第6話 そうしてゆったりと決断した
「や、やったわ遥斗!わ、私にも角が!」
「あ、ああ......」
歓喜に充ちながら若干瞳に涙をうかべる彼女。彼女の言うとおり、変化が起きていた。
ハーフツインの結び目近くに小さく巻かれるような角が生えているんだ。
確かにこれは、と俺は思う。遠目から見ればただのシュシュにしか見えないが、近くで見ると生き物のような光沢が電気の光を反射している。
異物と言っても大差ないだろう。それほどまでに現代の俺からしたら馴染みのないそれがそこにはあるんだ。
本当に嬉しそうに角を何度も触りながら涙をうかべる彼女。初めてあった時はなんて無愛想なんて思ったけれど、感情豊かに笑う彼女の姿に俺の鼓動が早くなる。
なんて単純な生物構造してんだ俺......。
そんな俺の様子に気がついたのか、彼女は少しだけ頬を膨らませながら言った。
「何よ、そんなに嬉しがってるのが面白い?ジロジロ見るなんて、最低よあんた」
「いや、そういう訳じゃなくって」
「?」
「いや、普通に君も女の子なんだなって」
「......!」
女の子を見て女の子みたいだねという意味のわからない返答ではあるが、どうやら目の前の彼女はその返答が気に入ったらしい。
赤面しながらも、少しだけ微笑みながら彼女は言う。
「
「ん?」
「だから、な・ま・え!
「す、凄い和名じゃん......」
「そこは触れないで......。ほら、続きやるわよ」
ぶっきらぼうに膝を叩く鈴音。先程の耳かきをしてくれたあの優しい天使とは、大違いだと思ったんだが。
......これはこれで堪らない。男の心とは簡単である。
「お、お邪魔します......」
「何個あるのそのバリエーション」
そうため息混じりに言われても、美少女の膝の上に何も言わずに頭を乗せるとは、なんと無作法という事か。
などと考えている間に、鈴音はまた恍惚な表情を浮かべながら、感想をこぼす。
「本当に汚いわ、最高ね。耳垢のミュージカルだわ」
「そっちこそどれだけバリエーションああんだよ......」
ごちる俺に悪戯っぽく笑みを浮かべた後、ゆっくりとまた、その白く長い指先で丁寧に耳をほぐし始めた。
少しだけ先程よりも熱を帯びたその小さな手に、俺はすぐに緊張していた体が和らいでいく。
自然と息が、声が出てしまうほどの快楽。そしてまたゆっくりと左耳に溜まった俺の燃えカスを取り出していくのだった。
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「はぁ、最高だったわね!」
「HAHAHA」
何やら肌がつやつやしたような鈴音と対照的に、乾いた笑みを向ける俺。
かれこれ一時間ほど念入りに、そしてまた甘い蜜のような体験をさせてもらったことは事実だ。
痛いという概念などなく、そこにはただただ言葉にしようも無い楽園での経験、しかも相手は美少女という言葉が霞むほどの美少女。
いや男なら憧れるに憧れるシチュエーションだって?バーロー、名探偵じゃなくてもそれぐらいは知っとるわ、バカタレ。
だが、考えてもみてくれ。
その美少女に耳かきされるという最高のシチュエーションにも関わらず、目の前の美少女は己のうちから出た目も背けたくなるような大量の耳垢に対して、恍惚な表情で感想を述べるのだ。
控えめに言って死にたい。何の罰ゲームだよとも思う。
「さ、色々とありがと。助かったわ。」
「あ、ああこっちも―」
そう言いかけた俺は自身の目を疑った。何せ鈴音は窓から身を乗り出して、さも今から帰りますといったように手を振っていたのだから。
「じゃ、帰る」
「え、ちょっ!?な、なんで」
「は?いや、魔力貰ったし」
「ちょ、ちょっと待って!」
俺は考えた。
夏場とはいえ、夜とはいえ、こんなか弱い美少女をあの何も無いような公園に帰していいのだろうか?という事を。
ただでさえ絵に書いたような美少女が夜の公園に一人で寝泊まるのだ。
脳裏に浮かぶ様々なお世話になった薄い本と、帰り道の薄い本御用達の汚ったないおっさん。
いやおっさん全員が汚ったないということではないが、もしあのような連中に見つかりでもしたら、そりゃもう今晩のおかずとして記憶に、刻み込まれるだろう。
ここは男を捨て、ただ彼女を保護する他ないのでは?
男と2人きりで家というのもあまりにも危ない気がするが、いやそれにしても年頃の娘が外で野宿などそれこそ危ないのではないか?
この間の思考、実に3分。普通に長い。当たり前だろ、こちとら普通の男子高校生だぞ。
「え、えっと泊まっていけ......ば?」
「は、はぁ......。て、ちょ、は!?バッ......!」
「いやいや、耳かき中に考えていたんだけど、今日のところは危ないし、それに色々してもらって俺もこのまま返すのはあれだなぁーと。もちろん、部屋には鍵着いているし、なんなら俺が外で野宿とか―」
まくし立てるように早口でそんなことを言うと鈴音は赤面しながら、窓から降りた。ほっ、どうやら薄い本の展開は回避出来たらしい。ざまぁみろ神絵師共。
そしてジト目で俺を見る。
小柄な美少女にジト目で見られるというなんともまぁ破壊力の高い場面だなぁなんて考えていたら、鈴音はより破壊力の高い事実を告げてくる。
「耳かき中、そんなこと考えてなかったじゃない」
「へ?」
「ずっと幸せ〜ってな感じだったわよ。顔も蕩けてたし」
「い、いやだなぁははは......スゥー。はいそうです。」
現実である。実に辛いっス。
「ま、まぁいいわ。あんたがそこまで言うなら、お世話されようじゃない。」
テンプレ道理のツンデレのように顔を背ける千花に俺はほっと胸を下ろした。
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あとがき
おっさんに恨みは全くないです。全く
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