第4話魔将軍は先生

「先生」

俺、安田保は先生こと魔将軍様に問いかける。


「どうした」


「どうして俺は♀イコール女子に変化してしまうんでしょうか?」

一回目はヴァンパイア♀、二回目はオーガ♀。人間時代の性別は♂。


「それは多分同族嫌悪かもしれないなぁ」


「同族嫌悪?自分は男ですが」

俺は反論する。


「ルーキーは学校で外面付けてたら女子に囲まれただろう?」


「あれは打算と下心の問題です。皆俺が小金持ちなのを知ってますから…たかられない様にアンニュイやメランコリックで居ただけで」


「ワシからしたらルーキーも打算的ぞ。両親毒殺しても親戚は離れて行かなかったろう。人間的な魅力も有るのではないか?」

人間姿の魔将軍が眉根に皺を寄せて言う。


「女子の打算的な部分にフォーカスしておるから、お主の中の女性的な部分が出てきたのではないか?」


「でも酷い扱いも受けますよ。男子はたかりに来ませんでしたが女子はしきりに泊まりたがったり、『私フルーツのヨーグルト好きって言ったじゃん、用意してないの?』とか。彼女ですら無いのに…」

実際辟易していた。それでやらかしたと思った女子が『男子を連れて』『謝罪』に来たことがあった。

『貴方を傷付けてしまったのを謝りたいの』

(謝罪なら手土産かせめて一人で来い…)

『ほら、女子が泣いて謝っとるのにお前は道路に立たしとるんか?』

(うるさい。利用されただけの癖に)

それで行きつけのパスタ屋に入った。

そこにも女子は男子を連れてくる。

『私赦されたいの』

(我が身可愛さか)

『此処で赦さんかったら男やないで?』

(うるさい番犬が)

食事も頼んだが段々頭と胃が痛くなってくる 。

そして男子が恫喝を繰り返し女子は泣き真似を繰り返した。

(大した謝罪だなぁ)

俺は結果謝罪を受け入れた。

受け入れざるをえなかった。

もう頭も胃も限界だった。

店のトイレで吐いた。

それで三人ぶんの会計を済ませ、体調不良を理由に退席した。

奴らは二人で笑って盛り上がっていた。


理解に苦しんだし、胃痛は持病になった。

女子との確執はそれだけではない。面と向かってブランド品をねだられた時も有った。


(俺に理解できるのか?)

甚だ疑問だった。


だが今では闇のサイドで女子をやっている。


「しかしお主は惚れっぽいノォ」

魔将軍が言う。


「ですよね」

自分でも自覚はある。

だけれど理解できない。何故に惚れるのか。

しかも元男なのに男に惚れるとは…


「黄金の蜂蜜酒の影響かのぉ」


「そんなにやばい副作用が有るんですか?」


「普通の人間は姿がモンスターに変わるだけでも発狂する者もおる。精神が付いて行かんのよ」

そこで区切る。


「じゃがルーキー、お主みたいに人間の一線を越えた者は耐える事が多い。そして人間のタガを外してモンスターになる。お主の性別を越えた惚れっぽいのはタガが外れた結果かも知れぬな」

先生をやっているからか親身に聞いてくれる。モンスターのが人間より親切ってどうなの?



「お待たせ致しましたご注文の料理です」

魚人のモンスターマーマンがガチャガチャと音を鳴らして料理を運んでくる。


此処は先日ケイが落とした城である。

籠城用に食材も溜め込んであったから有りがたく頂こうと言うわけだ。


「モンスターは人間を食べるんだと思ってました」

素直にそう言う。


「人間は雑食性で肉が酸っぱい。食用には向かん。だから我々闇のサイドは専ら身代金目当てで捕虜にする。それに人間の食事は旨い。だから絶滅も考えておらんよ。まあ獣タイプのモンスターは肉なら人間も食べるが…」


「穏健なんですね」


「人間が血の気が多すぎるだけよ」

魔将軍はため息を付いた。


「では早速頂くとしよう」

料理はベーコンたっぷりのパスタにジャガイモが付いてきた。


「パスタかぁ」

また嫌な思い出が鎌首をもたげる。


「なんじゃ、また湿っぽい話か」


「いえ、食事を楽しみましょう」

強引に話題を戻す。

料理はモンスターが作ったとは思えない程美味しかった。胃痛も起こらない。

オーガの体は丈夫なようだ。


窓の外を見る。

縄をうたれた人間達が列をなして歩いている。

これから牢屋に向かうのだ。でも最低限小麦ふすまのパンと塩と水は出されるらしい。

牢屋に入るのも兵士達だけで住民は軟禁状態で済むそうだ。

闇のサイドの規律は中々に整っていた。


光のサイドの人間達がモンスター全滅を掲げて居るのとは大きな違いである。


パスタにジャガイモを食べていると食中酒も運ばれてきた。ミディアムボディの赤。まだ若いが果実の風味が感じられてかえって良かった気がする。

先程のマーマンがギャルソンの様にグラスにワインをそそいでくれる。

(結構格好いいなぁ…)

また惚れそうになる。今回は意識していたのでときめきは起きなかったが…


食後に魔将軍が言う。

「まあ蜂蜜酒は人間に絶大な力を授ける。その副作用として性別と惚れっぽさには暫く目をつむろうではないか」


「考えてみます」

食事で満腹になったからか気分が落ち着いている。

女子の気持ちを知るのも良いのかも知れないと思うことにした。

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