第17話 桃源郷は多分この時のための言葉
「じゃあ、奥行くわよ?」
「しゃーす......」
浅い所が終わり、深い場所の除去に動く竹の大先輩チッスチッス。
「カリカリ......」
「ああ、気持ちがいいっす.......」
わざと言われるそんな擬音が本当に耳の内側の快楽を押し上げる。カリカリっていう擬音は多分このためだけに生まれたのだろう。カリカリ梅も同様かもしれない。
「気持ちいい?」
「さっき申し上げましたが」
「もっかい」
「......」
押し黙るようにしていると、浅い所まで竹の感覚がなぞるように上に来た。そして、先程より少しだけ早くその行為がなされていく。
今日は幾分、鈴音が積極的すぎる気がする。
「う、ぐあ......はぁ......気持ちいです」
「よろしい」
そしてまた、奥に行く除去隊。もう絶対にこの場所で勝てる気がしねぇ。
「本当に大きいわ。素敵」
大きな何かがペリペリと剥がされていく感覚。カサブタのようなものが自身の耳からゆっくりと、その体と耳の皮膚をつなぎ止めているものが引き剥がされていく感覚。
「ペリペリ、ペリペリ」
「はぁ......」
ペリペリなんて日常的に使わないから、多分このためだけに生まれたのだろう。ペリカンも同様だ、きっと。
体全体の性感帯が、耳に集中してしまっているのだろうというその快楽。
そしてゆっくりとその大物の外側が外れ、ゆっくりと細いその竹が仕事をするかのごとく根元に落ちてくる。
カリカリ、ペリペリ、そして何かコリっとしたような感覚。何か根元の生えるようなそんな感覚。ずずっと何かを引きずるような感覚と共に俺の耳は風を感じた。
「大物ね。ほら、またカリカリ......」
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛」
「そっちは汚くなくて良いんですけど?」
少しだけ湿っていたのか、その大物のあった場所のすぐそこを竹の耳かき棒で掻かれ、淑女も恥じらうような声が出てしまう。
ごめんと己の気持ち悪さに恥じる俺に、小さく微笑みを返されてからまた耳かきは開始された。
奥を何度も優しく刺激される度に変な声が出る。浅い所や、ゆっくりとカーブのように撫でられる感覚は何者にも耐え難いだろう。
ゆっくりと、だが確実に自身の角質を取られていく感覚、時折鼓膜に響く少し高い甘い声。
これが桃源郷なのか?
「ふふふ、そんなに気持ちいいんだぁ」
「もう......ほんとやばいっす......」
「それじゃあここからはただ気持ちよくするわね?」
うん?なんかエロいこと言ってないこの人?そう思ったら急に竹の動きが変わった。
「ひゃう!」
これはやばい。さっきまでの皮膚を傷つかないような動きじゃなくて、ただ性感帯だけを優しく撫でられるような。
時には早く、時には強いその強弱に変な声が続いて出てしまう。
「ひゃう、あ、あう、ああ」
「ふふ、女の子みたいな声出して......。かわいい」
「く、くそう......。あ、あ〜。」
同い年の女子に馬鹿にされていることはわかるが、こう言われても俺はなすすべない。さしずめ蛇に睨まれた蛙、耳かきに触られた篠塚遥斗だろう。
カリカリ、コスコスとされ、それが皮膚に刺激を与える度に、背中に電気が走るような快感が身体中を支配する。
そうしていくうちに、自然と瞼が重くなってくる。忙しすぎて眠れない人は、大事な人に耳かきをしてもらうとすぐ眠れるぞ。
耳かきしてくれる人がいない?そりゃ残念。こんなに良いのに。
もういっそ意識を手放してしまおうかなんて、そんな考えが脳裏をよぎった瞬間。
「フゥ」
「あ」
これですよ。完全に意識が途切れそうになった瞬間にくる、仕上げの吐息。
これで俺の意識は戻され、現実のめちゃくちゃに口をパクパクさせながら赤面している姿になるって言う訳。
「鈴音......」
「いいでしょこれぐらい?というか好きなんでしょ」
「ぐぅー」
頭を撫でられながら、そんな慈愛の満ちた声で言われてはなんにも言えない。多分俺の感情とか全部分かってるんだろう。
おのれ、サキュバス。そうして俺は体勢を変えることにしたんだが、そうして初めて気が付いた。
「な、なんだって......!?」
「?」
可愛らしくはてなマークを浮かべる鈴音の服。
なんてことも無い、ダボダボの男物のスエットから伸びる白い足。タオルが少しズレてそれが露見しているのだが、ご丁寧にニーソックスまで履かれている。
「ま、まさか下―」
「履いてるわよ!このバカがッ!」
思いっきしタオルが顔面にめり込み、俺は尻もちを着いてしまった。タオルってめり込むんだ......。
そうして少しだけスエットをめくるとたしかにズボンらしきものを履いている。私物?まぁさすがに衣類を持っているか。
というかパンツも普通に履いてるだろうし、それぐらいは普通か。
少しだけ考えをめぐらしている俺とは対照的に、鈴音は少しだけ後ろを振り返り何かに気がついた様子。
そして挑発的な笑顔で何も敷かれていない、生身の脚を叩いたのだった。
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