第10話 俺の親友がデキる男すぎる件

「んでもって、どうゆうことになってるの?」


 昼下がり、進入禁止の屋上に三つの影。俺と鈴音、それに雅。


 高校の屋上とか夢見てるやつに言っとくが、全然いいもんでもねぇからな。日差しは熱いし、放置されてるようなうちと同じ状況なら荒れまくりでしかも風が強い。


 たまに行くぐらいならいいとは思うが、そうじゃないなら空調の効いた教室で弁当食った方がいいぞ。


 まぁそんな新入生ガイダンスは置いといて、あの後鈴音に何を見せたのかを問い詰めたらコロッと吐きやがった。


『遥斗くんが困ってる。』

『僕と遥斗くんとLI○E交換するフリして、ここは頑張って。』

『後で事情は聞きに行くから』


 そんなトーク画面。本当に有能すぎて怖い。これならコント仕掛けのスペシャリスト状態にはならないだろう。


 昼食をダラダラと汗を流しながら食べ進める俺達に雅がニヤニヤとしながら質問したのが先程の台詞だ。


「い、いやだなぁ雅。俺と鈴音さんはなんの関係もないよ〜」

「そ、そうよ〜雅くん。私と遥―、篠塚君はなんもないわよ〜」


 流石に現状を把握したのか、鈴音も目を泳ぎながらご飯を食べ進める。だが、雅はデキル男である。


 教室の時もそうだが、異常に洞察力にたけており、その雅からすれば


「いやでも、そのお弁当遥斗くんが作ったやつだよね?」


 と上記の通りだ。純粋に怖い。探偵の学園の生徒かお前。


「は、はははなわけないじゃない。雅くん?」

「いや、普通に見てればわかると思うけど......。」


 いや誰が?という言葉を飲み込む俺と鈴音。今確実に心がシンクロした。召喚してやろうかほんと。


 さすがの鈴音も雅の言動に若干引いている。


「同棲までしてるなんて、遥斗くん、僕は遊びだったんだね.......」

「おいてめぇ、気持ち悪い三文芝居やめろや」

「あ、朝言った彼女がいないって......もしかして」

「鈴音、お前が想像してる展開じゃねぇから安心しろ」


 怒涛のツッコミをして息が切れる俺に雅は勝ち誇ったような笑みを浮かべた。なんだこいつ、友達だと思ったのに、とんだ悪魔じゃねぇか。おい鈴音、見習え少しは。


「カマかけたけど、本当に同棲してるんだね」

「「ギクッ」」


 思わず口からそんな擬音が飛び出した。はたから見たらただのアホだろう。ごめんて。


 諦めたように溜息をつきながら、鈴音はお弁当の蓋を閉じた。もう食べたんかい、早いな。


 そして事の顛末を雅に語った。もちろんサキュバスという所を隠しながら。


 要は貧乏すぎて不憫に思った俺が、鈴音が次の住居と安定したバイトを探すまでの間、家で専属メイド的なことで雇ったみたいな話。


 その対価として耳かき。もちろん雅にも俺の体質のことは話してある。


 いや、どんなライトノベル展開だよ。


 懐疑的に話を聞いていた雅だが、耳かきの話を聞いてからはやけに納得したような顔になった。


 色々と引っかかるが、今はスルーしよう。


「ま、そういうわけだから」

「へぇ。てっきり付き合っているのかと思ったけど」

「「!?」」


 そんな爆弾発言聞いてないんですが?言うなら前もって言ってくんない?ガムテープで口を抑えるから。


 驚愕する俺と茹でダコのように顔を真っ赤にして口をパクパクと動かす鈴音。いや、声出てないけど?


 ようやく声帯がその仕事を全うし始め、鈴音の可愛らしい声で抗議の言葉が口を飛び出す。


「ば、バッカじゃないの!?なんで私がこんな耳垢パレードの奴と付き合ってるっていう考えに至るにょ!」

「み、耳垢パレード......」

「わ、私はこいつの体目当てなだけよッ!!!......ってちがああああああああう!!!」


 一人でボケてツッコミなんて高度な技術、流石はサキュバスだぜ。......いや、サキュバスってもうなんだっけ。


 そんなことを考えていたら目の前のサキュバス娘は、ぜぇはぁと肩で息をしており、対する雅は本当に面白いものを見るようにその様子を眺めていた。


「まぁ分かったよ。二人が協力関係だっていうのは」

「本当!?ほんとね!?」

「ああ、だから別に言いふらしたりしないよ。遥斗くんに迷惑もかかるだろうし......」


 は?なぜに俺の名前がそこで出る。というか別に迷惑なんてかからんだろ。最悪俺が変態扱いで終わるだけじゃ......。


 だがそんな俺の思考を読んだ雅が屋上の金網の外を指さす。どうやら見てみろとでも言っているようだ。


 俺と鈴音は一度顔を見合わせてから、恐る恐るそこからの景色を眺めた。


 俺は屋上へは何度か足を運んでいる。風を感じるのが好きだし、何より人気がないのでたまに一人で昼飯を食べたい時に来るのだ。だからここからの景色は知っているはずなのだけれど......。


 屋上から見える背景の住宅街と、離れの体育館。そして今いる校舎と体育館を挟むような校庭といったふうに、何も変わらない景色がそこにはあった。そうあるのだが......。


「千花様〜!我々とも交換をー!!!」

「このために母親との繋がりを切ったでござる〜!!!」

「私はこのためにスマホを買い換えました!」


 などなど、世にも恐ろしい事を叫びながら校舎や校庭を走るピンク色の法被に身を包んだ集団。


 どうやら口々に叫んでいる人間を探し回っているようだ。あ、生活主任の先生に捕まった。


 横の雅は、俺にこれが朝に話したファンクラブ、もとい親衛隊の実態だよと説明してくれた。


「な、何よこれ......」


 悪夢みたいだろ。これ現実なんだぜ......。横で青ざめたような顔の鈴音。心情お察しします。



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