姉の回想 3
――ちりん。
足音を忍ばせているつもりでも、いけない、自然に足取りも弾んでしまう。
「んふ、んふふふ……」
いけないいけない。ゆるゆるに緩み出しそうな口許を必死に抑えながらあの子の部屋を後にする。今のわたしの表情、リッちゃんが見たら、トコちゃん悪いものでも食べたん? と露骨に不審な顔をするだろう。
いつかお父様から頂いた大好きな詩集。わたしの一番の宝物。
これがわたしからの、あの子への恋文。今のわたしにできる精一杯の冒険。
こっそりあの子の部屋に置いてこようと忍び込んで見つけたのは……。
(ひゃあああ……!)
これは、もうあれしかないだろう。
だって、好きでもない女の子の写真を、あんな風に大事そうにハンケチに包んで机の引き出しに忍ばせておくわけないじゃない!
これはもう、渡す前から恋文の返事をもらったようなものだ。
人目を忍びながら離れの自室に戻るのだけれど、弾む足取りはどうしようもない。
ああ、もう。今夜は眠れないよう……っ!
――ちりん。
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