第13話産まれなおし
「…生きるよ…」
俺は出来かけの声帯で答えた。
すると急にブヨブヨしていた体に芯が通る。
ビリビリと血で張り付いていた衣服が剥がれる。
頭はまだ酩酊しているが、体は出来上がる。
「これは…」
魔将軍がうめく。
「圧倒的な魔力量…何に生まれ変わったのだ?」
「ドラゴンと悪魔の匂いを感じますね」
体に触れているブエルが、ライオン頭の鼻をヒクヒクさせて言う。
「おそらくイビルドラゴン人形の亜種…」
ブエルが推測する。
「また女性なんですね…」
キロクがボソリと言った。
安田保♂はイビルドラゴン人形♀に転生した。
「まあこれで一安心…」
添えた手を離して屈んだ体勢から戻ろうとしたブエルに俺はいきなり『キス』をした。
「「!」」
魔将軍とキロクが驚くのが伝わる。
「ただいま。お母さん」
とろりとした声で俺は言った。
「お母さん…」
ブエルとは似ても似つかない姿。ブエルも面食らう。
新たなイビルドラゴン人形は人間に近い姿をしていた。
だがモンスターの特徴は如実に現れている。
燃える様な赤い長い髪に額にはヤギの角の様なモノが二本生えている。
瞳はオールドドラゴンの魔将軍から引き継いだのか金色で、皮膚の所々を覆う鱗は最強クラスのレッドドラゴンのそれだ。
だが元々が人間だからなのか、翼や尻尾は生えていなかった。
だが鱗で硬質な部分以外は人間より少し色素が濃いくらいで柔らかさもある。
キスをした唇なんてプルプルで気持ち良さそうだった。
「皆の声、聞こえてたから」
ブエルを解放すると、血を流した魔将軍の手首に触れて更に『キス』をした。
すると魔将軍の消費した魔力や傷が瞬時に癒える。
「!」
魔将軍は驚愕した。
治癒の魔法は本来は格上が使うから効果が強く出る。
治れ!と体に命令を下すのが簡単な治癒の魔法の仕組みなのだ。
(いとも簡単に癒すとは…)
それはオールドドラゴンである魔将軍より強力な力を持っている証拠でもあった。
同じことを思ったのか『十二魔』のブエルも驚きの顔を向けてくる。恐らくブエルも魔力を補填されたのだろう。
「お父さんただいま」
そう言って祈りの体勢のままのキロクに俺は優しくハグをする。そして『キス』をする。
キロクにはてきめんに効果が有ったようだ。
人の形を保ってはいたが回復した訳では無かった。
だがこの強制的な癒しによってキロクは十全に回復した。
キロクも驚愕の表情を向ける。
イビルドラゴンの保以外の三者は共通の認識を持ったに違いない。
四天王は言わずもがな、現在のモンスターのトップランカーである。
それぞれが種族を従える王の立場だったり、一人で都市を壊滅させる力を持っていたりと、他の追随を許さぬ実力者揃い。今は四天王から外れては居るが魔将軍は元々四天王。更に最初期の神の落とし子。現在のモンスターの生き字引。ドラゴンの最強種レッドドラゴンの更にオールド。
十二魔とは四天王のすぐ下。その手足となるランクである。
主に種族の王に認められた者や単独で十分に役目を果たせる実力者揃い。キロクはヴァンパイアのロード。ノーブルには及ばずとも人間では貴族に列せられる階級だ。
ブエルも癒しに特化していると言うことは圧倒的魔力量を持って相手を強制的に癒す圧力を持つ上位悪魔だ。
それらに命令形式の筈の癒しをすんなりと与えることが出来るのは…
『新たな王』
の誕生かもしれなかった。
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