第14話戸惑い
(俺はどうしてしまったのだろう)
もう死んだ筈の両親に『キス』をしている。
ここは地獄なのか…俺は暗く思った。
だが体は勝手に動く。
服がビリビリになって、自分史上最高のボディがあらわになっている。
これはいけないとばかり、部屋の仕切りのカーテンを外し、体に巻き付ける。
お風呂上がりスタイルだ。
「タモツさん、ソファへどうぞ」
『父』が俺に優しく声を掛けた。
優しい父など何年振りだろうか…
いつも高圧的だった態度はなりを潜め座るよう促す。
『母』が座ったソファの隣に立っている。
母もおしとやかに見える。
やることなす事全てを否定し、父に追随するだけだった母。この母は…優しい?
「タモツ、落ち着いたかの」
向かいのソファに病没した筈の『祖父』が座っている。
祖父は跡取りが出来たとしきりに俺を可愛がってくれていた。子供の頃はよく膝に乗せてくれたっけ。
「死んだ皆、生き返ったんだね」
俺は言った。
すると祖父が顔を曇らせた。
「三回も蜂蜜酒を飲んだ人間は居ない…」
「蜂蜜酒?」
俺は返す。
「すまんなタモツ」
祖父は立ち上がると強烈に横っ面を殴った。それも顎を狙ったらしく骨の砕ける音と、酩酊した頭の脳みそが揺さぶられる。
そこで意識が一旦途切れた。
だが逆再生の様に骨はミシミシと接合され、酩酊した頭は少しイライラしながら覚醒していた。
「お祖父ちゃんがブツなんて」
「正気に戻らんか…」
祖父はそう言うと。
「転移」
何かを唱える。するとソファ等も消えて何もない砂地に自分が転がって居ることに気付く。
「二人とも、タモツから蜂蜜酒の酩酊が抜けるまで耐久するぞ!」
祖父が父母に言う。
「このままではどう転んでも破滅しかない。わしらで余分な力を散らすぞ」
「「はい!」」
「やっぱり皆は俺が嫌いなんだね」
俺は返す。何にも変わっていない。父母に虐待された過去も変わらない。
「俺が死ねば解決するのかな」
俺の中の心がそう言う。
「タモツ」
祖父が言う。
「これは生きる為なんじゃ」
祖父がみるみる巨大になっていく。
更に父には翼が生えていて、母に至っては手足が八本になっていた。
「皆人間辞めてるんだね。俺が殺したから復讐に来たのかな」
揺れる頭の中でそう思う。
「かあぁぁ」
父が素早く飛びかかる。
それを俺は片手で止める。
母は八本足を器用に漕ぎ俺の回りに砂嵐を作る。
「焼き尽くせ業火よ!」
巨大な祖父が口から火炎を吐く。
父ごと業火に焼かれる。
巻いていたカーテンが焼けて肌が露になる。
「やったな」
俺は片手で父を祖父に投げ飛ばす。
そして『数歩』で近付くと祖父に拳を振るっていた。
何度も何度も
祖父の『固い鱗』が弾けとんでも何度も何度も拳を打ち付ける。
「タモツさん正気に戻って!」
黒焦げの父が羽交い締めにしてくる。
「邪魔だよお父さん」
俺は軽く腕を振る。父は胴体から二つに割れた。更に地面が深く抉れる。
それを母が何とか受け止めて何かをしている。
「癒しよ」
母が言う。
父の胴体が繋がり火傷も癒える。
「邪魔ばかりして」
俺は指から光線を出して母の足を数本切断する。
「ぐっ」
母はそれでも父を癒す。
「いつも二人ばかりで俺の事なんて…」
俺は嫉妬を膨らませた。いつもいつもいつもいつもいつもいつも…
「いかん!」
祖父が巨大な翼を俺と父母の間に割り込ませる
「いつもいつもいつも!」
全身から魔力が溢れて父母を焼こうと炎を作り射出した。
その炎の連打を祖父の翼が受け止める。
「なんと言う憤怒!」
祖父は顔を歪めた。
翼がみるみるボロボロになっていく。
「隙有り!」
すると翼の影から父が飛び出してきて首に噛みつく。
「ドレイン!」
ぎゅぎゅと体の力を吸われる。
だが炎は急には止まらない。力が流出し続けて、今度こそ俺は意識を手放した。
「ようやっと止まってくれたか」
魔将軍は傷んだ翼をブエルに癒されながら言った。
「炎を司るレッドドラゴンの翼を破壊するなんて」
切り飛ばされた手足から鮮血を滴しながらブエルは言う。
「キロクよ、念入りに力を吸っておけ」
魔将軍は言う。
「彼…彼女、私達を家族と錯覚してましたね」
ブエルが言う。
「わしはタモツから悪の感情を感じとり、導いた。だがそれは悪逆無道の悪ではなく罪悪感の悪であったか…」
「彼女は本来なら倫理観は人並みにあった筈…少し読めた感情からは自棄を感じました。諦めと言うか」
魔将軍の翼を癒し終わってから自分の足を癒しにかかる。
「も、もう吸えませぬ…」
キロクが腹を擦りながら倒れこむ。
「取り憑かれておるなタモツ」
魔将軍はひとりごちた。
「わしらが神から与えられた殺戮衝動と同じ位重たいモノを…」
親とは子供を慈しむものではないのか…
大学に勤める講師でもある魔将軍は唸る。
大学に来る学生は大抵は親が学費を払う。
でなければ奨学金か…
自力で新聞奨学生を選び仕事しながら勉学に励む学生も一部居た。
(タモツは後者じゃったか)
奨学生。少なくとも親からの援助は無いようだった。
そして両親が死んだからか遺産を使って勉学するようになった。それから取り巻きが増えて、辟易している様だった…
(愛に飢えておったのか…)
魔将軍は己の見る目の無さに目の前が真っ暗になる。
(すすんで親を殺しはしないか…)
そこがモンスターと人間のわかりあえない境界線なのかも知れない…そう感じた。
ドラゴンから人間の姿に戻る。
そしてキロクに限界まで力を吸われぐったりしたタモツを優しくだっこする。
「わしがお祖父ちゃんか…」
魔将軍に親族は居ない。眷族は居るが…
「家族とは難しいな」
そして『転移』をする。
もう暴れ飽きただろうと願って。
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