第2話 召喚された

 この世界には嘘と言う概念はなく、人々は嘘を言わない。その為、この世界では誰かを疑うと言う事はないのだ。


 例えば、あそこのカレー屋は美味いなどのタレコミがあれば行列が出来たり、最新の映画で泣けたなどの感想があれば映画館は満席になる。


 何でそうなるのかだって?

 それは“この世界に嘘がない“からだ。


 そんな世界なだけあって、普通のサラリーマンである俺(八雲正志やくもまさし)は最近タレコミのあったクレープ屋に並んでいた。


「絶対にストロベリー・デンジャラス・パフェを食べるぞっ!」


 そう意気込んでいると、目の前の景色が急に変わるのだった。


「……どこだここは? いまクレープ屋に並んでいて、ストロベリー・デン……」


〜〜1話の続きになるので略します〜〜






「ええええ!? 断らないで下さいよ! それに何ですか、そのストロベリー何ちゃらって食べ物は!?」


「いや。いきなり世界を救ってくれ! なんて言われても断るだろ。それとストロベリー・デンジャラス・パフェな。いきなり風景が変わったせいで食べられなくなったが……。」


「パフェの件はすみません……。そうですね。言われてみれば突然召喚されて、世界を救ってくれと言われても理解出来ませんよね……。うーん。では魔王が降臨してからの事をお話しましょう。」


 知らない叔父さんが魔王が降臨してからの事を語り始める。


「……と言う訳で、貴方にこの世界を救って頂きたいのですよ。」


「いや、無理。帰ります。」


「いやいやいや。お願いしますって! 貴方が人類の希望なんですよ!」


「はぁ〜……。わかりました。その代わり、その魔王を倒したら元の世界に帰してくれよ?」


 叔父さんが思った以上にしつこいので、渋々勇者になる事を了承する。


「ありがとうございます! それでは王様の元へ向かいますので、ついて来てください。」


 俺は叔父さんの後ろを歩き、周囲を見渡す。

城の中だと言うのに、壁にはヒビが入っていて貧相な感じだった。


(本当にこの世界の人間は窮地に陥ってるのかもな。)


 俺は少し考えを改めて王様の元まで歩いていく。この城は思ったより小さく、すぐに王様の元に到着した。


「おぉ! タクトよ。召喚魔法陣が成功したのだな。 後ろに居る見慣れない格好をした者が勇者であろう?」


「そうです! ランドロス王よ。長年の研究が実り、勇者の召喚に成功致しました!」


 この叔父さんはタクト。王様はランドロスと言うらしい。

 2人は少しだけ会話をしてから、俺の方を向いて話しかけてくる。


「勇者よ。そこのタクトに話は聞いていると思うが、この世界を救ってくれはしないか?」


 王様であるランドロスが頭を下げてお願いして来たので、流石に断れず了承する事になった。

 了承すると王様は自分の娘を呼んで来て、パーティーメンバーとして紹介してくれる。


「この娘はサラ。私の娘なんだが、冒険者としての実力は筋金入りだ。魔王討伐の手助けになってくれるだろう。」


 王様の娘は金髪の美女だった。見た目は良いが、少しキツそうな顔をしている。

 多分性格は悪いのだろう。

 そう思っていると向こうも察したのか、俺の顔を見て物凄く嫌な顔をしていた。


「私は嫌よ。こんな奴が勇者だなんて認めないわ!」


「サラッ! 初対面の勇者に向かってなんて口の聞き方を…。」


「だってコイツ……。私の体をイヤらしい目で見ていたんですもの。」


 どうやら俺の考えを見抜いた訳ではないようだ。確かに全身をひと通り見たが、ひどい言われようじゃないか。

 俺がサラに対して不満を募ってる間にも、2人の会話は続いていた。


「サラ、良い加減にしなさい。魔王を討伐しない限り、人類に明るい未来はないんだ! お前には勇者を補助する力があるんだぞ。」


「……わかったわ。お父様がそこまで言うなら、コイツと魔王退治に行ってくるわよっ!」


 サラは不貞腐れながら俺の腕を引っ張り、城の外まで歩いていく。


「はぁ。お父様は一度決めると、絶対に引かないから面倒なのよね。まぁいいわ。アンタが魔王を討伐するまで、私はこの町の宿で泊まってるわ。アンタは、早く魔王を倒して来てちょうだい」


 サラは俺を連れ出しといて、意味不明な事を言ってきた。


 何で意味不明なのかって?

 それは“八雲やくもに嘘と言う概念がない“からだ。



「サラと言ったな。何を言っているんだ? 魔王討伐に行くと言ったんだから、共に魔王を討伐しに行くぞっ!」


「は……? お父様には行くと言ったけど、あれは嘘よ? 本当に行く訳ないじゃない。」


「何を意味のわからない事を言ってる! 行くと言ったら行くに決まっているだろ!」


 俺はサラの腕を強引に引っ張り、町の外に連れ出した。


「え…? ちょっ! ちょっと待って!? いやあぁぁ離してええええぇぇ!!」



こうして無事にサラが仲間になり、八雲の冒険が始まるのだった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る