第9話 姫って退屈すぎない?

 5才の姫の一日というのは、退屈だ。

 幼すぎる事から、皇女としての教育もまだ始まっていない。

 女官であるアンナからはマナーについて時々説明を受けるけど、

 それを守らないからといって厳しく窘められる事もない。


 基本的には自由だ。外出以外は。


 貴族の淑女としての嗜みってなんだっけ…?

 ハンカチとかに刺繍とか?

 暇だし前世でも齧ってた手芸を再開するのも悪くないか。


 そんな軽い感じで思って提案したら、

「姫様はまだ5才です。早期教育だとしても7才くらいから始めるのが普通です。

 針は刺すと痛いんですよ、血が出るんですよ?今はダメです。」

 目を三角にして注意された。

 ナゼ。


 ――――アンナ、過保護過ぎない?


 刺繍がダメならどれがいいかな。

 ………………思い浮かばない。

 花を生けたりとか…?

 前世のお嬢様とか生け花とか習うものだよね?

 後は日本舞踊とかさ。


「アンナ、今日は花を生けてみたいと思います。」

 キリッとした顔でアンナに話す。

「姫様……花を生ける事が仕事の者が王宮には居ます。

 その者の仕事を奪わない範囲でしたら、いいですよ。」


 プロが居るんだ。凄いね。フラワーコーディネーターってヤツ?

 王宮という格式ある場所に生けてるのが、ド素人の姫の生け花っていうのも…

 ダメでしょ、絶対。

 そこは分かってるよ、アンナったら。


「勿論よ!私の宮だけでいいの。何なら寝室だけでも……

 いやアンナの私室にも生けたいけど。

 ………ダメ?」


「姫様に花を生けて貰える私は幸せ者ですね。光栄です。有難うございます。」

 アンナはキラキラした笑顔で笑ってくれた。


 月の宮の庭に咲く花を、庭師が数種類剪定して持って来てくれた。

 小さな蕾の白とピンクのミニ薔薇、ピンクと黄色のガーベラ、白、ピンク、青、紫のデルフィニウム、紫のラベンダー、白のクレマチスなどなど。


 優美な花瓶に生ける花を選び、アンナが指定した長さに剪定バサミで切ってくれる。

 私は先にアンナの私室に飾る花を選んだ。

 白のミニ薔薇、白のクレマチスを中心に生けて、差し色は青と紫のデルフィニア。

 癒やしの香り漂うラベンダーも数本混ぜる。

 落ち着いた大人っぽい雰囲気に仕上がった。


「出来た!これアンナの私室に飾って!」

 既にやりきった感いっぱいで、自分の寝室のはどうでも良くなっている。


「姫様…素敵です、有難うございます。」

 薄っすら涙目で感謝してくれるアンナ。


「どういたしまして。花は癒やし効果があるよね?

 いつも私の事を大事にしてくれて有難う。

 これを見て少しでも癒やされたら嬉しいな。」


 照れくさくて早口で捲したてる様に話す。

 アンナの瞳に薄っすらだったけど、今や表面張力だけで保ってる状態だ。


「あ!泣かせたくて花を生けた訳じゃないよ!

 アンナ泣かないで!」


 慌ててアンナに縋り付くクラウディア。


「これは……嬉しいから…出る涙なので、いいのですよ。」


 スンっと鼻を啜って、宝石の様に輝いてた涙を指で拭う。


「さあ、姫様の寝室のも生けましょう」


 ――――え、めんどくさい。


 そう思った私は悪くないと思いたい。


「じゃー、私のは勿体ないから、残ったお花全部入れる!」


 ごちゃっと色が混ざってるけど、悪くない。


 アンヌは思わず顔を顰めそうになり、スッと表情を消した。


「…姫様のそういう所は、いいのか悪いのか…。これからの教育次第ですわね…」

 小声で呟くアンナ。


「悪くないよね、いい感じだわー」

 と、棒読みで自画自讃しながら花を眺める私には聞こえなかった。

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