第二章

第21話 生徒会って定番ですか?

「「行ってきますー」」


 目まぐるしい金曜と土曜日、そして日曜日を滞りなく過ぎて俺たちは日常へと帰還を果たす。


 まぁ普通に学校が始まる月曜日を迎えるだけなんだけどな。


 結局、鈴音は耳かきのアルバイトに決めた。まぁあれだけ太鼓判を押されて断るほど鈴音に余裕があるわけでもなく、なんなら家から学校の人間が来ないような場所はもうあそこぐらいしか残ってない訳で。


 水曜日、土曜日、日曜日の三日間をアルバイト期間として最初はする予定だと鈴音は言っていた。なので、不思議でドキドキ同棲生活はもうちっと続くんじゃよって言うわけだ。


 鈴音は俺と過ごしてドキドキしているのか分からないが、俺はもちろんドキドキしている。なんならこれからも学校でドキドキするんだろう。違う意味でな。


「鈴音、そういやこれ」

「ん、何よ......。鍵?」

「そ、うちの鍵な」

「え、なんで?というか良いの?」


 良い悪いとかじゃなくて、もう信用しているし、それにアルバイトも始めたんだったら時間を合わせる方が難しい。俺もいつも家にいるわけじゃないしな。


 その事を告げると、鈴音は少しだけ顔を赤らめながら


「ありがと。大事にする......」


 と小さく呟いた。うん、まぁいずれは返してもらう予定ではあるんだけどまぁいいか。というか鍵を渡したのは、違う理由があって。


「はぁ......」

「?」


 俺のため息を増やす原因にもなっているんだが、これはすぐにわかるだろう。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


『篠塚遥斗くん。至急、生徒会室まで来るように』


 四限の鐘がなり終わったタイミングで、古ぼけたスピーカーから、そんな綺麗な声色が響き渡る。


 湧き上がる黄色い声援と、俺を見つめる生徒諸君の眼差し。


 鈴音の一件で、『またお前かよ』って言う嫉妬とか妬みの篭った顔だと思うだろ?


 違うんだなこれが、ちゃんと生徒の会話に耳を傾けてみろよ。


「またこの季節が来たか」

「篠塚、今年が始まったな」

「頑張ってこいよ!」


 などなどである。うん、そうなんだよな。なんかクラス、いや二年全体が俺のこの後の働きを憐れむような顔で見てくる。


「遥斗くん、頑張ってね!」

「お、おう。」


 不意に背後から金髪ヤンキーの見た目で、そんな可愛いことを言う雅にびっくりしてから俺は言われた場所へと走り出す。


 廊下を走るなっていう古臭いツッコミは勘弁してくれよな。少し遅れただけで何を言われるか分からないから、今回は見逃してくれ。


 コンクリートで作られた校舎を走り、階段をかけ上る。目指すは四階の長い廊下を進んださらに奥の部屋。


 黄金にきらめく『生徒会室』と書かれた部屋の前まで来てから俺は思い切り、ドアを開けた。


「ふむ、思ったより早いではないか?」

「か、会長こそ......。早すぎねぇーか?」


 そういうと微笑を浮かべながら、こちらを振り返る女子生徒が一人。


 少し長めのショートの黒髪。艶やかでいてそれに絹のような輝き、そしてそれを従えるかのごとく美しすぎる整った顔。切れ目でツンとした瞳に、潤んだ唇。


 この世に生まれ落ちた日本美人とは彼女のことだと誰もが言うだろう。街中で歩けばナンパは勿論、誰もが4回以上振り返ってみるその美貌に、そして殺傷力の高いそのスタイル。


 出るとこは出て、引っ込むところはしっかりと引っ込んでいるそんなナイスバディ。鈴音もスレンダーで綺麗だとは思うが、こちらはグラビアアイドルも真っ青な爆弾をふたつ抱えている。


 俺と同じ黒のネクタイに彩られた制服に身を包み、こちらに微笑んでいる女子生徒。何を隠そうこの翠天下高校の生徒会、そして一年からその生徒会長という座に君臨している女子生徒。


 安心院美麗あじみびれい


 名は体をあらわすなんて言葉があるだろうが、それはこいつにピッタリだろう。安心は全く出来ないがな。


「早すぎるということは無いだろう。1階の放送室から君に連絡してから、4階のここまで来ただけだ。」

「それが早いって言ってんだよ!」


 そう、こいつは見た目だけじゃなくて中身というかその他全てが最強だ。容姿端麗、さらに文武両道。


 こいつが1位以外を取っていない時は見た事すらないと、俺の中の記憶はそう告げている。


 なぜ俺が学園のアイドルの名前、いや存在を知らないのか理由を教えてやろう。こいつがいつもそばにいたからだ。


 変な誤解のないように言っておくが、恋仲とか、俺の片思いとかではない。


 そう、一年の時からこうして雑用をさせられているのだ。しかも量が多いから、他のことに目を向けている時間なんてほぼない。しかもこの体質も相まって、マジで1年の時は大変だった。


 随分前に広い交友関係と話したが、その一人がこいつ。


「『からあげ』は元気か?」

「ああ、元気にやってるよ。いまじゃ立派な看板猫だ。」


 唐揚げという親しみの覚える言葉に、意味のわからない文脈だろう。誰でもそう感じる。


 こいつの指した言葉は雅家で飼っている猫の名前だ。


 ほら、前に話したろ。俺と雅が仲良くなる出来事。結局あの後子猫は病院に連れていき、色々なことを大人に手伝ってもらいながら最終的に雅家の一員になることに決まった。


 飲食業でペットは不味いって?これが上手いんだよあの猫。


 営業中は店の前で、寝てるから猫の毛だーとかいうクレームがない。閉店後に、ちゃんと家の中に戻るし、めちゃくちゃ頭がいい。試しに今度数学でも教えてやろうかと、考えてる。


 そしてそのからあげとの接点。どうやら高校にその話が広く広まり、その話をこいつがキャッチ。


 最初はなんともないような荷物運びだったが、そのあとあれよあれよと雑用を押し付けられ今に至る。いやまぁ断ればいんだけどさ。


「なら、雅君に仕事を手伝ってもらう他ないなぁ。店で大変そうだが、なに、雅くんはいい子だから手伝ってくれるだろう。なぁ篠塚くん?」


 こんな事を言われては手伝う他ないだろう。というかこいつ同い年の癖して、怖いんだよいちいち。


 まぁ一年も生徒会を手伝った今は、こいつが本当にそんなことをやるような女には見えないけどな。


 大変なもんは大変なんだ。


 そう言うことで、俺は今年からも雑用を押し付けられるようなポジションになっている。


 自分で思っててため息が出そう。

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