第10話 ヴァイデンライヒ騎士団。
――――ヴァイデンライヒ帝国騎士団。
大国である帝国の守護の要である。
時に敵対する者を迎え撃つ矛となり、堅牢な盾となり、永きに渡り帝国を守護してきた。
ヴァイデンライヒ帝国に、帝国騎士団あり。
これだけで周辺諸国は帝国に伏す、そんな圧倒的な存在力があった。
しかし、それはもう過去の遺物。
愚帝に代替わりした時、いや、もう少し前から帝国の衰退と共に心中する運命であったかもしれない。
愚帝の散財が酷くなるに比例して騎士団の予算は縮小の一途を辿る。
潤沢な予算があった事で実力を持たない貴族令息を所属させる事を突っぱねて来れた騎士団も、予算が無くなれば運営していく為に稔侍を曲げなければならなくなった。
実力第一主義であった騎士団の筈が、いつの間にか重要なポストに実力も何もない無能な貴族令息が座る。
ただ金さえ詰めば栄えある騎士団へ入団可能になる。
実力者は無能達の嫉妬からくる横暴に耐え切れなくなり続々と騎士団を去って行った。
じくじくと内部から腐敗していく帝国、傷からは膿がだらだらと垂れ続ける。
そんな腐敗が進んだ国などに、真に優秀な人間は残らない。
去った者たちは、そのまま実力が物を言う傭兵になるか、他国へ亡命するか。
流出した貴重な戦力達は帝国に留まる事なく、国とは一切関係のない他へと流れ続けた。
僅かな有能の者と、多数の無能が帝国の中心を蹂躙する頃には、他国の間諜も入り放題で内部を荒らした。
武力り繁栄してきた帝国から剣と盾が消えていくことは、周辺諸国へ帝国の衰退を知らせる事となった。
燻っていた戦火がの狼煙が上がり始める。
―――もう耐えられぬ!
シュヴァリエが吠え、立ち上がる。
これ以上一刻の猶予もならぬとシュヴァリエが反旗を翻し、帝国を掌握した。
此度の新皇帝の即位によって、一度流出した帝国民は戻ってくるのか。
シュヴァリエは新皇帝に即位する前であったにも関わらず、己の身の安全も顧みる事なく、新皇帝に即位する自分が直接交渉しようと忙しく駆けずり回った。
本気の熱意を人伝ではなく、自分でぶつけ戻ってきて貰うつもりである。
皇帝の椅子に座る事を決意したのも、世界に散った優秀な帝国民を呼び戻すという思いが少なからず後押ししたのもある。
かつての様な栄華を極める為には、優秀な力はいくらあってもたりない。
帝国という巨大な船の舵取りには、智も武も等しく必要なのだ。
シュヴァリエは奢る事はない。
何故なら幼い頃から見て来た、帝国の皇帝の姿を理解しているからだ。
皇帝を継ぐ者としての証を所有していても、その証だけでは帝国ではただのお飾り扱い。玉座に座りただ頷けばいいとだけ言われるようになるのだ。
そんなもの愚帝であった先代の皇帝と何ら変わらない。
血統を重んじている癖に、その血統はただ血を繋ぐというだけで発言力も無いのだ。
力の無い皇帝など、即位して少し経てば家臣は忠誠を誓うポーズだけ見せたら、あとは気付かぬ内に傀儡として扱われるだけだと知っている。
シュヴァリエには先帝には無かった、武の強さと魔力がある。
気に食わなければ、力で捻じ伏せる事だってできる。
捻じ伏せる事より、消す方が手っ取り早くて好きではあるが、消してばかりでは貴族が居なくなる。
武だけではダメだ叡智も必要なのだ。
シュヴァリエという新しい旗印に変わる今、その旗に集うかどうかは、己の力量のみ。
その要として、流出してしまった元騎士団員達を取り戻したい。
かつて帝国の貴重な戦力だった彼等を、在るべき場所へと戻すのだ。
戻り次第、愚かな父が皇帝の椅子にのうのうと座ってる間に、
散々舐めてくれた周辺諸国を黙らせてやろう。
帝国に頭を垂れさせ、二度とその伏した頭を上げれぬようにしてやる。
このヴァイデンライヒが所有する、広大な領土の例え1欠片であったとしても、
周辺諸国のハイエナどもにくれてやる気はないのだから。
ヴァイデンライヒの騎士団の組織図は、騎士団総長を筆頭にすぐその下に副騎士団総長と順当に続き、そこから、4つの組織に分かれる。
黒の騎士団、青の騎士団、白の騎士団、近衛騎士団の4つ。
それぞれに優秀な団長を頂きに、お互いが「我が団こそがこの国一番」だと主張している。
そしてもうひとつ、帝国が管理はしていないが、有事の際に介入する権利を有している聖騎士団もある。
聖騎士団においては教会の管轄なので、ヴァイデンライヒ騎士団と呼ぶべきではないだろう。
仕えているのも皇帝ではなく、枢機卿に忠誠を誓っている。
それでも帝国に席を置かせて貰えるのは、有事の際は介入しても良いという事だからだ。
何かあれば力を貸す代わりに、場所を貸して貰っているという事だ。
聖騎士団は、女神教を信仰する教会の手となり足となっている。
時として血生臭い噂話が流れる。
聖なる騎士とはこれ如何に。
ヴァイデンライヒ国にとって、味方の数に入る事はない。
「もっとこの国の事知りたいなー。」
誰に語るでもなく呟く。
5才児といえど姫なんだから、自国の事もっと詳しくプリーズなのだ。
王宮内にある書庫へ入る許可も出ないし…
そういう許可はお兄様が出してくれるらしいけど、
そもそもお兄様ずっとこの国に居ない。
いつ帰ってくるんだろう。
そもそも戴冠式も近いのに、どこほっつき歩いてるんだ、全く。
聡明な皇子じゃなかったのか。
放蕩皇子じゃん。
近々日程を決めて訪問予定の、騎士団の鍛錬場。
慰問っぽくして何か差し入れを持って行くのもいいかもね。
鍛錬で疲れた身体に甘い物どーぞーって3人娘に配らせてさ。
それ、いいかも。
そういえば、この国の騎士団ってどんな位置づけで、どんな組織なのかな?
