【7】
批評会は毎週水曜日と決まっていて、それ以外の日には各自が自分の執筆を進めていたり、部室で本を読んでいたりする。昨日松山が行っていた通り、仲澤が部室に来ることは少ないけど、沙有里さんは頻繁に仲澤と会って打ち合わせのようなことをしているらしい。
昨日の批評会は思ってた以上に真剣な雰囲気で、やっぱり私には無理なんじゃないかと思わずにはいられなかったし、実際、いざ何か書こうと思っても文章なんか何も思い浮かんでくれない。仕方なく部室の本棚を眺めてみる。
「ここの本、殆どかなめ先生が自分のお金で買ってくれたんですよ」
ぼんやりと本棚を眺めていた私に、佐倉さんが教えてくれた。ざっと数えても200冊くらいにはなろうという蔵書は、図書室のそれとは違う魅力があるように感じる。集めた人間の、こだわりの違いだろうか。
「夏海先輩は、何を書くんですか?」
品定めするような目つきが煩わしかったけど、学年は上でも部員としては新人という立場にふさわしい態度を演じる。
「まだ何も思いつかないんだ。文章ってどんなふうに考えればいいのかな」
佐倉さんは何やら勝ち誇ったように、何事かをアドバイスしてくれたけど、私は相槌を打っていただけで話の内容は聞いていなかった。佐倉さんの講釈をありがたく拝聴し終えて、とりあえず、本棚の中から目についた本を手に取って読むことにする。
古本屋の「100円」というシールが貼られた文庫本。
印象的だったのは、表紙カバーに描かれた女の絵。新潮文庫の表紙を飾る女性は、陰惨な雰囲気を湛えた、忌まわしい存在として描かれているように見える。これがヒロインの
私の理解が間違っていなければ、『或る女』は、新しい時代の感性を備えた女性が、古い社会の因習に抑圧され、破滅するという話だったはずで、葉子はだから、近代的自我を体現する理想の女性であるはずだ。教科書的な知識と、その絵の薄気味悪さとのギャップに引き寄せされて、私はその日のうちに『或る女』を読み切ってしまった。
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