第4話 旅立ち

 気を取り直して、魔王討伐に向けて歩き出す勇者一行。先程の魔王スライムを討伐した所にまで進んで来ていた。


「はぁ〜。2人だけじゃ心細いわね。とりあえずアンタのレベルを早く上げて、スキルを振り分けましょ。」


「レベルとかスキルがあるのか? 不思議な世界だな……。因みにサラのレベルはどれくらいなんだ?」


 俺が聞くと、サラは胸を張って22レベルと答えたが、胸を張ったせいでサラの双璧が残念な事に気づいてしまった。

 俺の目線に気づいたサラが、顔を強張らせて睨んでくる。何も言ってないのに反感を買ったようだ。

 俺はサラの双璧まな板に触れないように、話を展開していく。


「22レベルか。他を知らないから、高いのか低いのか分からないな。……とりあえずレベルを上げてみるか。」


 レベル上げの話を持ち出してきたサラは、俺の言葉に頷いて、一緒に森の中に入っていく。

 森の奥に入っていくと、魔王スライムとは違う生き物と遭遇した。


「気をつけて! この魔物はハリトカゲって言うんだけど、スライムより強いわ。」


 ハリトカゲと呼ばれた魔物は、全長60センチくらいだった。そして背中には小さいトゲをいくつも生やしていて、尻尾の先端は針のように尖っている。

 俺は背中に背負った銅の剣を抜き、ハリトカゲと対立する。


 何分くらい経ったのだろうか。

 俺とトカゲは微動だにせず、互いに牽制している。

 

(そろそろ攻撃してくるか?)


 トカゲの攻撃に警戒をして、トカゲの目を見ていると、ある事に気づく。それはトカゲの目がパッチリと開いていて、とても可愛い事だ。

 

(よく見たらこのトカゲ可愛いじゃないか。普通にペットにしたい。)


「サラ、すまん。俺にはこのトカゲを殺す事が出来ない……っ!」

 

「何でよ!? 早く攻撃しないとハリトカゲが逃げるわよっ!!」


「それでも構わんっ! こんなに可愛いトカゲを殺せる訳ないだろっ!」


 俺の言葉を聞いたサラは、呆れた顔をして頭を抱える。

 すると、頭を抱えていたサラが何かを閃いたのか、急に目を光らせて俺に喋り掛ける。


「ハリトカゲは幻惑スキルを持っているの! アンタが可愛いと思ってるのはハリトカゲによる幻惑よっ! ……ウソダケド。」


 サラの言葉により、俺は剣を力強く握り直してハリトカゲと向き合う。


「この気持ちは幻惑だったのかっ! なんて恐ろしい敵なのだ……。だが、種さえ分かってしまえば俺の敵ではない!!」


 胸がズキズキと痛んだが、幻惑スキルのせいだと思い込んで、ハリトカゲに攻撃を仕掛ける。

 

「食らええぇぇ!!」


 俺は剣を大きく振りかぶって、ハリトカゲに斬りかかる。だが、ハリトカゲに剣を軽く躱されて、剣は思いきり地面に直撃する。

 思いきり剣を地面に当てた事により、手はジンジンと痺れていた。

 そんな俺に向かって、ハリトカゲは容赦なく尻尾を振り抜いた。


「ガハッ!」


 俺は腹部に鋭い痛みを受けて、吹き飛ばされる。刺された訳ではないので致命傷にはならなかったが、それでも凄まじい痛みが体を襲う。

 ハリトカゲは俺を吹き飛ばすと、そのまま森の中に走り去っていった。


「……ぷっ! ハッ、ハリトカゲにやられる勇者とかっ……。ぷっ……。あはははは!」


 サラは俺の事を指で差して、大声で笑っていた。俺は痛めた腹部を押さえながら立ち上がり、サラを見つめる。


 何分くらい経ったのだろうか。

 サラの笑いは未だに止まらない。

 すると、ハリトカゲの時とは別の感情が浮かんできた。




(やばい。コイツ殴りたい……っ。)


 ずっと笑ってるサラに対して、怒りの衝動を抑えきれそうにない。俺はプルプルと震える手を強く握りしめて、深呼吸をした。

 深呼吸をして、少しは落ち着つく事が出来たが、それでもサラに対する衝動は抑えられない。

 

 その後、深呼吸を繰り返して、ようやくサラに対する怒りの衝動は無くなる。

 俺は気持ちを切り替えて、サラに魔物探しを手伝って貰うように頼み込むのだった。


「サラ。いつまでも笑ってないで、次の魔物を探すの手伝ってくれよ。」


「あはは、はぁはぁ……。こんなに笑ったのは久しぶりね。良いわ。もう少し奥に行ってみましょう。」


 俺とサラは次なる魔物を探しに、森の奥に向かって歩き始めるのだった。

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