【11】

 翌日、私にとって2回目の批評会が行われ、佐倉さんの小説についての議論の前に、松山が前日に徹夜で仕上げたという随想の第2稿が取り上げられることになった。

 主張の内容自体が大きく変わったわけではない。文章もおかしなところは多い。論理のつながらないところも目立つ。それでも、文章量は以前の半分以下になって、書きたいポイントが明瞭になった。何よりも、前ほど平板な内容とは感じない。

 「私、これ面白いと思うよ。前よりも、文章から松山君の顔が見えるようになったと思う」

 花梨さんが、いつものふんわりとした口調で称賛するのに、沙有里さんも同意する。

 「そうだね。すごく良くなった。部活が始まる前にかなめちゃんにも見せたけど、かなめちゃんも驚いてたよ。急に壁を越えたねって」

 松山は相変わらず、あまり感情を表には出さないけど、今日は少しだけ、肩の力が抜けたように見える。


 松山の作品が絶賛される中、佐倉さんは露骨に不貞腐れていた。

 …だから、私としても、気をつけていたつもりではいたのだ。私は、なんであれ人と揉めたくはない。


 佐倉さんが書いたのは、ファンシーな雰囲気の恋愛小説で、読んでいると大量の砂糖を無理やり口に詰めこまれているような気分になってくる。

 花梨さんはこういう作品が好みらしく、花梨さんに褒められて佐倉さんも嬉しそうで、それで終わりにすれば良いのにと思ったけど、沙有里さんが「夏海ちゃんはどう思った?」などと聞いてくるものだから、私も何か言わないわけにはいかなくなった。


 「えーっと…最初はよくある話だなと思ったけど、でもこういうのに共感する人は多いんだろうなって思いました」

 無難な言葉を選んだつもりだった。でも、よく考えてみれば、「よくある話」という評価を褒め言葉と受け取る物書きはあまりいないのかも知れない。佐倉さんの顔がみるみる青ざめていく。

 「…ありきたりだって言いたいんですか?何かの二番煎じだろうっていうことですか?」

 佐倉さんの声が震えている。どうしよう、うまく言い繕わないと。

 「いや、二番煎じとかじゃなくて、ただ自然と似たものができちゃうくらいにポピュラーなテーマだっていうことじゃないかなって…」

 「これは私が考えたんです!私のオリジナルなんです!」

 普段の明るい雰囲気からは想像もできないくらいにヒステリックな声に気圧された私はそれ以上何を言えばいいか分からなくて、狼狽して謝るしかなかった。

 「陽奈ちゃん、ちょっと落ち着こう?」

 沙有里さんが佐倉さんの背を手でさする。佐倉さんはそのまま机に顔を伏せて泣き崩れてしまった。

 前日から降り出した大雨は、まだ止む気配がない。結局その日の批評会は継続できなくなって、沙有里さんと花梨さんが遅くまで佐倉さんを宥めていたらしい。そして、佐倉さんの傷は私たちが思っていたよりももっと深かった。

 翌朝、異変に気付いたのは花梨さんだった。

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