第5話魔将軍の講義
食事を食べ終えた俺たちはケイが占領した城の城下町を歩いていた。
腹ごなしである。それと『講師』からの講義も含まれる。
「ルーキー…いやタモツ。人間の都市は味気ないなぁ。まず戦う事を考えた…籠城する様に出来ている」
「はあ」
安田保、現在オーガ♀の俺は答えた。
「食事は旨かったりするんだがなぁ」
石畳を城に向かいながら歩く。
「確かに美味しかったですけど、モンスターって料理出来たんですね」
「旨い飯は士気に関わるからな。出来るだけ料理には力を入れている」
「意外と普通なんですね」
「闇のサイドは野蛮だと思ったかね?」
魔将軍は心外とばかりに言う。
「闇のサイドって言ってますけど、じゃあ光はどうなんですか?」
俺は疑問に思っていた事を言った。
「まあそうさな。説明していなかったな。何せ此方の世界に来て数日、説明不足か」
ゴニョゴニョと魔将軍は口を動かす。これは大学にいる時からのこの講師の癖だ。
少し考え事が有ると口がゴニョゴニョする。
(どこから見ても人間の先生なんだよなぁ)
俺は思う。
魔将軍は人間の姿をしている。よくあるスーツに身を包んだ四十絡みの見た目。中肉中背、悪く言うと特徴がない。
なので関係有るか分からないが受け持ちのゼミもパッとしない。
教えるのが下手…なのだ。
それはそうかと今なら思う。講師は人間ではなくモンスターだったのだ。人間の学問に明るいとは考えにくい。
その割には頑張っていると思う。四天王だったとヴァンパイアロードのキロクも言っていた。ポテンシャルが高いのか努力家なのか…分からないが。
「よし。では軽く講義をしよう。闇と光についてだ」
魔将軍は横を歩きながら言った。
「まず人間とモンスターと言われて居るが、両方とも大抵は生物じゃ。違いは生態系かの。
一番の違いは信仰する『神』が違う。だから加護も違うし考え方も違う」
「神って居るんですか?」
「勿論実在している。故に我等は人間より頑健で魔力も高めじゃ」
「人間より強いと?」
「いや、それは早計じゃ」
話し方が老けていっている。此方が素なのかな等と思う。
「人間は神に繁栄を約束されておる。故に数が多い。更に神から特別な力を授けられた『勇者』なる者も居る。侮れん」
「勇者…」
初めてキロクにこの世界に連れてこられた時に出会した。確か光の勇者ワタル…だったか。
「光の神は繁栄を約束するので人間に甘い。更に際限無く増えるものだから仲間での戦争も多い…そこが欠点か。だから考えた。
『人間以外に敵を作れば良いじゃない』と」
「うわ、身勝手…」
「じゃろう?
更にわしらモンスターの産みの親は実は闇の神ではない。人間の神なのだよ」
魔将軍は少し苛立って言う。
「わしらは『殺される』為に光の神に作られたのじゃ…」
「そんな残酷な…身勝手で…モンスターが産まれた…」
「そうじゃ。始まりのモンスターは知力も無く、人間を襲う様に作られた。
じゃが捨てる神あれば拾う神あり。我等の『神』の登場よ。
神は我等に理性と知性を与え、頑健な肉体や魔力も下さった。
じゃが繁栄を司っている神では無いので人間より数は少ないがね」
「奇特な神様も居るんですね」
「そうしたら光の神は異界から才能の有る人間を召喚し、加護をこれでもかと与えた。
モンスターの産みの親はわしらを殺される存在としか見ておらん」
悲しいことよと魔将軍はため息をついた。
それはそうだろう。産みの親は殺される存在としてモンスターを作った。今は継母が守っている状態だ。
「所で勇者はそんな事情を…知らないですよね…」
キロクに敵意を向けていたのを思い出して言った。
「勿論知らん。モンスターは人間を全滅させる悪とでも言われておるじゃろうなぁ。何せ産み出された当初は人間を無差別に襲ったのは事実じゃから…」
既成事実が出来上がっていた。
「先生は俺を勇者にしたいと言っていましたが…」
坂道を登る。
「そう、それじゃよ。神は奇跡をくだされた。それが『黄金の蜂蜜酒』じゃ。
だが人間にしか効果がないと言う特性が有るがね。更に並みの人間は飲めば発狂する」
「そんな危ないモノを俺に二回も飲ませたんですか!」
「だってまさか種族を変えたいと言うとは思わんかったのじゃ。じゃがタモツ、お主は耐えると思っておった。何せこちら側に近い精神を感じたからの」
「人殺しだからですか」
俺は自虐的に言った。
「それもある。じゃが殺す前には『耐えた』筈じゃ。わしらは忍耐に重きを置く」
魔将軍はこれは私見だが…と前置きする。
「黄金の蜂蜜酒は人間にしか効果がない。それは人の心を持ったモンスターを生み出すと言うこと。わしらの神は人間を理解し和解を求めておるのかも知れぬ」
理想論だがと頭をかいた。
「それに黄金の蜂蜜酒は強力なモンスターに人間を変える。お主は蜂蜜酒の影響か精神がお花畑じゃが、時が経てば勇者にも対抗し得るとわしは思っておる。何せ成長出来るのだから」
そんな話をしているうちに城にたどり着いた。
「オーガの姫君!」
待っていたのか、兜のバイザーを上げて素顔の萎びた玉ねぎを小脇に抱えたデュラハンのケイが声をかける。
「さあ、講義は終わりじゃ。続きは次の機会に。ではの」
魔将軍はケイと挨拶を交わして先に城に入って行った。
「姫君。我等に加勢してくださり感謝します」
ケイは礼を尽くす。
「いや、まあ」
惚れた成り行きでとは言えない。今は惚れてないが。
「では我等の会議にご臨席頂きます」
「はい?」
そんな重要な物に元人間が出て良いの?
そう思った。
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