見学希望した訳だし、知識はあった方がいい。
こんな時は、いつもの様にアンナ達に尋ねるのが早い。
ヴァイデンライヒ騎士団は大所帯で、4つの騎士団を運営しているという事を、アンナから説明を受ける。
4つの騎士団合わせて何人いるんだろう。
鍛錬場で千人単位居たら、凄すぎるんですけど…
鍛錬場は上位の騎士達で百人程度だそう。
それより下の者達は、もっともっと広い場で専任の監督の様な人が居て鍛錬しているそうだ。
鍛錬場に百人―――そんなに人数が居るなら、イケメンも豊作だろうな……
基本的に騎士団に関しは、邪な考えしか抱いてないクラウディア。
暇な皇女であるクラウディアは、縁結びに興味津々なのだ。
3人娘の恋の相手に相応しい、とびっきりの人を選ばなくてはと張り切っている。
本音は、イケメン騎士と美人メイドの恋物語、それも三部作。
いい暇潰しになりそうだと、ニヤニヤが止まらない。
そこにクラウディアの油断があったのか、その手の話題なのにアンナに聞いてしまう。
確実に聞く相手を間違えた。
澄んだ水の如く清らかなアンナは、恐らく下世話な話はお気に召さないというのに。
「アンナ、騎士団って美形と筋肉の集まりだよね?アンナ的には誰が一番好き?」
などと聞かなければよかった。
「そんなの知りません。姫様?騎士団へは護衛の選定も兼ねてるんですよね?
遊びでありながら遊びではないんですからね。いいですか?」
アンナが半目で私の見学目的を怪しんでいる。不味い。
清らかな乙女のアンナは諦めて、キャッキャウフフの3人娘にリサーチした。
3人娘達曰く――――
4つの団を比べての気になるイケメン率は、聖騎士団と白の騎士団が多めとのこと。
近衛騎士団は見目の良さが別格で神々しいので選択肢にでないらしい。
黒の騎士団は剣技に長けた者が多いことから猛者が多く、鋼の筋肉が盛り上がるムッキムキが多く所属しているので、イケメンとはちょっと毛色が違うと。
ココで謎に思った聖騎士団の話を聞いて、危険な存在だということを知る。
イケメン率高くてもヤバイ集団なら近づかない方がいいよね。
3人娘もそんな怖いとこに所属してるイケメンなんて紹介できやしないし。
そもそも私の護衛は近衛騎士団からしか選べないからいいんだけど。
選ぶ予定の近衛騎士団は、勿論断トツにイケメン揃い。
流石!花形の近衛騎士団。
黒の騎士団は剣技に長けた者が多く在籍し、青の騎士団は魔法剣士っぽい人が多く在籍してるそうだ。
攻撃呪文に特化した魔道士タイプも青の騎士団に所属するらしい。
白の騎士団は、白という清廉なイメージだけに回復魔法や精神異常回復魔法、または各種強化魔法などのサポート魔法に特化した魔道士が所属。
近衛騎士団はそんな4つの団の中でも、更に極めた人らが所属する事が出来る。
元々の見目の麗しさを持っている事が最低限で、また王族を常に日頃護衛するという大役がある為、飛び抜けて美しく、しかも強くないと所属出来ない。
強さに見目の良さは関係ないけど、他国の者がこの国に来た時の箔みたいな物らしい。
良くわかんないけど、美しさパワーで他国の思考を鈍らせる的なヤツとか?
と、適当な理由付けをしてみた。
ここに引っ越した初日、私はそんな4人に護衛して貰ったのか…もっと色々観察しとくんだった。
勿体ない事した。
年に一度、全ての騎士団員を集めて剣技大会が開かれるという。
そこでの上位5名が、栄誉ある称号を1年間与えて貰うそうだ。
賞与の他に、毎月の給金が倍に上がるとか、騎士団寮の最上階の豪華な部屋を与えられたりする。
翌年5位以内から転落すると追い出されるので、シビアだ。
ここ数年は同じ顔ぶれが五位までを独占してると聞いた。
私の「騎士団見学」は明日に決まった。
アンナには内緒だけど「騎士団見学」ではなく「イケメン見学」である。
今からとっても楽しみ。
勿論、3人娘も連れて行く。
キャッキャウフフがしたいから。
じっくりイケメン観察をして、3人娘に相応しいイケメン騎士達を護衛に選ぼう。
待っててね、イケメン達!
楽しみ過ぎて寝れないかもーーっ!と心の中で悶絶した割に、あっさり寝れた。
転生しても、遠足前日にも即寝出来た図太さは健在のようである。
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