【6】

 その日の批評会は、松山の作品についての話が長引いたので、残りは後日ということになった。松山とは、帰りの電車が同じで、なんとなく一緒に帰ることになったのだけど、若干気まずい。

 「文芸部、結構厳しいんだね。もっとゆるい感じだと思ってた」

 できるだけ当たり障りのない話題を持ち出して場を持たせる。

 「仲澤がいるときはもっと大変なんだ」

 言われてみれば、文芸部の雰囲気は仲澤の授業にどこか似ている。授業での仲澤の質問は大抵いつも難しくて、なんとか答えを出しても、その後に仲澤から呵責のないダメ出しが入るので、国語の苦手な生徒は仲澤の現代文の授業は拷問のように感じている。実際のところ、仲澤を嫌ってる生徒は少なくない。

 仲澤はそれほど頻繁に部活に顔を出すわけではないらしいが、批評会に仲澤が加わるときは部室の緊張感が全く違うのだそうだ。喪服みたいな黒服に身を包んだ仲澤には、そういう独特の凄みがある。

 「仲澤の補習受けさせられてるようなもんじゃん、よく耐えられるよね」

 松山ほど仲澤と折り合いの悪そうな生徒もいない。

 「書き続ければ、必ず良いものを作れるようになるって、仲澤に言われた」

 そうまでして書きたいことが、松山にはあるのだろうか。だから、沙有里さんや佐倉さんの批判を必死で吸収しようとしているのだろうか。そう思うと、松山が少し、羨ましいような気もする。


 松山が電車を降りて、ひとりになった私は、自分も何かを書かなければならないのだということを思い出した。しかし、私には書きたいものがあっただろうか。

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