話した所から文字が進んでいない。
うーん。
少しだけ考えた後、俺は手元のスマホに文字を打ち込み始めた。
『基本的にはクラスに競技の説明』
『それと出る生徒のリストアップ』
『前日に借りられる道具の申請と会場設営』
『こんな感じで進めていくぞ?』
スマホに指をさして合図すると、沢渡は急いでスマホを取り出して文字を確認していく。既読という文字が乗って、速攻で文字が打たれた。
『すみません、めんどくさいですよね?』
「ん、何が?」
『話が出来なくて......』
ごめんなさい、と前方から言葉が飛んできたような気がした。うんまぁ確かに会話できないのは、あれだけど。
「いいよ、別に。慣れない上級生といきなり話すのなんて難しいだろうし。スマホで打てば何度でも確認出来るだろ?」
沢渡に送ったメッセージの3倍はまだまだ仕事はあるんだけど。
まぁ、慣れない体育祭であんまり無茶して欲しくないし、多分そうゆうこともあって安心院は俺の補佐に沢渡をつけたんだろう。
はぁ、ほんと手のひらで踊らされている感じが腹立つ。
「ま、そうゆうことだから慣れるまではスマホでいいし、なにか事情があるならそのままでいいよ。」
『ありがとうございます』
「あいよ。じゃあまた明日からよろしく。」
そう言って机から立って帰ろうとする俺の裾を沢渡が掴む。潤んだ瞳で、少しだけ恥ずかしそうに顔を赤らめながる。
うっわ可愛い。連れ去りたいほどに可愛い。いやまて、警察に電話しようとするな。
「あ、ありがとう......ございましゅ......」
「......。あいよ。よろしくなこれから」
少しだけ噛んでいるそんな感謝の言葉に、俺は軽く笑いながらそう言った。
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